「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・応酬譚 6
シュウの話、第127話。
石油をめぐる最も大きな問題。
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6.
顔も名前も知らない相手からの突然の提案に、カニートも、ロロも面食らった。
「なんだって?」
「あんた、一体誰なんだ? そんなこと突然言われて、『おう、いいぞ』なんて二つ返事で答えると思うのか?」
《だろーな。だが状況は差し迫ってるはずだ。軍を足止めしたのはファインプレイと言えるが、ソレでグズのトラス王国を躍起にさせちまったのはかなりまずいだろ? オレの……、いや、シュウの予想じゃカニート、お前さんは今、特区に足止め食らってるはずだ》
「ああ……まあな」
《打開策は? ニセ名義の通行許可証で通るつもりか? ソレとも自前でヘリでも持ってんのか?》
「……いや、無い。出るアテがなくて困ってるところだ」
《だとよ。マジでシュウの予想通りだな》
《ホント先輩って二の手、三の手考えない人ですよねー。礼儀とか事前の打ち合わせとかはキッチリしてますけど、アドリブが利かないって言うか、プラスアルファの気配りができないって言うかー》
シュウのずけずけとした批難に、カニートはしかめっ面になる。
「うるせえよ。どうせ俺は甲斐性なしだ。……で、それが何なんだ? 八方塞がりの俺と難民が可哀想だってのか?」
《ま、八方塞がりは確かにその通りだ、な。その様子じゃお前さんたち、もっと重要なコトを失念してんだろ》
「もっと重要? 軍の追及以上に重要なことがあるってのか?」
尋ねたロロに、相手はため息混じりに尋ね返してきた。
《あのな、仮に王国軍を完膚なきまでに蹴散らして、『やったー油田守ったぞーオレたちのモノになったぞー』ってコトになったとするよな? じゃ、ソコからどうすんだよ? 石油でそのまま買い物できるワケじゃねえよな? お前ら、どーやって石油を売ってカネ稼ぐつもりなんだよ? アテがあんのか? 石油を採掘して精製して加工して販売する手段がお前らにあんのかよ?》
「うっ……」
なじられ気味に指摘され、ファミリーは顔を見合わせる。
「そー言やそーだよな」
「このままじゃただのくっせえ水だもんな」
「親父、なんかアテあんのか?」
「……考えてはいたが、……いや、いい案は浮かんでなかった」
そう答えたロロに、電話相手がこう続ける。
《現時点での選択肢は3つだ。1つ、恥知らずのトラス王国に開発と販売を依頼する。だがこんな案はお前ら、絶対イヤだろ?》
「そりゃそうだ」
《んで2つ目、その油田を――うわさの段階から――狙ってた白猫党に売るって話だ。だがこの案も呑めねーだろ?》
「当たり前だ!」
ロロが憤り気味に答える。
「あんな人を人とも思わねえ悪魔どもに売ってたまるか。どうせろくにカネも出さずに奪い取るつもりだろうしな」
《だろーな。ソレじゃ1つ目も2つ目もイヤだ、となるよな。ソコで第3の選択だ》
「いや、いや、待てって、おい!」
たまりかねた様子で、ロロが声を荒げる。
「だから言ってんだろうが。どこの誰とも分からん奴からあれやこれや指図されて、じゃあそうするわってなんねえっての。あんた、一体誰なんだ?」
《そー言や名乗ってなかったな。オレは克天狐だ。天狐ちゃんでいいぜ》
この名乗りを受けるも――多少は一般的な世俗知識のあるロロと、情報通のカニートを除いて――ファミリーたちはぽかんとしていた。
「てん、……誰?」
「自分でちゃん付けかよ」
「え、痛い娘?」
「地雷系ってヤツ?」
「引くわー」
そのざわめきを聞いていたロロが、あわてて皆をなだめる。
「しーっ! お前ら、それ絶対言うな」
「なんだよ、親父?」
「さっきまで『お前なんか知るか』って態度だったのに」
「いきなり態度コロッと変えんなよなー、かっこわりぃ」
「お前ら……分かってねえだろ、相手が何者か」
ロロは額に手を当てつつ、やんわりと説明し始めた。
「あのな、黒炎教ってあんだろ? 黒ずくめのアレだよ」
「あー、うん、黒いかっこしたアレ」
「コーヒーとかやたら飲んでるアレか」
「たまーに見るよな、あのアレ」
「その黒炎教の神様ってのは知ってるな? 授業でやってるし」
「はーい、タイカ・カツミでーす」
