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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・底辺譚 2

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    シュウの話、第110話。
    石油を巡る確執。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     油田に到着した兵隊たちを待っていたのは、武器を手にした荒くれ者たちだった。
    「一応確認するがよ」
     と、その中の一人、明らかにリーダー格の熊獣人が角材を手に、兵隊らに質問する。
    「あんたらはどこの誰だ? この油田をどうするつもりだい?」
     兵隊らの先頭に立っていた指揮官が、それに答えた。
    「我々はトラス王国陸軍第16大隊の者だ。我が国領土内で石油が発見されたとの情報の真偽を確認するために派遣された」
    「確認だけにしちゃあぞろぞろと、御大層な陣営だな。それで? マジで石油がここにあると確認できたら、その時はどうする? ここを占拠してる俺たちを皆殺しにして、奪い取るつもりかい?」
    「元より特区の、そして特区から産出される資源および物品の所有権は王国にある。諸君らは土地を貸し与えられているだけに過ぎない」
    「貸し与えて、ねぇ」
     リーダーの後ろに立っていた荒くれ者たちが、武器を構える。
    「アパートやらマンションやらの場合だったら、住んでるヤツが苦情言ったらそれなりの対応するよな? だが貸主だって主張するあんた方は、一体どんな対応してくれた? ハラ減ったって言った時、寒くて凍えそうだって言った時、死にそうだって言った時、あんた方は何をしてくれた? 一切何もしなかったじゃねえか。『自治権を与えているから勝手にやれ』の一点張りでよぉ?
     だのにこうして石油が湧いた途端、その自治権を取り上げて我が物にしようってのか!? ふざけんなよ、クソッタレども! 絶対お前らみたいな人でなしに渡すもんか。この石油は俺たちの……」
     パン、と銃声が響き、怒鳴り散らしていたリーダーの胸に穴が開く。
    「なっ……」
    「お、親父!?」
     顔を青ざめさせたごろつきたちに対し、硝煙をくゆらせる拳銃を構えたまま、指揮官が冷たい視線を向ける。
    「諸君らの意見と主張を聞き入れる権限は我々には与えられていない。我々は上層部の命令に沿って、この油田を掌握するのみである。抵抗する者は容赦なく排除する」
     指揮官が右拳を挙げ、背後の兵士たちが一斉に小銃を構える。
    「今から5秒以内に立ち去れ。でなければ抵抗の意思があるものと見なし、射殺する」
    「……っ」
     倒れたリーダーに駆け寄ることもできず、荒くれ者たちはじりじりと後ずさりし始めていた。だが――。
    「……ぅううおおおおおおッ!」
     荒くれ者たちの中から少年が一人、錆びた鉄パイプを手に駆け出してきた。
    「よくも……よくも親父を……よくもーッ!」
    「撃て」
     指揮官は淡々とした口調でそう命じ、右拳を前に倒す。兵士たちは各々、命じられた通りに小銃の引金を絞ろうとした。

     その時だった。
    「……っ!?」
     少年の前に全長2メートルを優に超える巨大な肉塊が突然現れ、立ちはだかった。
    「グルル……ル……帰レ……オ前ラ」
    「な、……なんだ、あれ」
    「熊、……か、いや、狼?」
    「にしたって、……あんな、デカい、の」
    「……バケモノ……!?」
     安っぽい特撮映画くらいにしか出てこないような異形の獣を目にし、兵士たちは一様にたじろぐ。冷徹に振る舞っていた指揮官も例外ではなく、ここで初めて、動揺した様子を見せた。
    「……うっ、……撃て! 撃て!」
     慌てて兵士たちは、そのバケモノに向かって銃弾を撃ち込む。ところが――自動小銃1挺辺り5.8×48ミリライフル弾30発、そして実際に射撃した兵士12人分の、合計360発もの――弾丸を受けても、バケモノは倒れるどころか、血の一滴すら流していなかった。
    「き、……効いてない?」
    「ど、どうします、隊長!?」
    「……~っ」
     指揮官も判断に困っているらしく、ふたたび拳銃を構えかけたが――それを腰のホルスターにしまい込み、今度は右手を開いて横に振った。
    「退却せよ。……退却だ!」
    「りょ、了解っ」
     兵隊たちは慌てて、来た道を引き返していった。
    「……」
     だが、残った荒くれ者たちは揃って表情をこわばらせ、その場に立ち尽くしている。突然その場に現れたバケモノが何なのか、そして何の危険があるのか把握できなかったからだ。
     ところがバケモノは突然膝を着き、しわしわと縮んでいく。やがてどこにでもいるような短耳の小男の姿になり、そのしょぼくれた男は荒くれ者たちに、申し訳なさそうな顔を向けた。
    「……あの、……ごめんなさい、……俺なんかが、大事なお話の邪魔、しちゃったみたいで。……すんません、ほんと、すんませんです」
    「……は?」
     目の前で起こったはずの出来事が信じられなかったらしく、皆はぽかんとしていた。
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