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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・福熊譚 3

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    シュウの話、第115話。
    罪と罰と、そして因果と。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     雨が小ぶりになったためか、ようやくおんぼろセダンの空調が効き始め、車内は暖かくなり始めた。
    「ま、繰り返すようだが到着までは時間がかかる。俺にしても無言で前だけじーっと見てるってのは退屈でたまらん。ラジオ付けたところで、聞こえてくんのは白猫党の流すうぜえ時報とウソだらけのニュースばっかりじゃ、聞く気にならん。だからよ、ちょいと話でもしようや」
    「ああ」
     ロロが応じた途端、兎獣人はこれまでにもまして饒舌になった。
    「それじゃ、改めて名前とトシ聞かせてもらっていいかい?」
    「ロロ・ラコッカ、22歳だ」
    「領内では何の仕事してた?」
    「車輌工場で働いてた。なんかのシャフトとかでけえベアリングとかを毎日運ばされてた」
    「どうやって亡命のカネ貯めたんだ? そんなしょっぱい仕事じゃ、22で50万コノンも貯めらんねえだろ」
    「それは……」
     口ごもったロロに、兎獣人はニヤッと笑って見せる。
    「2人きりだぜ? 俺だってキレイな身じゃねえし、チクる相手もいねえ。悪事を隠す理由はねえぞ」
    「……部品、運んでたって言ったろ? それを横流ししてた」
    「他には? 白猫党領製のクズ部品チマチマ売っぱらったくらいじゃ、50万にゃ到底届かねえぜ?」
    「……っ」
     ごまかそうとしたことも気取られているらしいことを悟り、ロロは観念した。
    「所長室の鍵を偽造して……金庫から盗んだ」
    「ひっひひ、やるじゃねえか。だが後悔もしてるってツラだな。お前さん、今こう思ってんだろ。『あんな罪を犯した罰(ばち)が今、俺に当たっちまったんだ』ってな」
    「それは……ちょっと、思ってる」
    「ねえよ、そんなもん」
     ロロの懺悔を、兎獣人は笑い飛ばした。
    「カミサマの罰なんてのがマジにあるってんなら、俺なんか百回は死ななきゃならねえ。悪いことは一通りやったからな。ところがこうしてジジイになっても――なっちまったってのに――まーだピンピンしてる。ってことはねえんだよ、罰なんてのはよ。
     しかしよ、兄ちゃん。もし仮にあるってんなら、罰がこの程度で済んで良かったじゃねえか」
    「え?」
    「せいぜいびしょ濡れになっていかがわしいジジイとボロいクルマでドライブする羽目になったってくらいなら、安いもんだろ。だからよ、こう思えばいいんだ。『俺は運がいい』ってな」
    「運がいいって……これでかよ」
     再び雨が振り出し、空調がまた弱くなっていたが、兎獣人は意に介していないらしく、依然ニヤニヤと笑っていた。
    「そもそも運の良し悪しなんざ、そいつ自身の思い込みだ。道端で100万拾って、それで罰が当たると思い込めば不運だが、傍から見りゃバカみてえなこと考えてるって思わねえか? 普通に幸運だろ、んなもん」
    「うーん……まあ……うん」
    「起こったことを幸運と思うか、不運と思うか。どうせなら運がいいって思って前向きになった方が、人生楽しくなるぜ」
    「……そんなもんかな」

     そんな人生訓めいたことを兎獣人から聞かされながら、セダンは丸一日かけて東へ向かい、西トラス王国に到着した。そこでロロは――自分が乗るはずだったバスが襲撃され、乗員・乗客全員が死亡したことを聞かされた。
    「なっ……!?」
    「あの大雨で道を間違えたらしい。予定地点より南によれて、リモード共和国の方へ行っちまったんだ。……それであの『騎士団』に」
    「そんな……」
     友人たちが皆殺しにされたことを知り、ロロは愕然としていたが――。
    「……だけど……俺はあのバスに乗らなかった」
    「あんたにとっちゃ、雨も却ってラッキーだったな」
     バスの襲撃を知らせた業者が、ロロの乗ってきたセダンの屋根をぽんぽんと叩いてため息をつく。
    「流石にあのじいさんでも、こんなおんぼろセダンで土砂降りの中だったから、飛ばすに飛ばせなかったんだろ。もしこのセダンがもうちょっとマシなヤツだったか、あるいはバッチリ晴れててバスに追いつけてたりしたら、あんたも同じ目に遭ってたかもな」
    「……俺、運がいいのか?」
     誰ともなしに尋ねたが、業者は聞いていなかったし、そしてあの兎獣人ももう、その場から離れていた。



     兎獣人から受けたアドバイスに従い、ロロは新天地でも、自分に起こったどんな出来事も「自分の幸運故に起こった吉事」として捉えることにした。その前向きな思考と生来の生真面目さが功を奏し、ロロは亡命後ほどなくして、小学校の用務員として働くことができた。

     その後ロロはさらなる躍進を目指し、勉強と技能習得を続けていたが――双月暦696年、時代のうねりによって、彼はまたしても自分に問うことになる。
    「自分は果たして幸福であるのか」を。
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