「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・震世譚 6
シュウの話、第108話。
そして世界は、震えた。
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6.
シュウが動画を公開した翌日――トラス王国の各メディアは口々に、王室政府内務省に質問をぶつけていた。
「ネットに公開された情報、つまり『難民特区に石油がある』と言う話は事実なのでしょうか?」
「情報が正しければ、いずれ難民特区が白猫党の侵略を受ける可能性が高いと見られていますが、王国はどう対応されるのでしょう?」
「そもそも長年にわたって棚上げしてきた難民問題を、現在の王国、そして王室政府は解決するつもりがあるのでしょうか?」
同様の紛糾は、ゴールドコースト市国でも起こっていた。
「動画によればネオクラウン、いえ、ネオクラウンを隠れ蓑にした白猫党と総帥との間に何らかの接点があるとのことでしたが、本当でしょうか?」
「総帥は先日の声明でネオクラウンへ積極的な対抗姿勢を示していましたが、動画の内容が真実であり、ネオクラウンが存在しないのならば、総帥は一体何と戦うと宣言したのでしょうか?」
「そもそも動画にあった指摘の通り、マフィアがミサイル武装しているなどと言う話は荒唐無稽です。入出国管理局は発射されたミサイルの航路を把握していたはずですが、本当に市国内のマフィアが、市国内で発射したのでしょうか?」
そしてそれらの質問に対し、当局側はこう答えるばかりだった。
「現在調査中であり、また、対応を検討している最中でもありますので、現時点でお答えすることはできません」
「……と言った具合で、大混乱です。トラス王国もゴールドコースト市国も、対応に追われてる様子ですね」
「そう」
大量のモニタが並んだ部屋で、高級そうなスーツに身を包んだ短耳の女性が、ひょろりと痩せた長耳の男性から報告を受けていた。
「央南方面第4基地のことは?」
「動画では何も。尺の都合か、あるいはその話に触れると、自分たちも見捨てたことを指摘されかねないからじゃないでしょうか。ま、こっちもヤブヘビなんで公表とか指摘なんかは絶対しませんがね。……あ、そう言えば閣下、その基地司令のヘラルド・アルテア氏はどうなったんです?」
「行方不明。現在捜索中」
「逃げたんです……よね?」
「基地内から送られていたデータについてはあなたの方が詳しい」
「ん……まあ、最後の記録では大慌てでLAVに乗り込んだところまでです。そこから判断するなら、やっぱり逃げたんじゃないかなーって」
しどろもどろに答えたところで、無表情だった「閣下」の眉が、ぴく、と動いた。
「『トイ・メーカー』」
「あっはい」
「あなたが世界最高の技術者であり、かつ、世界最高のハッカーでもあると認識しているからこそ、私はあなたを雇用している。そのあなたが彼の行先を把握できないのなら、できないとはっきり断言すること。私は無駄な行動をしたいとは考えていない。それとも把握する手段があると?」
「……すみません。ないです。今のところ」
「了承。可能と判断したらまた報告するように」
「はい、ども……」
「それから」
と、「閣下」はモニタの一つに顔を向けた。
《わたしたちはまだ、生きています。すべての真実をつかんだ上で、です。その上で、あなたたちはどうしますか?》
モニタに映し出されたシュウを指差しながら、「閣下」はこれまでと同様に、淡々と命じた。
「このシュウ・メイスンと言う女性を徹底的にマークすること。新しい動画が公開されたら、速やかに私へ報告すること。そして居場所を可及的速やかに突き止め、一日でも早く抹殺すること」
「そ、それはもちろん」
「油田掌握計画が漏れたことは、非常に大きな問題。もしトラス王国が積極策に打って出た場合、目的の達成は非常に困難となり、今後の計画全体にも極めて大きく波及する。今後もこの規模の障害が、シュウ・メイスンによって生み出されるリスクは非常に高いと判断している。
彼女は明確に、我々の最大の敵であると断言する」
緑綺星・震世譚 終
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そして世界は、震えた。
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6.
