「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・応酬譚 3
シュウの話、第124話。
潜入取材者。
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3.
「誰だ?」
「……っ」
物陰の人間がたじろぐ気配を察し、足の早い者が数名、ばっと駆け出す。まもなく、明らかに特区の人間ではない、身奇麗な短耳の男を連れて戻って来た。
「コイツ写真撮ってたっスよ、親父」
「写真? ……ってあんた、見覚えあるな」
腕をがっちりとつかまれた短耳の顔をしげしげと見つめ、ロロはポン、と手を打つ。
「ああ、そうだ。あんた、あの農業支援NPOのアレ……『緑と土の会』に付いてきて、俺たちに取材してた記者さんだろ」
「ああ。……分かってくれたか、怪しい者じゃないって」
「じゃなんで盗撮してたんだよ」
「盗撮じゃない。素の姿を撮影したかったんだ。……そろそろ離してくれ」
痛がる様子を見せる男にうなずき、ロロは解放するよう促した。
「離してやれ。この人数に囲まれて乱暴なことするようなタイプじゃない」
「うっス」
ようやく解放され、男は苦い顔をしつつも頭を下げた。
「すまなかった。失礼なことをした」
「『失礼な』だって? その画像、どうするつもりだったんだ?」
「記事に使おうと考えていた。もちろん無断使用するつもりはない。撮った後であんたらにちゃんと挨拶して、使用許可を取る予定だったんだ」
「ウソつけ。黙って逃げるつもりだったんだろ」
すごむファミリーに、ロロが首を振って返す。
「それはないだろ。このお兄ちゃん、礼儀正しいと言うか、やたら律儀な男だからな。前の取材ん時だって、わざわざ段ボール箱一杯にメシ持ってきてくれたしよ」
「覚えててくれたのか?」
目を丸くした男に、ロロはにかっと笑いかけた。
「俺も律儀な方でよ、受けた恩は忘れねえようにしてる。名前もちゃんと覚えてるぜ、カニート・サムスンさん」
「あー、と……すまんが、『サムソン』だ。あの時にも説明したと思うが」
「んっ? ……っと、いけね。あん時と同じ間違いしてんな、俺。『猫』のお嬢ちゃんの方が『ス』で、あんたの方が『ソ』だったな」
「スペルは一緒だが、あいつのご先祖さんが外国人だったから、ちょっと風変わりな読み方がそのまんま続いてるんだそうだ、……ってとこまで説明してたよな。覚えててくれたみたいでどうも」
「いやぁ、成り行きしか覚えてなかったな、すまんすまん」
揃って頭を下げ合ったところで、ロロが真面目な顔になる。
「それでサムソンさん、今日は何の用だ? まさかこのタイミングで農業ドキュメンタリー組むって話じゃねえよな?」
「ああ、油田の件で訪ねた。だが色々と予想外のことが起こってて、どう記事にしたものかと悩んでるところだよ」
そう返して、カニートはラックの方に目をやった。
「俺の予想じゃ、震災のどさくさに紛れて油田を強奪したトラス王国軍の横暴、……みたいな記事にできるかと踏んでたんだ。ところがどう言うわけか、一度目に派遣された軍がわたわたと逃げ帰ってきたって聞いて、これは何かあるなとにらんだんだ。それでこっそり二度目の派遣を撮影してたわけだが、まさかこんな事態になってるとはな」
「そ、その……もしかして俺のこと、記事にするんです?」
ことさら嫌そうな表情を浮かべたラックに、カニートは首を横に振って返した。
「したところで誰も信じるわけがない。何しろ軍のお偉方だって、『ニセモノだ』『トリックだ』と断定してもう一回、まったく同じ規模の部隊を派遣したって話らしいからな。……とは言え二度も同じ負け方をして、その上負傷者も出たんだ。次こそは、本気の殲滅部隊を送り込んでくるだろう」
「……だろうな」
苦い顔をするロロに対し、カニートはニヤ、と笑って見せた。
「だが俺に考えがある。上手くすれば、三度目の派遣をしばらく止められるだろう」
「なに?」
「そこで交換条件だ。この油田の件に関して、俺に独占取材の権利を取らせてくれ。他のメディアには一切応対せず、俺とだけ話をするよう約束してほしい。そうすれば今言ったアイデアを実行し、軍の派遣を止めさせる。どうだろうか?」
「んなもん約束しなくっても」
ロロは肩をすくめ、カニートに手を差し出す。
「この数日、取材目的で来た王国民はあんただけだ。あんたがブッちぎりの一着な以上、あんたが最優先だろ」
「そう言ってくれて嬉しいね」
カニートはロロと堅く握手を交わし、取材契約を結んだ。
