「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・応酬譚 1
シュウの話、第122話。
横暴と傲慢。
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1.
「石油湧出地確保を目的とする前回の出動につきまして、兵士が撮影した映像を解析したところ、合成や加工の類が見られないことを確認しました」
将校の報告を聞き終えても、会議室に居並ぶ幕僚たちの、興ざめ気味の顔色に変化はない。
「だから?」
「映像に映っている巨大生物は本物である、と」
「何を言っているのかね? そんなものがいるはずはない。常識的に考えればそうだろう?」
幕僚たちは異口同音に、否定的意見を立て並べる。
「どうせ難民どもの仮装か何かだ。こけおどしでビビらせようと言う魂胆が見え見えだ」
「まったく、大の大人が、それも名誉あるトラス王国軍人が、そんな情けない子供だましに引っかかるとは!」
「いいかね、二度とこんなバカバカしい報告で我々の手を煩わせるんじゃないぞ。今回は厳重注意で済ませておくが、次にまた同じ報告をするようなら、君の処分も検討させてもらうからな」
「……承知しました」
映像をろくに吟味するようなこともせず、幕僚たちはバラバラと席を立ち始めた。
「もう一度出動させろ。今度はあんな子供だましで怯むような腰抜けじゃなく、もっと勇敢で勇気のある者をだ」
「はい」
「ああ、バカバカしい! 子供のお使いじゃあるまいし、こんなことで一々人を呼ぶとはな。あの眼鏡くん、さっさと更迭した方がいいんじゃないかね?」
「まあまあ、誰にだってミスくらいありますよ。今度こそちゃんとやることやってくれるでしょうよ、これだけお説教したらね」
「違いない。でなければよほどの無能だ」
会議室に一人残されたその、眼鏡の将校は、しばらく唇を噛んで顔を真っ赤にしていたが――やがて、はあ、と苛立たしげなため息を一つ吐き、ポケットからスマホを取り出した。
「私だ。もう一度特区に兵士を派遣しろとのご命令だ。今度はもっとバカ……、いや、勇敢な人間を向かわせろとのことだ。……ああ、そうだよ、バカだ。何が出ようと無差別殺戮できるくらいの愚か者を特区に向かわせろとのご命令だよ。……ああ、そいつでいい。人員の采配もそいつに任せればいい。責任をすべて負わせる形にしてくれ。私はもう知らん。……ああ、それで頼む。それじゃ」
通話を終えるなりスマホを机に叩きつけ、将校はもう一度ため息をついた。
「……クソジジイどもめ。少しは現実を見たらどうなんだ」
結局、未確認の巨大生物――ラックが油田制圧部隊の前に現れ、任務を妨害した一件は「ただの扮装」「兵士らしからぬ情けない判断」とみなされ、同様の兵員が再度、難民特区に派遣されることとなった。
そして前回と全く同じように現れた120人の兵隊は、目標である石油湧出地、即ちラコッカファミリーのテリトリー内に足を踏み入れた。
「構え!」
そしてロロたちと顔を合わせるなり、何の通達も行わずにいきなり、兵士たちに小銃を構えさせた。が、王国軍がこうした乱暴な手段に出ることを予想していないロロではない。
「ラック、今だ!」
ロロは即座に自分たちの最高戦力、即ちラックを呼んだ。
「グオオオオッ!」
瞬時にあの名状しがたい獣の姿となったラックが王国兵の前に降り、立ちはだかった。
「フン、そいつが報告にあったコスプレ野郎かよ」
見るからに蛮勇くらいしか取り柄のなさそうな顔の隊長が、構わず号令する。
「撃て! あの着ぐるみを粉々にしてやれ!」
号令に従い、兵士たちは小銃をラックに向け、集中砲火を浴びせたが――前回とまったく同じ条件下での、まったく同じ行動であるため、結果もまったく同じとなった。
「き……効きません!」
1000発以上の弾丸を浴びせられても、ラックの体には傷一つ付かない。
「マダヤルノカ……?」
おどろおどろしい声で威圧したラックに、王国軍は明らかに怯んだ様子を見せた。
「ど、どうします、隊長!?」
「う……撃て撃て! 撃ちまくれ! 全部使え! グレネードもだ!」
兵士たちは携行していた武器をすべて使い、ラックにダメージを与えようと粘るが、ショットガンを撃ち込まれ、手榴弾を投げられ、さらにはグレネード砲弾を浴びせられても、ラックを仕留めるどころか、その場から1センチ動かすことすらもできなかった。
「た、た、隊長! 弾がもうありません!」
「ば……バカな、こんな、……こんなことがあるわけあるか!」
しまいには隊長自らマグナム銃を撃ち出したが――。
「モウヤメテオケ」
ラックが隊長の腕をつかんでそのマグナムをむしり取り、装填されていた12ミリマグナム弾もろとも、ぐしゃぐしゃに丸め潰してしまった。
「モウ一度聞クゾ。マダヤルカ?」
ねじれ折れた指をかばったまま立ち尽くしていた隊長の胸にぽい、とその鉄塊を投げつけた途端、隊長の足元にじょわわ……、と音を立てて水たまりができる。
「ひ、ひぇ、ひゃ、……ひゃーっ!」
そのまま隊長は兵士たちを残し、ほうほうの体で逃げ去る。隊員たちも唖然とした顔を浮かべたまま、大慌てで逃げていった。