シュウが動画を公開した翌日――トラス王国の各メディアは口々に、王室政府内務省に質問をぶつけていた。
「ネットに公開された情報、つまり『難民特区に石油がある』と言う話は事実なのでしょうか?」
「情報が正しければ、いずれ難民特区が白猫党の侵略を受ける可能性が高いと見られていますが、王国はどう対応されるのでしょう?」
「そもそも長年にわたって棚上げしてきた難民問題を、現在の王国、そして王室政府は解決するつもりがあるのでしょうか?」
同様の紛糾は、ゴールドコースト市国でも起こっていた。
「動画によればネオクラウン、いえ、ネオクラウンを隠れ蓑にした白猫党と総帥との間に何らかの接点があるとのことでしたが、本当でしょうか?」
「総帥は先日の声明でネオクラウンへ積極的な対抗姿勢を示していましたが、動画の内容が真実であり、ネオクラウンが存在しないのならば、総帥は一体何と戦うと宣言したのでしょうか?」
「そもそも動画にあった指摘の通り、マフィアがミサイル武装しているなどと言う話は荒唐無稽です。入出国管理局は発射されたミサイルの航路を把握していたはずですが、本当に市国内のマフィアが、市国内で発射したのでしょうか?」
そしてそれらの質問に対し、当局側はこう答えるばかりだった。
「現在調査中であり、また、対応を検討している最中でもありますので、現時点でお答えすることはできません」
「……と言った具合で、大混乱です。トラス王国もゴールドコースト市国も、対応に追われてる様子ですね」
「そう」
大量のモニタが並んだ部屋で、高級そうなスーツに身を包んだ短耳の女性が、ひょろりと痩せた長耳の男性から報告を受けていた。
「央南方面第4基地のことは?」
「動画では何も。尺の都合か、あるいはその話に触れると、自分たちも見捨てたことを指摘されかねないからじゃないでしょうか。ま、こっちもヤブヘビなんで公表とか指摘なんかは絶対しませんがね。……あ、そう言えば閣下、その基地司令のヘラルド・アルテア氏はどうなったんです?」
「行方不明。現在捜索中」
「逃げたんです……よね?」
「基地内から送られていたデータについてはあなたの方が詳しい」
「ん……まあ、最後の記録では大慌てでLAVに乗り込んだところまでです。そこから判断するなら、やっぱり逃げたんじゃないかなーって」
しどろもどろに答えたところで、無表情だった「閣下」の眉が、ぴく、と動いた。
「『トイ・メーカー』」
「あっはい」
「あなたが世界最高の技術者であり、かつ、世界最高のハッカーでもあると認識しているからこそ、私はあなたを雇用している。そのあなたが彼の行先を把握できないのなら、できないとはっきり断言すること。私は無駄な行動をしたいとは考えていない。それとも把握する手段があると?」
「……すみません。ないです。今のところ」
「了承。可能と判断したらまた報告するように」
「はい、ども……」
「それから」
と、「閣下」はモニタの一つに顔を向けた。
《わたしたちはまだ、生きています。すべての真実をつかんだ上で、です。その上で、あなたたちはどうしますか?》
モニタに映し出されたシュウを指差しながら、「閣下」はこれまでと同様に、淡々と命じた。
「このシュウ・メイスンと言う女性を徹底的にマークすること。新しい動画が公開されたら、速やかに私へ報告すること。そして居場所を可及的速やかに突き止め、一日でも早く抹殺すること」
「そ、それはもちろん」
「油田掌握計画が漏れたことは、非常に大きな問題。もしトラス王国が積極策に打って出た場合、目的の達成は非常に困難となり、今後の計画全体にも極めて大きく波及する。今後もこの規模の障害が、シュウ・メイスンによって生み出されるリスクは非常に高いと判断している。
彼女は明確に、我々の最大の敵であると断言する」
緑綺星・震世譚 終
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第3部終了です。
短い部が続いて申し訳ないですが、
なかなかいい感じに話が続かなくて……。
とは言え、ここまでは「ヒーロー集合」のくだり。
「ア○ンジャーズ」がアッセンブルしたとこです。
ここから「緑綺星」のスーパーヒーローたちの活躍譚が始まる、
……と期待していただければ幸いです。
作中、天狐がこのチームを「セブンス・マグ」と名付けたので、
メンバーは7人くらいほしいところ(シュウと天狐たちを除く)。
あと4人……どんなとんでもないヤツらが登場するのか?
作者の僕自身が楽しみです。
第3部終了です。
短い部が続いて申し訳ないですが、
なかなかいい感じに話が続かなくて……。
とは言え、ここまでは「ヒーロー集合」のくだり。
「ア○ンジャーズ」がアッセンブルしたとこです。
ここから「緑綺星」のスーパーヒーローたちの活躍譚が始まる、
……と期待していただければ幸いです。
作中、天狐がこのチームを「セブンス・マグ」と名付けたので、
メンバーは7人くらいほしいところ(シュウと天狐たちを除く)。
あと4人……どんなとんでもないヤツらが登場するのか?
作者の僕自身が楽しみです。



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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 1;蒼天剣

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