「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・暗星譚 6
シュウの話、第98話。
追跡と侵入。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「あれは何だッ!?」
依然として鬼神のような形相で怒鳴った海斗に、兵士がしどろもどろに答えた。
「た、多分、アルテアかも……。基地内の装甲車とか戦闘用の車輌はアルテアの司令権限がないとエンジンがかからないようAIに管理されてるから、こんな時にすぐ乗れるのは、多分……」
「逃げたか……! おいジャンニ、あれを追えるか!? あの中に基地司令がいる!」
インカムで呼びかけ、すぐにジャンニが応答する。
《おう、任しとけ! すぐ捕まえたる!》
「頼んだ! ……っと、おい、カイト! 行くな!」
エヴァが気付いた時には既に、海斗はトンネルに向かって駆け出しており、仕方なくエヴァも、海斗の後を追っていった。
「ひぃ、ひぃ……」
慌てて基地を飛び出したスーツ男――ヘラルドは闇雲にアクセルを踏み、山道をひた走っていた。
「なんなんだよ……くそっ……『偉そうにふんぞり返って上からの指令をハイハイ聞いてりゃいいだけの簡単なお仕事』なんて言ってたのに……話が違うじゃないか、父さん……くそっ……なんで僕がこんな目に……」
と、後方モニタに紫色の光が映っているのに気付き、ヘラルドは「ひっ」と声を上げる。
「な、なんだよ……なんだよあれっ」
つぶやいた問いに答えるように、声が飛んでくる。
《そこの装甲車、逃げんな! 停まれッ!》
「ひっ……」
つられて、ヘラルドは急ブレーキをかける。砂利道の上でそんな乱暴な運転をされては、6輪車のLAVといえどもコントロールを失ってしまう。LAVは砂利道の上で右に90度曲がり、道端の木々が眼前に迫ってくる。
「うわっ……!? と、止まれ、とまっ……」
すっかりパニックになったヘラルドは、ハンドルを思いっ切り反対方向に切り返してしまう。当然LAVはぐるんと左に急転回するが、勢いがついた車体はそのまま進行方向に向かって横回転し始めた。
「ぎゃあああ……っ!?」
LAVはごろごろと転がり続け、道を外れ、森に突っ込み、木にぶつかったところでようやく停止した。
基地内に侵入してすぐ、海斗は息苦しさを覚える。
「う……」
動揺と怒りで呼吸が荒くなっていたため、すぐに海斗は膝を着いてしまう。
「粗忽者」
と、顔をぐい、と上に向けられ、無理矢理マスクを付けさせられる。ほどなく呼吸が落ち着き、そこでようやく海斗は、同じくマスクをかぶったエヴァと目が合った。
「無策で敵陣に潜入する奴があるか。君は本当にプロか?」
「美園が危ないんだ。冷静になんてなれないよ」
「ならなきゃただ野垂れ死んで終わりだぞ。姉を助けたいなら、自分が生きてこそだ」
「……反省するよ」
エヴァに手を貸してもらいつつ立ち上がり、海斗は改めて基地内を見渡した。
「もう人はいなさそうだね。こっそり進まなくて良さそうだ」
「そうだといいがな」
思わせぶりな返事をしたエヴァに、海斗は「どう言う意味?」と尋ね返す。
「基地はAIに管理されていると聞いている。正直、私だってAIなるものがどう言う理屈で動いていて、どのくらいの働きができるのかなんてことには詳しくないが、既に今現在、AI管理下にあるいくつかの施設は、それら施設の目的・役割を全うできる程度に機能している。……らしい」
「らしい……って」
「実際に見聞きしたわけじゃないし、情報源のほとんどは白猫党内部で交わされた文書や通信記録だ。内向けに誇張や粉飾がされていてもおかしくない。……が、事実としてこの基地にいたMPSはAIで制御されていた。となれば丸っきりウソや出任せとも言えないだろう。もしかしたら本当に、アニメやSF映画のような完全自律AIが存在するのかも知れん」
「まさか」
そう答えつつも、海斗も内心では、彼女の言葉をきっぱりと否定できずにいた。
(……確かに、妙な感覚がある。エヴァさんと僕しかいないはずなのに――四方八方からじーっと見つめられてるような、気持ち悪い雰囲気が漂ってる)
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追跡と侵入。
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6.