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潜入取材者。
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「誰だ?」
「……っ」
物陰の人間がたじろぐ気配を察し、足の早い者が数名、ばっと駆け出す。まもなく、明らかに特区の人間ではない、身奇麗な短耳の男を連れて戻って来た。
「コイツ写真撮ってたっスよ、親父」
「写真? ……ってあんた、見覚えあるな」
腕をがっちりとつかまれた短耳の顔をしげしげと見つめ、ロロはポン、と手を打つ。
「ああ、そうだ。あんた、あの農業支援NPOのアレ……『緑と土の会』に付いてきて、俺たちに取材してた記者さんだろ」
「ああ。……分かってくれたか、怪しい者じゃないって」
「じゃなんで盗撮してたんだよ」
「盗撮じゃない。素の姿を撮影したかったんだ。……そろそろ離してくれ」
痛がる様子を見せる男にうなずき、ロロは解放するよう促した。
「離してやれ。この人数に囲まれて乱暴なことするようなタイプじゃない」
「うっス」
ようやく解放され、男は苦い顔をしつつも頭を下げた。
「すまなかった。失礼なことをした」
「『失礼な』だって? その画像、どうするつもりだったんだ?」
「記事に使おうと考えていた。もちろん無断使用するつもりはない。撮った後であんたらにちゃんと挨拶して、使用許可を取る予定だったんだ」
「ウソつけ。黙って逃げるつもりだったんだろ」
すごむファミリーに、ロロが首を振って返す。
「それはないだろ。このお兄ちゃん、礼儀正しいと言うか、やたら律儀な男だからな。前の取材ん時だって、わざわざ段ボール箱一杯にメシ持ってきてくれたしよ」
「覚えててくれたのか?」
目を丸くした男に、ロロはにかっと笑いかけた。
「俺も律儀な方でよ、受けた恩は忘れねえようにしてる。名前もちゃんと覚えてるぜ、カニート・サムスンさん」
「あー、と……すまんが、『サムソン』だ。あの時にも説明したと思うが」
「んっ? ……っと、いけね。あん時と同じ間違いしてんな、俺。『猫』のお嬢ちゃんの方が『ス』で、あんたの方が『ソ』だったな」
「スペルは一緒だが、あいつのご先祖さんが外国人だったから、ちょっと風変わりな読み方がそのまんま続いてるんだそうだ、……ってとこまで説明してたよな。覚えててくれたみたいでどうも」
「いやぁ、成り行きしか覚えてなかったな、すまんすまん」
揃って頭を下げ合ったところで、ロロが真面目な顔になる。
「それでサムソンさん、今日は何の用だ? まさかこのタイミングで農業ドキュメンタリー組むって話じゃねえよな?」
「ああ、油田の件で訪ねた。だが色々と予想外のことが起こってて、どう記事にしたものかと悩んでるところだよ」
そう返して、カニートはラックの方に目をやった。
「俺の予想じゃ、震災のどさくさに紛れて油田を強奪したトラス王国軍の横暴、……みたいな記事にできるかと踏んでたんだ。ところがどう言うわけか、一度目に派遣された軍がわたわたと逃げ帰ってきたって聞いて、これは何かあるなとにらんだんだ。それでこっそり二度目の派遣を撮影してたわけだが、まさかこんな事態になってるとはな」
「そ、その……もしかして俺のこと、記事にするんです?」
ことさら嫌そうな表情を浮かべたラックに、カニートは首を横に振って返した。
「したところで誰も信じるわけがない。何しろ軍のお偉方だって、『ニセモノだ』『トリックだ』と断定してもう一回、まったく同じ規模の部隊を派遣したって話らしいからな。……とは言え二度も同じ負け方をして、その上負傷者も出たんだ。次こそは、本気の殲滅部隊を送り込んでくるだろう」
「……だろうな」
苦い顔をするロロに対し、カニートはニヤ、と笑って見せた。
「だが俺に考えがある。上手くすれば、三度目の派遣をしばらく止められるだろう」
「なに?」
「そこで交換条件だ。この油田の件に関して、俺に独占取材の権利を取らせてくれ。他のメディアには一切応対せず、俺とだけ話をするよう約束してほしい。そうすれば今言ったアイデアを実行し、軍の派遣を止めさせる。どうだろうか?」
「んなもん約束しなくっても」
ロロは肩をすくめ、カニートに手を差し出す。
「この数日、取材目的で来た王国民はあんただけだ。あんたがブッちぎりの一着な以上、あんたが最優先だろ」
「そう言ってくれて嬉しいね」
カニートはロロと堅く握手を交わし、取材契約を結んだ。
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