「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・福熊譚 5
シュウの話、第117話。
国家崩壊の3日間。
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5.
ありがたいことに段ボール箱の中には新品の電池も入っており、ロロは何の問題もなくラジオを聴くことができた。
問題だったのは、ラジオで流れていた内容だった。
《……繰り返します。WTNB、西トラス国営放送は、すべての業務を停止しました。繰り返します……》
「……は?」
そのまま1分ほど聴き続けていたが、同じ内容がただひたすら繰り返されるばかりで、それ以上の情報は何も得られなかった。
(業務停止って……つまり放送終了とか休止とかじゃなくてもう、事実上廃業した、倒産したって話だよな? って倒産? 国営放送が? ウソだろ?)
つくづくありがたいことに、ラジオの裏には元の持ち主が各ラジオ局の周波数をメモ書きしたものを貼り付けてくれていた。ロロはそれを確認しながら、一つずつ各局の放送を確かめる。
(FMニューフィールド……ラジオ・カプリ……天帝教ラジオWTK……ダメだ、何にも聴こえねえ。軒並み全滅してるらしい。あとは……)
どうやら年配の人間には、これを聴くことに忌避感があったらしく――メモの一番下に書かれていた東トラス王国のラジオ局の周波数に合わせたところ、若干ノイズ混じりではあったが、どうやら通常通りの放送が行われているようだった。
《……何と言ってもこんなことが起こってしまった一番の原因は、西トラス政府が国民にまともな説明をしなかったことですよ。氷曜の時点でデフォルトしていることを知らなかったのは、他ならぬ西トラスの国民だけだったって言っても過言じゃないでしょう。なにせ火曜にはもう、金火狐銀行が輸送トラックを総動員してたって話ですからね》
ノイズ混じりのラジオ放送を辛抱強く聴き続け、どうにかロロにも西トラス王国が置かれていた、悲惨な状況を把握することができた。
3日前。かねてより白猫党・東トラス王国両面に対する防衛費と、難民支援を主とする社会保障費の増大で火の車となっていた西トラス王室政府の財政は、この時点で既に赤字国債の乱発――「償還期限が迫っている国債を返済すべく、さらに国債を発行する」と言う自転車操業、悪循環の状況に陥っていたのだが、この日ついにこれが破綻し、デフォルト(債務不履行)となってしまった。即ち国債の発行によって返済資金を調達したものの、返済すべき額に届かなかったのである。
ところが西トラス政府はこの事実を国民に公表せず、なおも資金繰りに奔走していた。もしこの件が明るみに出た場合、西トラスの発行する通貨が暴落し、いよいよもって危機的状況に陥ることが予想されたためである。
3日前午後から一昨日の早朝にかけて。西トラス政府はひた隠しにしていたものの、当然ながら金融筋――銀行や投資機関はデフォルトの件を把握しており、そして今後起こりうる通貨暴落も予想していた。そのため彼らは大急ぎで所有している預金・資産を、国外に持ち出したのである。
この時点で政府が強権を発動し、彼らを足止めすることも可能なはずだったが、自ら動くことでデフォルトが発覚することを恐れた政府は何の対策も執らなかったばかりか、彼らの行動を事実上黙認してしまったのである。当然、金融筋はこれ幸いとばかり、資産を根こそぎ西トラス王国から引き上げてしまった。となればこれも当然のことだが――国内のすべての銀行・投資会社が、業務を停止した。
そして一昨日の午前中、銀行や投資会社の窓口がいつまで経っても開かないことをいぶかしんだ国民があちこちの伝手に尋ね回った結果、ついにデフォルトの事実が国民に知れ渡った。
いつの間にか自分たちの資産が残らず国外に持ち出されていたことを知った国民は激怒し、暴動が発生。暴徒と化した国民たちは首相官邸や議事堂、王族の住む宮殿を次々に襲撃して回ったが、閣僚と王族はこの襲撃から間一髪逃れ、隣国である東トラス王国に亡命した。
この亡命した西トラス要人の要請を受け、東トラス王国は暴徒鎮圧のための軍を派遣した。しかし結果から見れば、彼らの目的は鎮圧ではなく、西トラス王国の――大量の難民と言う「負の遺産」を一切受け取らない形での――征服・実効支配であるのは明らかだった。東トラス軍は暴徒を鎮圧するどころか、彼らを放置したまま国内の主要な拠点を制圧した上、要人たちの身の安全と生活の保障を交換条件にして、西トラス全域の併合に同意させたからである。
そして昨日、統一トラス王国と名前を変えたこの国は、「ニューフィールド自由自治特区」の設立を一方的に宣言。元西トラス王国民の同意を一切得ないばかりか、本来定めるべき特区の代表者すらもまともに定めずごまかしたまま、元々の国境をそのまま使う形で以西の全国民を封じ込めてしまった。
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国家崩壊の3日間。
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ありがたいことに段ボール箱の中には新品の電池も入っており、ロロは何の問題もなくラジオを聴くことができた。
問題だったのは、ラジオで流れていた内容だった。
《……繰り返します。WTNB、西トラス国営放送は、すべての業務を停止しました。繰り返します……》
「……は?」
そのまま1分ほど聴き続けていたが、同じ内容がただひたすら繰り返されるばかりで、それ以上の情報は何も得られなかった。
(業務停止って……つまり放送終了とか休止とかじゃなくてもう、事実上廃業した、倒産したって話だよな? って倒産? 国営放送が? ウソだろ?)
