「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・底辺譚 3
シュウの話、第111話。
パパ・ラコッカ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
結論から言うと――あの胸を撃たれたはずのリーダーは、しっかり生きていた。
「ふぅー……思ったより胸にずしんと来たぜ。もうちょっと薄かったらヤバかったかもな」
銃撃されることをあらかじめ予想していたため、胸に鉄板を仕込んでいたのである。
「マジで死んだかと思って、流石にビビったっスよ」
「アタマ狙われないようにヘルメット被ってたのが功を奏したな。賭けが当たったぜ」
「親父……冗談キツいっすよ。あんた、賭け事なんてやんねータチでしょーが」
「ヘヘへ、文学的表現ってやつだよ。……で、そこで申し訳なさそうにチラチラこっち見てるお兄ちゃんよ」
熊獣人は廃墟の入口でこそこそと様子を伺っていた、あのしょぼくれた顔の男に声をかけた。
「あっ、はい、すんません」
「いや、すんませんじゃなくてよ、こっちはありがとよって言ってんだ。おかげで兵隊と真正面からドンパチやらずに済んだんだからよ。躊躇(ちゅうちょ)なくタマ撃ち込んでくるようなのが相手じゃ、死人が2桁になっちまうところだった」
「あ……えと……ども。あの、それじゃ俺……」「そんでよ」
立ち去ろうとした男の手を、熊獣人がひょいとつかむ。
「あんた、あの……あれは、一体何だったんだ? いきなり2メートル半を超える怪獣みたいなのになったかと思えば、今みたいにしょんぼりした小男になってやがるしよ」
「……っ、あのー、それは、その」
男があからさまに困った表情を浮かべたためか、熊獣人はばたばたと手を振って「いや、いいんだ」と返した。
「言いたくないんなら言わんでいい。この街じゃそんなやつだらけだし、まさかグループセラピーみたく『俺の罪を告白します』なんてこと、俺の教室でだってやりゃしねえよ」
「きょ、……教室?」
一転、きょとんとした男に、荒くれ者たちはどっと笑い出した。
「親父のこと知らねえのかい、あんた」
「聞いたことないか? 『パパ・ラコッカ』の話」
「すんません……全然」
頭を下げる男に、熊獣人はにかっと笑って返した。
「誰だって一番最初は無知が当然ってもんよ。知らねえってのは別に恥でも無礼でもねえさ。そんじゃ改めて自己紹介と行くか。俺はロロ・ラコッカ。この難民特区で教師をしてる。無免許だけどな」
そう紹介されて、男は辺りを見回す。確かにその廃墟には――相当な年代物ではあるが――机と椅子が並んでいた。
「俺たちは親父の生徒さ。つっても何年で卒業とかないから、みんな来たり来なかったり、またフラッと寄ったりって感じだけど」
「親父はコワモテのヒゲ面だし身長200近いし岩みてーな見た目だけど、何だかんだクソ真面目で教育熱心だし、色々親身になってくれるガチのド聖人だよ」
「ま、お節介なとこもわりかしあるけどよ」
「だもんで俺たちは親父を慕ってんのさ」
「そう、自称『ラコッカファミリー』。だから俺たちは親父のことを先生じゃなく親父(パパ)って呼んでんだ」
「『ファミリー』だからってマフィアやら愚連隊やらとは一緒にすんなよ。俺たちゃ親父の『善く生きよ』って教えを守ってるからな」
「おうよ。人に優しく、世の中に優しく、もちろん自分にも優しく! それが俺たちのザユーのメーよ」
荒くれ者たちに見えた彼らは、とても明るく人懐っこい、気さくな人間ばかりだった。その彼らの前に立つロロもまた――口調こそ若干ぶっきらぼうではあったが――大らかで優しい男だった。
「ってわけでだ、とにかく俺たちはあんたに敬意と感謝を表したい。良ければ持て成しっつーことで、メシをおごらせてくれや」
食事と聞いた途端、男の腹がぐう、と鳴る。
「あぅ……」
「ははは……、いい返事が聞けて何よりだ。それじゃ、……おっと。そう言やあんたの名前を聞いてなかったな。なんて名前だ?」
ロロに尋ねられ、男は――やはり申し訳なさそうに――ぼそっと答えた。
「ラック・イーブンです」
彼の名前を聞いた途端、「ファミリー」はどよめき立った。
「ラックぅ!?」
「えらく縁起のいい名前じゃねえか!」
そう言われ、ラックは否定しようとする。
「あ、いえ、ラックはラック(Luck:幸運)じゃなくて……」
しかし彼のか細い声は、「ファミリー」の陽気な笑い声に、簡単にかき消されてしまった。
「よろしくな、ラック。ま、楽しむほどの美味さじゃないかも知れんが、せめて腹一杯食っていってくれや」
ロロがそう言ってラックの肩をポンポンと叩く頃には、「ファミリー」は既にもう、その場を離れて調理に向かっていた。
