「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・震世譚 3
シュウの話、第105話。
サイレンス・サムライ;その未来のために。
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3.
「アンタの話する前に言っとくけどさ――ママとも色々相談したんだけど、やっぱ帰るわ、あたしたち」
「そう」
ただ一人、シュウの提案に答えていなかった海斗はその晩、七瀬と美園が帰郷する旨を伝えられた。
「こっちにも学校あるけどさ、あたし央中語全然知らないもん。央中語勉強しながら他の勉強もってなると、あたし脳みそパンクしちゃうよ」
「僕も今んとこ翻訳機使いながらだし、エヴァさんとかには央南語で話しかけてもらってるもん。難しいよね」
「ま、アンタがこっちにいる間はテンコちゃんがお給料振り込んでくれるんだし、しっかり頑張んなよ」
その言葉に、海斗は面食らった。
「え? いや、僕も帰るよ、二人が帰るんなら」
「アンタは帰っちゃダメ」
ビシ、と鼻先に人差し指を突きつけ、美園はこう返した。
「アンタはココにいて正義の味方やんなきゃ、絶対ダメだかんね」
「正義の味方なんて……僕、そんなのやる気ないよ」
「じゃ、帰って何するワケ? またコソコソ人殺しすんの?」
美園にそう問われ、海斗は言葉に詰まる。
「そっ、……え、なんで」
「分かんないワケないじゃん。アンタはキレイに片付けて帰ってきてるつもりだろーけどさ、感じんのよ、『ニオイ』を」
「消臭だってきちんとして……」「そう言う意味じゃない」
美園は真剣な目で、海斗をキッとにらみつけた。
「仕事帰りのアンタとママから漂ってんのよ、『人に言えないウラのお仕事してきちゃった』って、後悔してる感バリバリのニオイが。どんだけ体も服も道具もキレイにしてても、顔色ににじみ出てんのよ。
その仕事で稼いだおカネで生活してるから、本当はあたしがそんなコト言ったらいけないかもだけど、ソコまで後悔するような仕事なんて、なんでやんなきゃいけないのよ? やるならもっと、世のため人のためになるよーな仕事すりゃいいじゃん」
「僕には……そんなのできないよ」
「ソレは今までそんな仕事しかしてこなかったから、ってコト?」
美園は両手でぎゅっと、海斗の手を握りしめる。
「じゃ、今が人生最大のチャンスってヤツじゃないの? 今ココでこの仕事受けなかったら、アンタ一生裏通りの片隅でドブ掃除みたいなコト、ずーっとしなきゃいけないかも知れないのよ?」
「あたしもソレには同感よ」
と、二人で話していたところに、七瀬が入ってきた。
「ぶっちゃけて言うとあたし、人生しくじっちゃったって思ってるクチなのよ。若い頃から色んなチャンスを台無しにして、もうウラでセコい仕事やるしかなくなって。海斗拾ってちょっとは盛り返せるかなって思ってた時期もあった。アンタの剣術は――そんな技、ドコで身に付けたのってビックリするくらい――マジですごいし。おかげでどんな仕事もしくじらなくなったし、ウラの世界じゃもう有名人だもんね。
でも最近、……ううん、もっと前から、このままじゃダメだって思ってた。このまま海斗と一緒に今まで通り、あたしの仕事に付き合わせてたら、きっと海斗もあたしみたいにしくじった人生送るコトになるって」
「七瀬さん……」
「コレは母親って言うより人生の先輩として言うコトだけど、チャンスはつかめるならつかみなさい。後になってやっぱお願いしますっつっても、もう間に合わないコトばっかりだから」
「でも……」
反論しかけた海斗の言葉をさえぎるように、七瀬はこう続けた。
「で、コレは母親として言うコトだけど、やっぱ自分の子供は幸せになってほしいワケよ。しかも正義の味方やっておカネ稼げるなんて、最高じゃん。自慢できるわ」
「自慢……って」
「この3年間はあたしだけの自慢の息子だったけど、コレからは世界に誇れる自慢の息子よ。頑張んなさいよ、海斗」