つくづくありがたいことに、ラジオの裏には元の持ち主が各ラジオ局の周波数をメモ書きしたものを貼り付けてくれていた。ロロはそれを確認しながら、一つずつ各局の放送を確かめる。
(FMニューフィールド……ラジオ・カプリ……天帝教ラジオWTK……ダメだ、何にも聴こえねえ。軒並み全滅してるらしい。あとは……)
どうやら年配の人間には、これを聴くことに忌避感があったらしく――メモの一番下に書かれていた東トラス王国のラジオ局の周波数に合わせたところ、若干ノイズ混じりではあったが、どうやら通常通りの放送が行われているようだった。
《……何と言ってもこんなことが起こってしまった一番の原因は、西トラス政府が国民にまともな説明をしなかったことですよ。氷曜の時点でデフォルトしていることを知らなかったのは、他ならぬ西トラスの国民だけだったって言っても過言じゃないでしょう。なにせ火曜にはもう、金火狐銀行が輸送トラックを総動員してたって話ですからね》
ノイズ混じりのラジオ放送を辛抱強く聴き続け、どうにかロロにも西トラス王国が置かれていた、悲惨な状況を把握することができた。
3日前。かねてより白猫党・東トラス王国両面に対する防衛費と、難民支援を主とする社会保障費の増大で火の車となっていた西トラス王室政府の財政は、この時点で既に赤字国債の乱発――「償還期限が迫っている国債を返済すべく、さらに国債を発行する」と言う自転車操業、悪循環の状況に陥っていたのだが、この日ついにこれが破綻し、デフォルト(債務不履行)となってしまった。即ち国債の発行によって返済資金を調達したものの、返済すべき額に届かなかったのである。
ところが西トラス政府はこの事実を国民に公表せず、なおも資金繰りに奔走していた。もしこの件が明るみに出た場合、西トラスの発行する通貨が暴落し、いよいよもって危機的状況に陥ることが予想されたためである。
3日前午後から一昨日の早朝にかけて。西トラス政府はひた隠しにしていたものの、当然ながら金融筋――銀行や投資機関はデフォルトの件を把握しており、そして今後起こりうる通貨暴落も予想していた。そのため彼らは大急ぎで所有している預金・資産を、国外に持ち出したのである。
この時点で政府が強権を発動し、彼らを足止めすることも可能なはずだったが、自ら動くことでデフォルトが発覚することを恐れた政府は何の対策も執らなかったばかりか、彼らの行動を事実上黙認してしまったのである。当然、金融筋はこれ幸いとばかり、資産を根こそぎ西トラス王国から引き上げてしまった。となればこれも当然のことだが――国内のすべての銀行・投資会社が、業務を停止した。
そして一昨日の午前中、銀行や投資会社の窓口がいつまで経っても開かないことをいぶかしんだ国民があちこちの伝手に尋ね回った結果、ついにデフォルトの事実が国民に知れ渡った。
いつの間にか自分たちの資産が残らず国外に持ち出されていたことを知った国民は激怒し、暴動が発生。暴徒と化した国民たちは首相官邸や議事堂、王族の住む宮殿を次々に襲撃して回ったが、閣僚と王族はこの襲撃から間一髪逃れ、隣国である東トラス王国に亡命した。
この亡命した西トラス要人の要請を受け、東トラス王国は暴徒鎮圧のための軍を派遣した。しかし結果から見れば、彼らの目的は鎮圧ではなく、西トラス王国の――大量の難民と言う「負の遺産」を一切受け取らない形での――征服・実効支配であるのは明らかだった。東トラス軍は暴徒を鎮圧するどころか、彼らを放置したまま国内の主要な拠点を制圧した上、要人たちの身の安全と生活の保障を交換条件にして、西トラス全域の併合に同意させたからである。
そして昨日、統一トラス王国と名前を変えたこの国は、「ニューフィールド自由自治特区」の設立を一方的に宣言。元西トラス王国民の同意を一切得ないばかりか、本来定めるべき特区の代表者すらもまともに定めずごまかしたまま、元々の国境をそのまま使う形で以西の全国民を封じ込めてしまった。
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