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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・福熊譚 8

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    シュウの話、第120話。
    人生の分岐点。

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    8.
     結局、根が真面目なロロが暴飲暴食したのは――腹を下したこともあって――最初の2日だけで、以降は朝と夕の1日2缶で過ごしていた。昼下がりに多少腹が減る感じはしたものの、今後の先行きがまったく見えない現状を彼なりに考え、節約に努めていたからだ。
    (今日も……脳天気なニュースばっかだな)
     ラジオで朝のニュースを聞き、それが終わったら校内の見回りに向かい、疲れを感じた辺りで倉庫から食糧を取り出し、宿直室にこもって明日を迎える。そんな生活を黙々と続け、東側からの救援を待ち続けたが、それらしいものが来る気配はまったくなかった。
    (明日こそ……明日こそ、何か)
     次の日も、その次の日も、そしてまたその次の日も、ロロは同じように日々を繰り返した。

     そして難民特区の形成から、2週間以上が経った。
    (結局今日も一日何もなし、……か)
     缶詰を抱えて地下倉庫から上がり、渡り廊下を通って宿直室に向かおうとしたところで――。
    (……んっ?)
     見通しのいい廊下であるため、校庭の向こう、校門まで視界が開けているのだが、その校門越しに、影を2つ見つけた。
    (人? ……だよな?)
     見た瞬間、ロロの心中に色々な感情が交錯する。
    (もう薄暗い。7時前だ。誰か一夜過ごしに来たのか? この2週間で初めてだな。……追い払うか? いや、俺がいるってことがバレんのも嫌だ。だって交差点がアレだったんだぞ? 外は完璧に無法地帯のはずだ。暴徒みたいのが大勢押しかけたら、飯も燃料もあっと言う間になくなっちまう。……と言って2人入ってくんのを見逃したら、明日は3人、4人って増えるかも分からん。んじゃやっぱり、今のうちに追い払う方がいいか? うーん……)
     逡巡しつつも、ロロは結局、缶詰を抱えたまま校門まで向かった。
    「あ……」
     そこにうずくまっていたのは、狼獣人の男の子と猫獣人の女の子だった。どうやら兄妹らしく、耳と尻尾の形は違うものの、同じ毛色である。
    「おじちゃん」
     妹らしき方が、門扉越しにロロに声をかける。
    (見た覚え……あるな。ここの生徒だよな)
     棒立ちのままのロロに、もう一度女の子が話しかけてくる。
    「たすけて、おじちゃん」
    「……っ」
     助けを請われ、ロロは思わず一歩後ずさった。
    (どうする?)
     心の中で、ロロは自分自身に問いかける。
    (このまま校門を閉めてりゃ、こいつら入って来れないよな。一応、街の状況把握した後にしっかり施錠したし、扉も子供に登れる高さじゃないし。……でも、見捨てていいのか?)
     夕闇の中でも、この幼い子供たちの衣服がボロボロになっているのがはっきりと分かる。この2週間の間に二人がどんな目に遭っていたか、ロロにはありありと想像できてしまった。
    (兄貴らしい方……鼻血の跡が残ってる。アザもひでえ。めちゃめちゃな殴られ方してやがる。……妹の方も、服に血が付いてる。俺が無視して、扉開けずにこのまま見捨てたら、きっとこいつらは、……明日か、明後日には、死んじまうかも知れねえ。本当に俺はこいつらを見捨てていいのか? 見捨てて学校ん中に閉じこもって助けを待ってるだけの生活してて、それで本当にいいのか?
     どうなんだよ、なあ、俺はよ?)
     逡巡した末――ロロは門扉の鍵を開け、ギシギシと音を立てて校門を開けた。
    「その、……とりあえず、その、入れよ」
    「……ありがとう、おじちゃん」
     兄妹は揃って頭を下げ、恐る恐る中に入った。



    「……それがすべての始まりってヤツだったな」
     しみじみとした顔で昔話を語り終え、ロロは神妙な顔つきになった。
    「結局その後もここの生徒だった子が何人か来て、全員かくまうことにしたんだ。『来る者拒まず』ってヤツだな」
    「はあ」
    「ま、そのままじっとしてんのも何だしなってことで、学校に残ってた教科書とか読み聞かせしたり、荒れっぱなしになってた校庭を畑に変えたりしてる内に、『先生』だの『親父』だの言われるようになっちまってな。……で、今に至るわけだ」
    「本当に親父には感謝してもしきれねーわ、マジで」
    「うんうん、マジそー思うよ~」
     と、話の終わり頃に出てきたあの「狼」と「猫」の兄妹――ダニーとラフィが、ロロの両肩を左右からポンポン叩いた。
    「あの時親父が扉開けてくれなかったら、俺たちマジであのまま死んでたかも知れねーもん」
    「ま、それはいつも言ってるアレだよ、アレ」
     振り返ったロロに、ラフィが満面の笑顔でこう返した。
    「人に優しく、世の中に優しく!」
    「おう。もちろん自分にも優しく、だぜ」
    「分かってるって~」
     うんうんうなずき、ラフィがロロの背中を抱きしめる。
    「先生に教えてもらったこと、あたし、大事に大事に守ってるよ~」
    「んっ……、ああ」
     ロロの首に腕を回し、顔を赤らめるラフィと、ここまで饒舌だったロロが急に黙り込んだのを見て、ラックは何かを察しかけたが――横にいたダニーがウインクし、口に人差し指を当てているのを見て、何も言わずにおいた。
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