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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・非道録 6

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    晴奈の話、第287話。
    ア・ブ・ナ・イ、化学実験。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     オッドはニヤニヤしながら煙草をふかし、両手を裾の中に入れてもぞもぞとしている。
    「じゃ、こっちから行かせてもらおうかしらねぇ」
     オッドは裾から何かの容器を取り出し、フォルナたちに投げつけた。
    「防げ、『ロックガード』!」
     小鈴が「鈴林」を鳴らし、石の壁を築く。オッドが投げつけた容器はその壁に当たり、ジュウ……、と音を立てた。辺りに漂う酸っぱい香りに、フォルナが顔をこわばらせる。
    「酸……!」
    「これくらいで驚かないでちょうだいよ、味気ないわねぇ」
     オッドは袖をまくり、腕中に付けられた容器をぽいぽいと投げ始めた。
    「こんなの小手調べじゃないのよぉ」
     何本もの酸の瓶が石の壁に投げつけられ、あっと言う間に侵食されていく。小鈴は一歩退き、今度は純粋な魔力で練られた透明な壁を作り出した。
    「『マジックシールド』!」
    「あーら、逃げ腰ねぇ」
     石の壁がグズグズに崩れ去ったところで、今度は土のような香りのする瓶が投げ込まれる。
    「今度は硝酸系の薬品よぉ」
     瓶は壁にさえぎられて砕け散り、中の白っぽい液体が辺りに散らばる。
    「あ、言っとくけどねぇ」
     オッドはまた、瓶を2つ取り出して投げる。
    「さっきの酸、塩酸よぉ。で、今投げた硝酸を、そこら辺に撒き散らしておいた塩酸と、古い石鹸水に、魔力をちょこーっと使って化合させれば……」
     そう説明されても、小鈴もフォルナも化学知識は無いので、オッドが何を言っているのかさっぱり分からない。
     が、次の説明でこの後に何が起こるか理解できた。
    「三硝酸グリセリン、通称ニトロのでっきあっがりーぃ」
     オッドはニヤッとしながら、吸っていた煙草を投げ捨てる。
     その直後、ズドンと言う重たい爆発音が、辺りの倉庫を揺らした。

     魔術で作った2つの壁は酸と爆発に耐え切れず、粉々になって消滅した。フォルナも小鈴も向かい側にある倉庫の壁に叩きつけられ、ぐったりしている。
    「あーら、もうおしまいなのぉ?」
     オッドが非常に残念そうな顔で、トテトテと歩いてくる。
    「ま、それはそれでいいけどねーぇ。『お人形さん』が3つに増えて、アタシも存分に遊び倒せるしーぃ」
    「……」「……」
     二人は倒れ込んだまま、じっとしている。
    「じゃ、まずは身動きできないように神経毒を、っと」
     オッドはニヤニヤしながら、香水瓶を取り出す。どうやら、先程バートを弛緩させたのと同じ薬品のようだ。
     が――フォルナたちに薬を吹きかけようとしたところでピタ、と動きを止める。
    「……ホントにもう、後から後から沸いてくるわねぇ」
    「動くな」
     倉庫と倉庫の間、通路の両側からジュリア、フェリオ、エランが現れた。
     さらにあちこちから、公安職員と思しき者たちが続々現れる。どうやらジュリアが制圧チームと合流し、爆発音のしたこちらに来てくれたらしい。
     職員たちは全員銃を構え、オッドに向けている。
    「もう今日は取引どころじゃ無いわねぇ。……逃げようかしら」
    「逃げられると思っているの?」
     ジュリアが銃を構えたまま、じりじりと近寄ってくる。他の職員たちも、それに続く。
    「思ってるわよぉ?」
     オッドはまた袖をまくり、瓶を取り出した。
    「はじめに説明しとくけどぉ、これは水と化合すると糜爛(びらん)性の生じる毒よぉ。気化しやすくて、吸引すると一瞬で肺が血まみれになるのよぉ」
    「……?」
     突然説明し始めたオッドに、ジュリアたちは警戒を強める。
    「ちなみにアタシは大抵の毒に耐性持ってるから、こんなのただの香水と一緒。でもねぇ、普通の人が吸ったら一たまりもないわよぉ」
     そう言って、オッドはいきなり瓶を地面に叩きつけ、粉々に割った。
    「……まずい!」
     エランが顔色を変え、後ろに下がる。その瞬間、オッドはニヤリと笑って駆け出した。
    「ほら、どいてくれた」
    「……しまった!」
     あっと言う間に、エランのすぐ前にオッドが迫る。
    「アンタ、もうちょっと人を疑いなさいよぉ。いくら耐性あるっつっても、一瓶丸ごと食らったら流石に死ぬでしょぉ? 偽物に決まってんじゃないのよぉ。
     本物は、こ・っ・ち」
     オッドは手首をひねり、中指にくくりつけられていた紐を引っぱる。肘のところから伸びている小瓶の管が開けられ、中からガスが噴き出し始めた。
    「……ッ!」
     エランは死を覚悟し、身震いした。

     が――。
    「……あ、あれ?」
     オッドの姿が目の前から消える。代わりに現れたのは、巨大な石の柱だった。
    「……『ホールドピラー』かける2、ってね」
     倒れていたフォルナと小鈴が起き上がり、柱に近寄る。
    「隙をうかがっておりましたけれど、見事に引っかかってくれましたわね」
    「ぶっつけ本番でやってみたけど、案外うまく行くもんね」
     小鈴とフォルナはニコニコと笑いながら、手をぱちんと合わせて喜び合った。
     ニトロの爆発を食らった後、フォルナたちは倒れたふりをして魔術を唱えていた。二人の力を合わせて作った特大の石柱を、オッドにぶつけようとタイミングを図っていたのである。
    「オッドは?」
     拳銃を構えつつ尋ねてきたジュリアに、小鈴があっけらかんとした様子でこう返す。
    「特大の棒だもんねぇ。思いっきり突いたんだからそりゃー、思いっきり遠くに飛んでいったんじゃない?」
     ニヤリとする小鈴に、ジュリアは眼鏡を直しつつ、苦笑いを浮かべた。
    「まったく、あなたって本当に昔から……、ま、いいわ」
    「……じゃあ、まあ、ともかく危険回避ってことになるんっスかね」
    「そうね。……バートを早く助けないと」
     ジュリアは銃をしまい、倉庫へと走って行った。

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    2016.07.05 修正
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