「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・応酬譚 5
シュウの話、第126話。
批判動画の反響と反応。
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5.
王国軍批判の動画が公開されてから2日後、再びカニートが「学校」にやって来た。
「王国は大騒ぎになってる。王室政府は――救助が最優先の国務だの何だのって言い訳して――派遣を行わない旨を正式表明した。それにちょっとネットを探れば報告サイトだの監視サイトだのが一杯立ってて、正義の味方気取りの国民が逐一王国軍の動きを伝えてる。少しでも変な動きすれば、すぐ大炎上かって状況だ」
「そんならしばらくは安心、……と言いたいところだが、あんたは大丈夫なのか?」
ロロに尋ねられ、カニートは苦い顔を返した。
「軍が躍起になってあの動画の出処を探ってるってのも、その監視サイトで報告されてる。バレたらタダじゃすまないだろうな」
「ツラの皮の厚いヤツらだから、損害賠償やら何やら言ってくるのは間違いないな。会社もクビになるだろうし」
そう返したロロに、カニートは「いや」と首を振る。
「去年からフリーになったから、その点は心配ないんだ」
「ん? じゃああんた、どうやって特区に出入りしてるんだ? 『デカい会社がバックにいるからフリーパスなんだ』みたいなこと、何度か言ってた覚えがあるが」
「実はフリーになった旨を軍に伝えてない。だが会社にいた時から何度も通ってるから、『ああ、いつもの』みたいな感じで、ここ1、2年は通行許可証をチェックされてないんだ。実質、顔パスみたいなもんだな。とは言え徹底調査って話になったし、いつバレるか分からない。通信もセーフエリア経由だからいつ止められてもおかしくないし、セーフエリアに戻ること自体がもうヤバいかも」
「じゃ、これからどうすんだ? 特区でジッとしてるばっかりじゃ、何もできやしねーだろ?」
そう尋ねられ、どことなく斜に構えていたカニートの顔に渋みが浮かぶ。
「そのー……軍の混乱に乗じて一旦戻ろうって考えてたんだが……思ってたより動きが早くて……慌てて逃げてきたと言うか……」
「……打つ手なし?」
「ウソだろ?」
「自信満々に動画流しといてそれかよ」
「だっせぇ」
「うぐぐぐ……」
ファミリーからもなじられ、カニートはとうとう黙り込んでしまった。
と――着信音が鳴り、カニートは胸ポケットからスマホを取り出す。
「ん? ……あいつか。もしもし?」
《あ、つながった。今大丈夫ですかー?》
「ああ、大丈夫だ」
《ソレじゃズバリ聞きますけど、動画流したのって先輩ですー?》
その質問に、カニートも、周りのファミリーたちも目を丸くした。
「動画って……」
「例のアレだよな」
「誰なんだ、相手?」
誰からともなしに尋ねられ、カニートは小声で答える。
「俺の元後輩だ。……動画って何の話だ?」
《あ、トボけちゃうんです? 動画の声、先輩のでしたけどー》
「……」
しばらく沈黙が流れたが、やがて諦めた様子で、カニートが口を開いた。
「そうだよ、俺だ。トラス王国軍の話だよな?」
《ですです。で、今どちらにいます? 特区の中ですか?》
「ああ」
《特区にいるなら今、油田の所有権主張してる人と一緒にいますよね?》
「そう推理した理由は?」
《先輩のコトだから、『軍を遠ざける代わりに取材させろ』って感じの取引であの動画流したんでしょうし――ただの正義感だけで軍にケンカ売るほど粗忽じゃないでしょうしねー、流石に――ソレならその人たちのトコにいるだろうなーって》
「100点満点だな。成長したもんだな、あのそそっかしかったお嬢様が」
《えっへへへー、見直したでしょ?》
電話の相手はいたずらっぽく笑って返し、こう続けた。
《ソレでもいっこ質問なんですけど、その所有者の人と今、お話できます?》
「ん? ……ちょっと待ってくれ」
カニートはロロに、スマホを向ける。
「話してもらっていいか?」
「おう。……もしもし? 俺が一応、所有者ってことになってる」
《改めまして、シュウ・メイスンと申しますー》
「ロロ・ラコッカだ。よろしく」
《確認なんですが、ラコッカさん以外に石油の所有権を主張してる人、いたりします?》
「ん? いや……いないな」
《対立中だったりってコトもなく?》
「ああ。俺、と言うか俺の学校……、んん、まあ、俺の組織、……ってのも違うな、うーん、とにかく俺んとこだな、ウチの所有ってことで話は付いてる」
《なら話が早いな》
と、シュウのものではない声が割って入ってくる。