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パパ・ラコッカ。
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結論から言うと――あの胸を撃たれたはずのリーダーは、しっかり生きていた。
「ふぅー……思ったより胸にずしんと来たぜ。もうちょっと薄かったらヤバかったかもな」
銃撃されることをあらかじめ予想していたため、胸に鉄板を仕込んでいたのである。
「マジで死んだかと思って、流石にビビったっスよ」
「アタマ狙われないようにヘルメット被ってたのが功を奏したな。賭けが当たったぜ」
「親父……冗談キツいっすよ。あんた、賭け事なんてやんねータチでしょーが」
「ヘヘへ、文学的表現ってやつだよ。……で、そこで申し訳なさそうにチラチラこっち見てるお兄ちゃんよ」
熊獣人は廃墟の入口でこそこそと様子を伺っていた、あのしょぼくれた顔の男に声をかけた。
「あっ、はい、すんません」
「いや、すんませんじゃなくてよ、こっちはありがとよって言ってんだ。おかげで兵隊と真正面からドンパチやらずに済んだんだからよ。躊躇(ちゅうちょ)なくタマ撃ち込んでくるようなのが相手じゃ、死人が2桁になっちまうところだった」
「あ……えと……ども。あの、それじゃ俺……」「そんでよ」
立ち去ろうとした男の手を、熊獣人がひょいとつかむ。
「あんた、あの……あれは、一体何だったんだ? いきなり2メートル半を超える怪獣みたいなのになったかと思えば、今みたいにしょんぼりした小男になってやがるしよ」
「……っ、あのー、それは、その」
男があからさまに困った表情を浮かべたためか、熊獣人はばたばたと手を振って「いや、いいんだ」と返した。
「言いたくないんなら言わんでいい。この街じゃそんなやつだらけだし、まさかグループセラピーみたく『俺の罪を告白します』なんてこと、俺の教室でだってやりゃしねえよ」
「きょ、……教室?」
一転、きょとんとした男に、荒くれ者たちはどっと笑い出した。
「親父のこと知らねえのかい、あんた」
「聞いたことないか? 『パパ・ラコッカ』の話」
「すんません……全然」
頭を下げる男に、熊獣人はにかっと笑って返した。
「誰だって一番最初は無知が当然ってもんよ。知らねえってのは別に恥でも無礼でもねえさ。そんじゃ改めて自己紹介と行くか。俺はロロ・ラコッカ。この難民特区で教師をしてる。無免許だけどな」
そう紹介されて、男は辺りを見回す。確かにその廃墟には――相当な年代物ではあるが――机と椅子が並んでいた。
「俺たちは親父の生徒さ。つっても何年で卒業とかないから、みんな来たり来なかったり、またフラッと寄ったりって感じだけど」
「親父はコワモテのヒゲ面だし身長200近いし岩みてーな見た目だけど、何だかんだクソ真面目で教育熱心だし、色々親身になってくれるガチのド聖人だよ」
「ま、お節介なとこもわりかしあるけどよ」
「だもんで俺たちは親父を慕ってんのさ」
「そう、自称『ラコッカファミリー』。だから俺たちは親父のことを先生じゃなく親父(パパ)って呼んでんだ」
「『ファミリー』だからってマフィアやら愚連隊やらとは一緒にすんなよ。俺たちゃ親父の『善く生きよ』って教えを守ってるからな」
「おうよ。人に優しく、世の中に優しく、もちろん自分にも優しく! それが俺たちのザユーのメーよ」
荒くれ者たちに見えた彼らは、とても明るく人懐っこい、気さくな人間ばかりだった。その彼らの前に立つロロもまた――口調こそ若干ぶっきらぼうではあったが――大らかで優しい男だった。
「ってわけでだ、とにかく俺たちはあんたに敬意と感謝を表したい。良ければ持て成しっつーことで、メシをおごらせてくれや」
食事と聞いた途端、男の腹がぐう、と鳴る。
「あぅ……」
「ははは……、いい返事が聞けて何よりだ。それじゃ、……おっと。そう言やあんたの名前を聞いてなかったな。なんて名前だ?」
ロロに尋ねられ、男は――やはり申し訳なさそうに――ぼそっと答えた。
「ラック・イーブンです」
彼の名前を聞いた途端、「ファミリー」はどよめき立った。
「ラックぅ!?」
「えらく縁起のいい名前じゃねえか!」
そう言われ、ラックは否定しようとする。
「あ、いえ、ラックはラック(Luck:幸運)じゃなくて……」
しかし彼のか細い声は、「ファミリー」の陽気な笑い声に、簡単にかき消されてしまった。
「よろしくな、ラック。ま、楽しむほどの美味さじゃないかも知れんが、せめて腹一杯食っていってくれや」
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