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横暴と傲慢。
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「石油湧出地確保を目的とする前回の出動につきまして、兵士が撮影した映像を解析したところ、合成や加工の類が見られないことを確認しました」
将校の報告を聞き終えても、会議室に居並ぶ幕僚たちの、興ざめ気味の顔色に変化はない。
「だから?」
「映像に映っている巨大生物は本物である、と」
「何を言っているのかね? そんなものがいるはずはない。常識的に考えればそうだろう?」
幕僚たちは異口同音に、否定的意見を立て並べる。
「どうせ難民どもの仮装か何かだ。こけおどしでビビらせようと言う魂胆が見え見えだ」
「まったく、大の大人が、それも名誉あるトラス王国軍人が、そんな情けない子供だましに引っかかるとは!」
「いいかね、二度とこんなバカバカしい報告で我々の手を煩わせるんじゃないぞ。今回は厳重注意で済ませておくが、次にまた同じ報告をするようなら、君の処分も検討させてもらうからな」
「……承知しました」
映像をろくに吟味するようなこともせず、幕僚たちはバラバラと席を立ち始めた。
「もう一度出動させろ。今度はあんな子供だましで怯むような腰抜けじゃなく、もっと勇敢で勇気のある者をだ」
「はい」
「ああ、バカバカしい! 子供のお使いじゃあるまいし、こんなことで一々人を呼ぶとはな。あの眼鏡くん、さっさと更迭した方がいいんじゃないかね?」
「まあまあ、誰にだってミスくらいありますよ。今度こそちゃんとやることやってくれるでしょうよ、これだけお説教したらね」
「違いない。でなければよほどの無能だ」
会議室に一人残されたその、眼鏡の将校は、しばらく唇を噛んで顔を真っ赤にしていたが――やがて、はあ、と苛立たしげなため息を一つ吐き、ポケットからスマホを取り出した。
「私だ。もう一度特区に兵士を派遣しろとのご命令だ。今度はもっとバカ……、いや、勇敢な人間を向かわせろとのことだ。……ああ、そうだよ、バカだ。何が出ようと無差別殺戮できるくらいの愚か者を特区に向かわせろとのご命令だよ。……ああ、そいつでいい。人員の采配もそいつに任せればいい。責任をすべて負わせる形にしてくれ。私はもう知らん。……ああ、それで頼む。それじゃ」
通話を終えるなりスマホを机に叩きつけ、将校はもう一度ため息をついた。
「……クソジジイどもめ。少しは現実を見たらどうなんだ」
結局、未確認の巨大生物――ラックが油田制圧部隊の前に現れ、任務を妨害した一件は「ただの扮装」「兵士らしからぬ情けない判断」とみなされ、同様の兵員が再度、難民特区に派遣されることとなった。
そして前回と全く同じように現れた120人の兵隊は、目標である石油湧出地、即ちラコッカファミリーのテリトリー内に足を踏み入れた。
「構え!」
そしてロロたちと顔を合わせるなり、何の通達も行わずにいきなり、兵士たちに小銃を構えさせた。が、王国軍がこうした乱暴な手段に出ることを予想していないロロではない。
「ラック、今だ!」
ロロは即座に自分たちの最高戦力、即ちラックを呼んだ。
「グオオオオッ!」
瞬時にあの名状しがたい獣の姿となったラックが王国兵の前に降り、立ちはだかった。
「フン、そいつが報告にあったコスプレ野郎かよ」
見るからに蛮勇くらいしか取り柄のなさそうな顔の隊長が、構わず号令する。
「撃て! あの着ぐるみを粉々にしてやれ!」
号令に従い、兵士たちは小銃をラックに向け、集中砲火を浴びせたが――前回とまったく同じ条件下での、まったく同じ行動であるため、結果もまったく同じとなった。
「き……効きません!」
1000発以上の弾丸を浴びせられても、ラックの体には傷一つ付かない。
「マダヤルノカ……?」
おどろおどろしい声で威圧したラックに、王国軍は明らかに怯んだ様子を見せた。
「ど、どうします、隊長!?」
「う……撃て撃て! 撃ちまくれ! 全部使え! グレネードもだ!」
兵士たちは携行していた武器をすべて使い、ラックにダメージを与えようと粘るが、ショットガンを撃ち込まれ、手榴弾を投げられ、さらにはグレネード砲弾を浴びせられても、ラックを仕留めるどころか、その場から1センチ動かすことすらもできなかった。
「た、た、隊長! 弾がもうありません!」
「ば……バカな、こんな、……こんなことがあるわけあるか!」
しまいには隊長自らマグナム銃を撃ち出したが――。
「モウヤメテオケ」
ラックが隊長の腕をつかんでそのマグナムをむしり取り、装填されていた12ミリマグナム弾もろとも、ぐしゃぐしゃに丸め潰してしまった。
「モウ一度聞クゾ。マダヤルカ?」
ねじれ折れた指をかばったまま立ち尽くしていた隊長の胸にぽい、とその鉄塊を投げつけた途端、隊長の足元にじょわわ……、と音を立てて水たまりができる。
「ひ、ひぇ、ひゃ、……ひゃーっ!」
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