「……そこまで、言うなら、……うん」
海斗は顔をうつむかせ、ぼそぼそと返事した。
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「アンタの話する前に言っとくけどさ――ママとも色々相談したんだけど、やっぱ帰るわ、あたしたち」
「そう」
ただ一人、シュウの提案に答えていなかった海斗はその晩、七瀬と美園が帰郷する旨を伝えられた。
「こっちにも学校あるけどさ、あたし央中語全然知らないもん。央中語勉強しながら他の勉強もってなると、あたし脳みそパンクしちゃうよ」
「僕も今んとこ翻訳機使いながらだし、エヴァさんとかには央南語で話しかけてもらってるもん。難しいよね」
「ま、アンタがこっちにいる間はテンコちゃんがお給料振り込んでくれるんだし、しっかり頑張んなよ」
その言葉に、海斗は面食らった。
「え? いや、僕も帰るよ、二人が帰るんなら」
「アンタは帰っちゃダメ」
ビシ、と鼻先に人差し指を突きつけ、美園はこう返した。
「アンタはココにいて正義の味方やんなきゃ、絶対ダメだかんね」
「正義の味方なんて……僕、そんなのやる気ないよ」
「じゃ、帰って何するワケ? またコソコソ人殺しすんの?」
美園にそう問われ、海斗は言葉に詰まる。
「そっ、……え、なんで」
「分かんないワケないじゃん。アンタはキレイに片付けて帰ってきてるつもりだろーけどさ、感じんのよ、『ニオイ』を」
「消臭だってきちんとして……」「そう言う意味じゃない」
美園は真剣な目で、海斗をキッとにらみつけた。
「仕事帰りのアンタとママから漂ってんのよ、『人に言えないウラのお仕事してきちゃった』って、後悔してる感バリバリのニオイが。どんだけ体も服も道具もキレイにしてても、顔色ににじみ出てんのよ。
その仕事で稼いだおカネで生活してるから、本当はあたしがそんなコト言ったらいけないかもだけど、ソコまで後悔するような仕事なんて、なんでやんなきゃいけないのよ? やるならもっと、世のため人のためになるよーな仕事すりゃいいじゃん」
「僕には……そんなのできないよ」
「ソレは今までそんな仕事しかしてこなかったから、ってコト?」
美園は両手でぎゅっと、海斗の手を握りしめる。
「じゃ、今が人生最大のチャンスってヤツじゃないの? 今ココでこの仕事受けなかったら、アンタ一生裏通りの片隅でドブ掃除みたいなコト、ずーっとしなきゃいけないかも知れないのよ?」
「あたしもソレには同感よ」
と、二人で話していたところに、七瀬が入ってきた。
「ぶっちゃけて言うとあたし、人生しくじっちゃったって思ってるクチなのよ。若い頃から色んなチャンスを台無しにして、もうウラでセコい仕事やるしかなくなって。海斗拾ってちょっとは盛り返せるかなって思ってた時期もあった。アンタの剣術は――そんな技、ドコで身に付けたのってビックリするくらい――マジですごいし。おかげでどんな仕事もしくじらなくなったし、ウラの世界じゃもう有名人だもんね。
でも最近、……ううん、もっと前から、このままじゃダメだって思ってた。このまま海斗と一緒に今まで通り、あたしの仕事に付き合わせてたら、きっと海斗もあたしみたいにしくじった人生送るコトになるって」
「七瀬さん……」
「コレは母親って言うより人生の先輩として言うコトだけど、チャンスはつかめるならつかみなさい。後になってやっぱお願いしますっつっても、もう間に合わないコトばっかりだから」
「でも……」
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「自慢……って」
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海斗は顔をうつむかせ、ぼそぼそと返事した。
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