「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・震世譚 1
シュウの話、第103話。
天狐屋敷の女子会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「おっ」
ご自慢のハイスペックPCで央南の新聞を読んでいた天狐が、愉快そうな声を上げる。
「『大月市郊外に大量の身元不明者現る 地元警察はパンク状態』だってよ。ま、そりゃそうなるわな。あそこの兵隊全員ほっぽって来たもんなー」
「姐さんもなかなかヒドいよねっ」
部屋の掃除をしていた鈴林に突っ込まれたが、天狐はフンと鼻で笑って返した。
「ひでーのは白猫党のヤツらだろ? 基地いっこ潰されたってのに、何の対応もしねーんだから、な。いわゆる『当局は一切関知しない』ってアレだな」
「まー、そーだけどさっ。……で、『あれ』、どーするのっ? いつまでも置いとけないでしょっ?」
そう言って鈴林は窓の向こう――庭に転がっている基地のサーバーをはたきで指し示したが、天狐は目もくれず、ぶっきらぼうに答えた。
「あー……もう捨てていーぜ。粗大ゴミかなんかで。欲しいデータは全部取ったし、何百時間、何千時間も使い込んだ中古のストレージなんて、使う気にもならねーしな」
「もー……何でもかんでも人任せにするー……」
そのサーバーから抜き取った大量のデータを解析したところ、あの秘密基地の詳細が明らかになった。
元々は7世紀中、央南東部から支援要請を受けた際に社会白猫党が公式に構築したものだったが、央北本土での戦争が再開されたところで、表向きには廃棄されていた。しかし実際のところは砕いた石をまぶして採石場に偽装しただけであり、8世紀の現在に至るまで、基地としての機能は喪失していなかった。
「その理由は?」
「『もし万が一本当にどうにか南北統一できたりなんかしちゃったら、もっぺん世界再平定計画を始める足がかりにでもしよう』ってつもりだったみたいだよ。で、去年ホントに統一できちゃったから、ソレじゃ目的通りに基地を動かそうかなー、……って感じだったみたい」
ティータイムの折にシュウから詳細を聞かされ、エヴァは肩をすくめた。
「理想ばかり先行させて、漫然と1世紀かけて戦争やってた奴ららしい、粗雑極まりない運用だな。それじゃ、あのアルテアって男は? 元は北の人間だったらしいが」
「南北統一って言っても、南が北を負かして吸収した形だもん。北の高官なんて腫れ物扱いだし、その家族も絶対、中枢に置いとけないし」
「だから『秘密基地の司令官』とか何とか適当な役職を付け、都落ちさせたと言うわけか。だが偉そうな肩書だけ与えられて放置じゃ、アルテアも憤懣(ふんまん)やるかたなかっただろうな」
「ソレで本部から指令が来たトコで成果上げようって張り切って、美園を誘拐してあたしたちをゆすったってワケね」
話の輪に加わっていた七瀬が、苛立たしげな顔でクッキーをかじっている。
「一発ブン殴ってやりたいトコだけど……結局、まだ行方不明なのよね?」
「ああ。ラモンが言ってた通り、何度電話をかけても出ようとしない。ふざけたジジイだよ」
「ソレ聞いててびっくりしたんだけど」
と、シュウが手を挙げる。
「エヴァって、アルトさんのコト知ってたんだね」
「色々あってな。格闘術の手ほどきをしてもらったり、ウラの話を聞いたりと、何かと世話になった。『授業料』と言われて、多少高く吹っかけられたが。おかげで今は素寒貧だ。
と言うか私にしてみればシュウ、君がトッドレールのことを知っている方が驚きなんだが」
シュウは挙げた手を、すっとテーブルの下に下ろす。
「ジャンニくんの特集してる時に、ちょっとね。……でさ、でさ」
もう一度上げた手には、スマホが握られていた。
「今回のコトもしっかりじっくり特集にしたいからさ、いーっぱいお話しよっ」
「……あ、ああ。……変わってないな、シュウは」
「エヴァもそんなに変わってないと思う。髪型がちょっとフェード多めになったって言うか、ドレッドだらけになったって言うか、かなーりワイルドめになっちゃったなーってくらいで」
「おしゃれだよ。……ウラの世界の」
「あたしもウラ稼業だけどソレはないわ。こじらせすぎ」
七瀬は苦い顔をしながら、スコーンに手を伸ばしていた。
@au_ringさんをフォロー
天狐屋敷の女子会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「おっ」