《ロロとか言ったな。単刀直入に言うぞ。石油の話、オレにまとめさせろ》
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批判動画の反響と反応。
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王国軍批判の動画が公開されてから2日後、再びカニートが「学校」にやって来た。
「王国は大騒ぎになってる。王室政府は――救助が最優先の国務だの何だのって言い訳して――派遣を行わない旨を正式表明した。それにちょっとネットを探れば報告サイトだの監視サイトだのが一杯立ってて、正義の味方気取りの国民が逐一王国軍の動きを伝えてる。少しでも変な動きすれば、すぐ大炎上かって状況だ」
「そんならしばらくは安心、……と言いたいところだが、あんたは大丈夫なのか?」
ロロに尋ねられ、カニートは苦い顔を返した。
「軍が躍起になってあの動画の出処を探ってるってのも、その監視サイトで報告されてる。バレたらタダじゃすまないだろうな」
「ツラの皮の厚いヤツらだから、損害賠償やら何やら言ってくるのは間違いないな。会社もクビになるだろうし」
そう返したロロに、カニートは「いや」と首を振る。
「去年からフリーになったから、その点は心配ないんだ」
「ん? じゃああんた、どうやって特区に出入りしてるんだ? 『デカい会社がバックにいるからフリーパスなんだ』みたいなこと、何度か言ってた覚えがあるが」
「実はフリーになった旨を軍に伝えてない。だが会社にいた時から何度も通ってるから、『ああ、いつもの』みたいな感じで、ここ1、2年は通行許可証をチェックされてないんだ。実質、顔パスみたいなもんだな。とは言え徹底調査って話になったし、いつバレるか分からない。通信もセーフエリア経由だからいつ止められてもおかしくないし、セーフエリアに戻ること自体がもうヤバいかも」
「じゃ、これからどうすんだ? 特区でジッとしてるばっかりじゃ、何もできやしねーだろ?」
そう尋ねられ、どことなく斜に構えていたカニートの顔に渋みが浮かぶ。
「そのー……軍の混乱に乗じて一旦戻ろうって考えてたんだが……思ってたより動きが早くて……慌てて逃げてきたと言うか……」
「……打つ手なし?」
「ウソだろ?」
「自信満々に動画流しといてそれかよ」
「だっせぇ」
「うぐぐぐ……」
ファミリーからもなじられ、カニートはとうとう黙り込んでしまった。
と――着信音が鳴り、カニートは胸ポケットからスマホを取り出す。
「ん? ……あいつか。もしもし?」
《あ、つながった。今大丈夫ですかー?》
「ああ、大丈夫だ」
《ソレじゃズバリ聞きますけど、動画流したのって先輩ですー?》
その質問に、カニートも、周りのファミリーたちも目を丸くした。
「動画って……」
「例のアレだよな」
「誰なんだ、相手?」
誰からともなしに尋ねられ、カニートは小声で答える。
「俺の元後輩だ。……動画って何の話だ?」
《あ、トボけちゃうんです? 動画の声、先輩のでしたけどー》
「……」
しばらく沈黙が流れたが、やがて諦めた様子で、カニートが口を開いた。
「そうだよ、俺だ。トラス王国軍の話だよな?」
《ですです。で、今どちらにいます? 特区の中ですか?》
「ああ」
《特区にいるなら今、油田の所有権主張してる人と一緒にいますよね?》
「そう推理した理由は?」
《先輩のコトだから、『軍を遠ざける代わりに取材させろ』って感じの取引であの動画流したんでしょうし――ただの正義感だけで軍にケンカ売るほど粗忽じゃないでしょうしねー、流石に――ソレならその人たちのトコにいるだろうなーって》
「100点満点だな。成長したもんだな、あのそそっかしかったお嬢様が」
《えっへへへー、見直したでしょ?》
電話の相手はいたずらっぽく笑って返し、こう続けた。
《ソレでもいっこ質問なんですけど、その所有者の人と今、お話できます?》
「ん? ……ちょっと待ってくれ」
カニートはロロに、スマホを向ける。
「話してもらっていいか?」
「おう。……もしもし? 俺が一応、所有者ってことになってる」
《改めまして、シュウ・メイスンと申しますー》
「ロロ・ラコッカだ。よろしく」
《確認なんですが、ラコッカさん以外に石油の所有権を主張してる人、いたりします?》
「ん? いや……いないな」
《対立中だったりってコトもなく?》
「ああ。俺、と言うか俺の学校……、んん、まあ、俺の組織、……ってのも違うな、うーん、とにかく俺んとこだな、ウチの所有ってことで話は付いてる」
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