「あれは何だッ!?」
依然として鬼神のような形相で怒鳴った海斗に、兵士がしどろもどろに答えた。
「た、多分、アルテアかも……。基地内の装甲車とか戦闘用の車輌はアルテアの司令権限がないとエンジンがかからないようAIに管理されてるから、こんな時にすぐ乗れるのは、多分……」
「逃げたか……! おいジャンニ、あれを追えるか!? あの中に基地司令がいる!」
インカムで呼びかけ、すぐにジャンニが応答する。
《おう、任しとけ! すぐ捕まえたる!》
「頼んだ! ……っと、おい、カイト! 行くな!」
エヴァが気付いた時には既に、海斗はトンネルに向かって駆け出しており、仕方なくエヴァも、海斗の後を追っていった。
「ひぃ、ひぃ……」
慌てて基地を飛び出したスーツ男――ヘラルドは闇雲にアクセルを踏み、山道をひた走っていた。
「なんなんだよ……くそっ……『偉そうにふんぞり返って上からの指令をハイハイ聞いてりゃいいだけの簡単なお仕事』なんて言ってたのに……話が違うじゃないか、父さん……くそっ……なんで僕がこんな目に……」
と、後方モニタに紫色の光が映っているのに気付き、ヘラルドは「ひっ」と声を上げる。
「な、なんだよ……なんだよあれっ」
つぶやいた問いに答えるように、声が飛んでくる。
《そこの装甲車、逃げんな! 停まれッ!》
「ひっ……」
つられて、ヘラルドは急ブレーキをかける。砂利道の上でそんな乱暴な運転をされては、6輪車のLAVといえどもコントロールを失ってしまう。LAVは砂利道の上で右に90度曲がり、道端の木々が眼前に迫ってくる。
「うわっ……!? と、止まれ、とまっ……」
すっかりパニックになったヘラルドは、ハンドルを思いっ切り反対方向に切り返してしまう。当然LAVはぐるんと左に急転回するが、勢いがついた車体はそのまま進行方向に向かって横回転し始めた。
「ぎゃあああ……っ!?」
LAVはごろごろと転がり続け、道を外れ、森に突っ込み、木にぶつかったところでようやく停止した。
基地内に侵入してすぐ、海斗は息苦しさを覚える。
「う……」
動揺と怒りで呼吸が荒くなっていたため、すぐに海斗は膝を着いてしまう。
「粗忽者」
と、顔をぐい、と上に向けられ、無理矢理マスクを付けさせられる。ほどなく呼吸が落ち着き、そこでようやく海斗は、同じくマスクをかぶったエヴァと目が合った。
「無策で敵陣に潜入する奴があるか。君は本当にプロか?」
「美園が危ないんだ。冷静になんてなれないよ」
「ならなきゃただ野垂れ死んで終わりだぞ。姉を助けたいなら、自分が生きてこそだ」
「……反省するよ」
エヴァに手を貸してもらいつつ立ち上がり、海斗は改めて基地内を見渡した。
「もう人はいなさそうだね。こっそり進まなくて良さそうだ」
「そうだといいがな」
思わせぶりな返事をしたエヴァに、海斗は「どう言う意味?」と尋ね返す。
「基地はAIに管理されていると聞いている。正直、私だってAIなるものがどう言う理屈で動いていて、どのくらいの働きができるのかなんてことには詳しくないが、既に今現在、AI管理下にあるいくつかの施設は、それら施設の目的・役割を全うできる程度に機能している。……らしい」
「らしい……って」
「実際に見聞きしたわけじゃないし、情報源のほとんどは白猫党内部で交わされた文書や通信記録だ。内向けに誇張や粉飾がされていてもおかしくない。……が、事実としてこの基地にいたMPSはAIで制御されていた。となれば丸っきりウソや出任せとも言えないだろう。もしかしたら本当に、アニメやSF映画のような完全自律AIが存在するのかも知れん」
「まさか」
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