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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第3部

    緑綺星・暗星譚 10

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    シュウの話、第102話。
    基地攻略の顛末。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    10.
     ジャンニも交えて3人で基地内を捜索し、ほどなく基地内の廊下で倒れている美園を発見した。
    「気を失ってるな。ジャンニ、『テレポート』でテンコちゃんのところに送って、診てもらってくれ」
    「あいよ。……あ、代わりに頼みたいことあるねんけど」
     ジャンニから横転したLAVのことを伝えられたエヴァと海斗は、基地内に残っていた車で現場に向かった。
    「美園……大丈夫かな」
    「チアノーゼの症状も見られなかったし、単純に気を失っただけだろう。あのドローンの行進を見るか何かして、卒倒したんじゃないか?」
    「……確かにあんなSFみたいなの、普通の人が見たらパニックだよね」
     その言葉に、エヴァは違和感を覚えた。
    「普通? 君たちは暗殺者一家と認識していたが」
    「美園は関わってない。僕と七瀬さんがしてることも、詳しくは知らないはずだよ。せいぜい『危ない仕事やってる』くらいにしか」
    「そうなのか。……と言うか、そもそも私も君のことを全く知らないな。この2日バタバタしていたし、流れで君と一緒に仕事することになったが、よく考えれば自己紹介もろくにやってない。ジャンニからは、向こうから勝手にペラペラと話されはしたが」
    「……あんまり話すこともないけどね」
     そう前置きし、海斗は自分の家のことについて話し始めた。
    「元々、七瀬さんは実家の情報屋関係の仕事してたんだってさ。ウラ方面の。一時期仕事関係の人と結婚してて、その時に美園も生まれたらしいんだけど、結局ソリが合わなくなって離婚して。その後僕が拾われて、今は僕と七瀬さんと美園の三人ぐらし。七瀬さんはウラの世界に美園を関わらせる気ないし、僕もさせたくない。だから仕事の時は『二人で出張』って説明してた。……それくらいかな」
    「君は国語力が乏しいな」
     LAVの前に到着し、エヴァは車を停める。
    「私が聞いたのは君の家族構成じゃなく、君自身のことだ」
    「……それこそ何も話すことないよ」
    「色々ありそうだがな。……まあいい」
     車を降り、エヴァはLAVのドアを調べる。
    「……? 開いてるぞ」
    「開かないって言ってたのにね」
    「勘違い、……も状況的におかしいか。ともかく……」
     ドアを開け、中を調べたが――。
    「いないな。逃げられたか」
    「じゃ、この近くにまだいるかもね。車載カメラに手がかりあるかも」
    「見てみよう」
     車載カメラを起動し、二人は映像を確認する。
    「クルマの外、ジェットコースターみたいになってる」
    「横転時の映像だろう。……その直後、窓ガラスにひび、か。ジャンニが割ろうとしたんだろう」
    「ボンって言ったね。攻撃されたって言ってたやつかな」
    「おそらくそうだろう。……そこからは特に何も……うん?」
     ジャンニが離れてから20分ほど経過したところで、窓ガラスの向こうに人影が映る。
    「誰か乗り込んで、……うん!?」
     車内に乗り込んできた人物を見て、エヴァはぎょっとした。
    「トッドレール!?」
    「誰? このおじいさんのこと?」
    「あ、ああ。……なっ!?」
     カメラに映る「パスポーター」アルト・トッドレールは、運転席に突っ伏したままのヘラルドを車内から引きずり出し、そのまま画面外へと消えていった。
    「……何故だ? 何故トッドレールが!?」
     エヴァはインカムを通し、天狐に呼びかける。
    「テンコちゃん! そこにラモンはいるか!?」
    《んだよ、うっせーな! インカム付けて怒鳴んな! 何があった!?》
    「すまない。だが急いで呼んでほしい」
    《チッ、しゃーねーな。……おーい、ラモン! こっち来い! エヴァが呼んでんぞ》
     間を置いて、ラモンのとぼけた声が返ってくる。
    《……い、はい、なんです、エヴァさん?》
    「ラモン! 今すぐトッドレールに電話してくれ!」
    《なんでです?》
     露骨に嫌そうな声で応じられたものの、エヴァも折れない。
    「いいから! 早く!」
    《んなこと言ったって……》
     心底げんなりした声で、ラモンはこう答えた。
    《あの人、自分からは昼だろうが夜だろうがお構いなしにじゃんじゃん電話かけてきますけど、人からの電話はどんなにヒマしてても一切出ないって言う、自分勝手なクズ思考のクソジジイですからね。一応、今から電話しますけども、期待はしないで下さい。無駄です、多分。いえ、間違いなく》
     ラモンの言った通り――その後何度電話をかけても、アルトが応じることは一度もなかった。

    緑綺星・暗星譚 終
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