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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・応酬譚 2

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    シュウの話、第123話。
    百変化ショー。

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    2.
    「本当にケガしてねーのか?」
    「あんだけ撃たれまくってたじゃん」
    「ええ、まあ、はい、全然」
     王国軍による二度目の襲撃を退けた後、ラックはファミリーに囲まれ、裸の上半身をあちこちからじろじろと見つめられていた。
    「ってかさっきの筋肉はどこ行ったんだよ」
    「こーして見るとただのおっさんじゃね?」
    「そりゃ贅肉的なのはないけどさー、筋肉的なのも全然ないし」
    「さっきの変身見てなかったら、マジでただのおっさんにしか見えんし」
    「あ、あの、あんまりおっさんおっさん言わないで下さい。ちょっと、へこみます」
     眉を八の字に曲げ、困った顔を見せるラックを眺めながら、ロロは首をひねっていた。
    「俺も不思議に思うね。一体ありゃ何なんだ? いや、言いたくないなら言わんでいいんだが、やっぱりどうしても気になる、……ってのは分かってくれるだろ?」
    「……まあ、そうですね。それが普通だと思います」
     ラックは頭をかきながら、しどろもどろに説明した。
    「最初に言っておくとですね、俺もよく分かんない……ってのが、正直なところなんです。気付いたら、なんかできるようになってて」
    「1回目と2回目でちょい形違ったよな? 他にも化けられんのか?」
    「はい。……あ、ちょっと危ないんで」
     ラックはうなずき、皆に離れるよう促す。皆が2メートル半ほど離れたところで、ラックは姿を、本物の虎のように変えた。
    「おわっ」
    「マジ虎じゃん」
    「かっこいい!」
    「他には? 他には化けられるか?」
    「アッハイ。コンナノモ行ケマス」
     虎の姿でうなずいたラックは、今度は全長2メートル近い鴉のような姿になった。
    「でっか!」
    「マジ鳥じゃん」
    「それ、空飛べたりできんの?」
    「チョットダケナラ」
    「飛んで飛んで!」
    「イヤ、室内ナンデソレハ」
    「人間はどーなの?」
    「例えば……こいつ、ボリスとか」
     指差された短耳を見て、ラックは彼そっくりに変身して見せた。
    「これで……どうです?」
    「うっわ、完璧ボリスだ」
    「マジ鏡じゃん」
    「じゃ、……あー……、後でよ、その……」
     こそっとラックに耳打ちしようとした男の長い耳を、隣の女がぐにっとつまむ。
    「あんた何考えてんのよ」
    「そりゃま、へへへ、アレだよ、うん」
    「絶対やんないでよ、ラック! 他人に化けんの禁止だかんね!」
    「さんせいさんせーい」
     一通りファミリー同士でじゃれ合ったところで、ロロが場を締める。
    「ま、それについては俺も同意見だ。倫理的に大問題だからな。この数日でラックがクソ真面目な奴で、そんな悪いことやるなんて絶対ないってのは十分分かってるが、一方で頼み込まれて嫌って言えない性格なのもよく分かってる。だからみんな、ラックには他人に化けてもらうって頼むのは、絶対ナシな」
    「は~い」
    「それより問題は――あー、そろそろシャツかなんか着ろよ、ラック――こうして2回、一人もケガ人を出すことなく兵隊を追い返せたわけだが、俺はただの幸運だと思ってる」
    「親父は運いいもんな」
    「そう言う話じゃねえよ。いや、もしかしたらそうかも知れんが、俺が言いたいのは、次に襲って来た時、今度こそ無事じゃ済まんだろうってことだよ」
     ロロの言葉に、浮き立っていた皆は一様に不安な表情を浮かべた。
    「まあ……だよな」
    「ラックが銃も砲弾も効かなかったからビビって逃げたみたいだけど、マジになられたら何すっか分かんねえよな」
    「向こうには何でもあるんだもんな。戦車とか来るかもだし」
    「ラックなら戦車砲くれーなんてこと……」
    「いやいやいや、流石に無理ですよ」
    「そもそもラック一人狙うならまだしも、俺たちまで狙って来たらヤバいし」
    「だよなー……」
     ラックも含めて全員が神妙な顔になり、場が静まり返った。そのため――。
    「……ん?」
     物陰からのピッと言う電子音が、わずかながらはっきりと、その全員の耳に入った。
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