FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・非道録 5

     ←蒼天剣・非道録 4 →蒼天剣・非道録 6
    晴奈の話、第286話。
    伝説の犯罪者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     バートはまだ、倉庫の中で横になっていた。
    「……?」
     と、外からカチャカチャと鍵を開ける音がする。バートは一瞬助けが来たのかと期待し、体を起こしたが、すぐに何とも言えない違和感が襲う。
    (……何で、中にいる俺に声をかけない? 中に灯りは無い。外から見りゃ、いるのかいないのか分からないはずだ。声くらいかけるだろ、普通は。
     いると分かっている行動だ――つまり、公安の助けじゃない。クラウン一味だ)
     すぐに、倉庫の扉が開く。
    「こんちゃー。キャロル捜査官、はじめま、……あらーぁ?」
     倉庫の中に入ってきたオッドは、中に誰もいないのに気付いた。
    「おっかしいわねぇ。クラウンのヤツ、ここにいるって言ったのにぃ」
     バートはオッドが中に入る直前、はがしていた床の下に慌てて入り込み、隠れていた。
    (何だ、このカマ野郎は?)
     気持ちの悪い、ねっとりとした口調で独り言をつぶやくオッドに、バートは生理的な不安と嫌悪を感じた。と、きつい香水に紛れて、妙な刺激臭が鼻を突く。
    (何だ、この香水? 吐きそうな臭いだ……)
    「どこかに隠れてるのかしらねーぇ?」
     オッドがきょろきょろと、倉庫中を回る。奥まで行ったところで、バートは床板を蹴り上げて飛び出した。
    「あら、やっぱり隠れてたのねーぇ」
    「……ッ!」
     バートは全速力で、倉庫から脱出しようとした。
     だが――。
    「……あ、あ?」
     10メートルほど走り出したところで、足の力が急に抜けていく。
    「そんなに慌てなくても、いいじゃないのーぉ」
    「おあえ、いっらい、らりろ……?」
     一体何を、と言ったつもりだったが、口がうまく回らない。
    「うん? ああ、ちょっと筋弛緩系の神経毒をね、撒いておいたのよーぉ」
    「ろく、らと……?」
     毒のせいで体はまったく動かないが、思考はまだはっきりしている。バートは懸命に、敵の素性を把握しようと頭を動かした。
    (毒……、毒使いの、オッドアイのオカマ猫か。……! まさか、そんなバカな! あいつは確か、20年以上前に自爆して死んだはずだぞ!?
    数十件に及ぶ強盗と殺人、テロ行為、極めつけは市国騒乱にまで及ぶ重犯罪をたった一人でやってのけた凶悪犯、『ドクター・オッド』――シアン・チョウ! あの伝説の犯罪者が、なぜ今、こんなところにいるんだ……!?)
    「さってっとーぉ」
     オッドが薄ら笑いを浮かべて、トテトテとした足取りで近付いてきた。
    「ゆーっくり、楽しませてもらおうかしらねーぇ」



     金火公安――正式名称、「金火狐財団公安局」――の歴史は、非常に長い。
     4世紀前半、ゴールドマン財団の総帥になったニコル3世がゴールドコーストの大観光都市化を計画し、それに伴う犯罪増加を予想・懸念した結果、金火公安が設立された。以来200年以上に渡り、ゴールドコーストの平和を守るべく活動を続けている。
     歴史が長く、大都市を守っている分、伝説的な事件にも何度か立ち会うことがある。その一つが、496年に起こった「オッド事件」である。
     ゴールドコーストの市民50名以上が殺害され、公安職員も数名犠牲になったこの事件の犯人は、央南系の猫獣人で元医者のシアン・チョウ。医学知識と己の体質を悪用し、愉快犯的に犯行を繰り返していた。公安職員も殺されたことで、これは公安の威信をかけた事件に発展した。
     そして、公安側が執拗な捜査と追撃の末、勝利した。シアンは追い詰められ、最終的に所持していた薬品を使って自爆、死亡したと言う。

     だが、その「伝説」が今、バートの目の前に悠然と立っている。
    「き、きさま、しんらはずりゃ……。それり、たしかいきれらら、もう50いりょうろはずらろ……」
    「あらぁ? アタシをご存知なのぉ?」
     オッドはニヤニヤと笑いながら、ヒールを履いた靴でグリグリと踏みつける。
    「うふふっ……、全然痛くないでしょーぉ? この毒、手足とかの末端神経に作用する薬を改良した神経毒でねぇ、嗅いだ相手は頭以外がぜーんぶグニャグニャになっちゃうのよぉ。だーかーらぁ」
     オッドはなお、バートを踏みつけ続ける。
    「手足が千切れても、内臓引きずり出されても、心臓潰されても、全然痛くないのよぉ。
     だからたっぷり楽しんだ後に、いきなりカクッとなって死んじゃうのよねぇ。最後の最後まで目一杯アタシを楽しませてくれる、いーい薬でしょーぉ?」
     オッドは嬉々として、バートをいたぶろうと足を上げた。
     と――オッドがいきなり、そこから飛びのく。
    「『グレイブファング』、突き刺せーッ!」
    「おぉっう!?」
     ぴょんと飛びのいたところに、バリバリと石の槍が突き出した。
    「一体誰よぉ? 邪魔しないでよ、もぉ」
    「大変申し訳ありませんが、邪魔させていただきますわ」
     倉庫の外から、声がかけられる。
    「そんなトコいないでさぁ、入ってきなさいよ『狐』ちゃん」
    「そちらもお断りさせていただきますわ。わたくし、そのような香水は鼻に合いませんの」
    「あーら、残念ねぇ」
     オッドはユラユラとした足取りで、外にいる二人――フォルナと小鈴の前に出てきた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.07.05 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・非道録 4】へ
    • 【蒼天剣・非道録 6】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・非道録 4】へ
    • 【蒼天剣・非道録 6】へ