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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第3部

    緑綺星・暗星譚 9

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    シュウの話、第101話。
    拠点防衛用兵器・HD715D。

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    9.
     ドローンが姿を現すと同時に、エヴァは機銃の引金を絞る。工作機械じみたドゴ、ドゴと言う爆音が駐車場に響き渡り、ドローンを弾く。だが――。
    (硬いな、やはり)
     最初の数発はドローンの体勢を崩し、装甲をいくらかはがしはしたものの、すぐに体勢を立て直し、横へと跳んでかわされてしまう。
    (とは言え)
     エヴァも即応し、偏差射撃でドローンを追う。
    (機械なんぞにそうそう遅れを取るものか)
     ドローンが初弾をかわし着地したところで、機銃の弾丸を叩き込む。流石のドローンもこれはかわし切れず、壁際まで弾き飛ばされた。
    (手応えあり、……と言いたいところだが、そう簡単じゃないのは承知している)
     壁際の軍用バイクをがしゃん、がしゃんとなぎ倒し、オイルか何かをボタボタと撒き散らしながらも、ドローンは体勢を立て直し、ふたたびエヴァとの距離を詰める。
    (ここまでは概ね想定通りだ。基地防衛用ドローンが通常兵装レベルの機銃に負ける道理は無いだろう。車輌ごと鹵獲されて基地を襲撃される可能性は十分考えられることであるし、そのケースはMPS計画の性質上、起こりうる話だからな。
     で――この次の一手は若干の賭けにはなるが――相手が次世代ドローンだろうと神話に出て来るような怪物だろうと、相手を狩ろうと言うその一瞬だけは、攻撃が最優先になる。となれば、どうしたって防御は劣後する。……そこを『こいつ』で狙う!)
     ドローンが跳躍し、エヴァの頭上に迫ったその瞬間、エヴァは腰のホルスターに差していた大型リボルバーを抜き、ドローンの頭部に狙いを定めた。
    (散々お前らの作ったドローンを相手してきたんだ。お前らの強度は把握している。この鉄芯入り12.5ミリマグナム銃弾なら……)
     ずごん、ととんでもない爆音を立てて発射された弾丸は、ドローンの頭部を木端微塵にした。
    「……ふう。想定通りだ」
     反動を無理矢理抑え込んだせいでじんじんと痛む右手をさすりながら、エヴァはドローンに背を向ける。
    「カイト、もう出て来て大丈夫だぞ。ドローンは破壊し……」
     と、背後でうぃぃん、とモーター音が鳴る。
    「……な、に?」
     振り返ったエヴァの目に、頭部のなくなったドローンが立ち上がっているのが映る。
    (しまった……先入観……こいつらは生物じゃない……頭がなくても動けるのか!?)
     エヴァがリボルバーを構え直すより速く、首なしドローンはふたたびエヴァに飛びかかった。

     だが――突如ドローンが燃え上がり、左右真っ二つに割れる。
    「エヴァさん。僕に二つ言っとくことがあるよね」
     ドローンの背後に立っていた海斗が、どこかニヤニヤした目でエヴァを眺めていた。エヴァはしばらく無言でにらんでいたが、やむなく海斗の言葉に応じた。
    「……ああ。君の剣術は現代兵器にも十分通用するよ。魔術もな。それで二つでいいか?」
    「それだといっこだよ」
    「じゃあ後はなんて言ってほしいんだ?」
    「僕のことをプロ失格みたいに言ったけど、敵を倒したと思ってうっかり背を向けた人がそんなこと言う資格ある?」
    「……ああ。悪かったよ。私もまだまだ未熟者だった」
    「んふふふ」
     笑う海斗に、エヴァも相好を崩した。
    「はは……、まあ、とりあえず脅威は去ったな。ミソノ捜索を再開しよう」
    「うん」
     車輌の荷台から降り、リボルバーをしまったところで――駐車場に無機質なアナウンスが響いてきた。
    《HD715D-08の反応が消失しました。防衛レベルを引き上げます》
     途端に扉の向こうから、無数の機械音が響き始めた。
    「……まさか?」
    「今のやつ……まだ出てくるの!?」
     エヴァと海斗は、揃って戦慄した。

     ところがその直後――照明がすべて消え、機械音もやむ。
    「今度は何だ!?」
    「基地が自爆でもすんの……?」
     両者の問いに答えるように、二人のインカムにジャンニの声が飛んで来る。
    《今、基地のサーバーぶっこ抜いてカズちゃんのとこに送ったった。多分AIもそん中やから、基地のシステム全部ダウンしたはずやで》
    「と言うことは、防衛システムも止まったわけか。……やれやれ、MVPはジャンニに取られたらしい」
    「無事ならもう何でもいいよ……。あと、美園」
     二人揃ってその場にへたり込んだところで、基地の非常灯がぽつぽつと灯り始めた。
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