ご自慢のハイスペックPCで央南の新聞を読んでいた天狐が、愉快そうな声を上げる。
「『大月市郊外に大量の身元不明者現る 地元警察はパンク状態』だってよ。ま、そりゃそうなるわな。あそこの兵隊全員ほっぽって来たもんなー」
「姐さんもなかなかヒドいよねっ」
部屋の掃除をしていた鈴林に突っ込まれたが、天狐はフンと鼻で笑って返した。
「ひでーのは白猫党のヤツらだろ? 基地いっこ潰されたってのに、何の対応もしねーんだから、な。いわゆる『当局は一切関知しない』ってアレだな」
「まー、そーだけどさっ。……で、『あれ』、どーするのっ? いつまでも置いとけないでしょっ?」
そう言って鈴林は窓の向こう――庭に転がっている基地のサーバーをはたきで指し示したが、天狐は目もくれず、ぶっきらぼうに答えた。
「あー……もう捨てていーぜ。粗大ゴミかなんかで。欲しいデータは全部取ったし、何百時間、何千時間も使い込んだ中古のストレージなんて、使う気にもならねーしな」
「もー……何でもかんでも人任せにするー……」
そのサーバーから抜き取った大量のデータを解析したところ、あの秘密基地の詳細が明らかになった。
元々は7世紀中、央南東部から支援要請を受けた際に社会白猫党が公式に構築したものだったが、央北本土での戦争が再開されたところで、表向きには廃棄されていた。しかし実際のところは砕いた石をまぶして採石場に偽装しただけであり、8世紀の現在に至るまで、基地としての機能は喪失していなかった。
「その理由は?」
「『もし万が一本当にどうにか南北統一できたりなんかしちゃったら、もっぺん世界再平定計画を始める足がかりにでもしよう』ってつもりだったみたいだよ。で、去年ホントに統一できちゃったから、ソレじゃ目的通りに基地を動かそうかなー、……って感じだったみたい」
ティータイムの折にシュウから詳細を聞かされ、エヴァは肩をすくめた。
「理想ばかり先行させて、漫然と1世紀かけて戦争やってた奴ららしい、粗雑極まりない運用だな。それじゃ、あのアルテアって男は? 元は北の人間だったらしいが」
「南北統一って言っても、南が北を負かして吸収した形だもん。北の高官なんて腫れ物扱いだし、その家族も絶対、中枢に置いとけないし」
「だから『秘密基地の司令官』とか何とか適当な役職を付け、都落ちさせたと言うわけか。だが偉そうな肩書だけ与えられて放置じゃ、アルテアも憤懣(ふんまん)やるかたなかっただろうな」
「ソレで本部から指令が来たトコで成果上げようって張り切って、美園を誘拐してあたしたちをゆすったってワケね」
話の輪に加わっていた七瀬が、苛立たしげな顔でクッキーをかじっている。
「一発ブン殴ってやりたいトコだけど……結局、まだ行方不明なのよね?」
「ああ。ラモンが言ってた通り、何度電話をかけても出ようとしない。ふざけたジジイだよ」
「ソレ聞いててびっくりしたんだけど」
と、シュウが手を挙げる。
「エヴァって、アルトさんのコト知ってたんだね」
「色々あってな。格闘術の手ほどきをしてもらったり、ウラの話を聞いたりと、何かと世話になった。『授業料』と言われて、多少高く吹っかけられたが。おかげで今は素寒貧だ。
と言うか私にしてみればシュウ、君がトッドレールのことを知っている方が驚きなんだが」
シュウは挙げた手を、すっとテーブルの下に下ろす。
「ジャンニくんの特集してる時に、ちょっとね。……でさ、でさ」
もう一度上げた手には、スマホが握られていた。
「今回のコトもしっかりじっくり特集にしたいからさ、いーっぱいお話しよっ」
「……あ、ああ。……変わってないな、シュウは」
「エヴァもそんなに変わってないと思う。髪型がちょっとフェード多めになったって言うか、ドレッドだらけになったって言うか、かなーりワイルドめになっちゃったなーってくらいで」
「おしゃれだよ。……ウラの世界の」
「あたしもウラ稼業だけどソレはないわ。こじらせすぎ」
七瀬は苦い顔をしながら、スコーンに手を伸ばしていた。
- 関連記事
-
-
緑綺星・震世譚 3 2023/02/24
-
緑綺星・震世譚 2 2023/02/23
-
緑綺星・震世譚 1 2023/02/22
-
緑綺星・暗星譚 10 2023/02/20
-
緑綺星・暗星譚 9 2023/02/19
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~