手を挙げて回答したファミリーに、ロロは大きくうなずいて見せる。
「正解。そのカツミの実の娘が、テンコ・カツミだ」
「え? つまり神様の娘……ってこと?」
「そう言うことだ。何しろ神様だからな、ふつーの人間とは色々違うんだよ。寿命とか色々」
「ふーん」
「じゃ偉いんだ」
「へー」
一応納得した様子ながら、ファミリーの誰もが、どことなく軽く考えていそうな様子を見せていた。
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石油をめぐる最も大きな問題。
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顔も名前も知らない相手からの突然の提案に、カニートも、ロロも面食らった。
「なんだって?」
「あんた、一体誰なんだ? そんなこと突然言われて、『おう、いいぞ』なんて二つ返事で答えると思うのか?」
《だろーな。だが状況は差し迫ってるはずだ。軍を足止めしたのはファインプレイと言えるが、ソレでグズのトラス王国を躍起にさせちまったのはかなりまずいだろ? オレの……、いや、シュウの予想じゃカニート、お前さんは今、特区に足止め食らってるはずだ》
「ああ……まあな」
《打開策は? ニセ名義の通行許可証で通るつもりか? ソレとも自前でヘリでも持ってんのか?》
「……いや、無い。出るアテがなくて困ってるところだ」
《だとよ。マジでシュウの予想通りだな》
《ホント先輩って二の手、三の手考えない人ですよねー。礼儀とか事前の打ち合わせとかはキッチリしてますけど、アドリブが利かないって言うか、プラスアルファの気配りができないって言うかー》
シュウのずけずけとした批難に、カニートはしかめっ面になる。
「うるせえよ。どうせ俺は甲斐性なしだ。……で、それが何なんだ? 八方塞がりの俺と難民が可哀想だってのか?」
《ま、八方塞がりは確かにその通りだ、な。その様子じゃお前さんたち、もっと重要なコトを失念してんだろ》
「もっと重要? 軍の追及以上に重要なことがあるってのか?」
尋ねたロロに、相手はため息混じりに尋ね返してきた。
《あのな、仮に王国軍を完膚なきまでに蹴散らして、『やったー油田守ったぞーオレたちのモノになったぞー』ってコトになったとするよな? じゃ、ソコからどうすんだよ? 石油でそのまま買い物できるワケじゃねえよな? お前ら、どーやって石油を売ってカネ稼ぐつもりなんだよ? アテがあんのか? 石油を採掘して精製して加工して販売する手段がお前らにあんのかよ?》
「うっ……」
なじられ気味に指摘され、ファミリーは顔を見合わせる。
「そー言やそーだよな」
「このままじゃただのくっせえ水だもんな」
「親父、なんかアテあんのか?」
「……考えてはいたが、……いや、いい案は浮かんでなかった」
そう答えたロロに、電話相手がこう続ける。
《現時点での選択肢は3つだ。1つ、恥知らずのトラス王国に開発と販売を依頼する。だがこんな案はお前ら、絶対イヤだろ?》
「そりゃそうだ」
《んで2つ目、その油田を――うわさの段階から――狙ってた白猫党に売るって話だ。だがこの案も呑めねーだろ?》
「当たり前だ!」
ロロが憤り気味に答える。
「あんな人を人とも思わねえ悪魔どもに売ってたまるか。どうせろくにカネも出さずに奪い取るつもりだろうしな」
《だろーな。ソレじゃ1つ目も2つ目もイヤだ、となるよな。ソコで第3の選択だ》
「いや、いや、待てって、おい!」
たまりかねた様子で、ロロが声を荒げる。
「だから言ってんだろうが。どこの誰とも分からん奴からあれやこれや指図されて、じゃあそうするわってなんねえっての。あんた、一体誰なんだ?」
《そー言や名乗ってなかったな。オレは克天狐だ。天狐ちゃんでいいぜ》
この名乗りを受けるも――多少は一般的な世俗知識のあるロロと、情報通のカニートを除いて――ファミリーたちはぽかんとしていた。
「てん、……誰?」
「自分でちゃん付けかよ」
「え、痛い娘?」
「地雷系ってヤツ?」
「引くわー」
そのざわめきを聞いていたロロが、あわてて皆をなだめる。
「しーっ! お前ら、それ絶対言うな」
「なんだよ、親父?」
「さっきまで『お前なんか知るか』って態度だったのに」
「いきなり態度コロッと変えんなよなー、かっこわりぃ」
「お前ら……分かってねえだろ、相手が何者か」
ロロは額に手を当てつつ、やんわりと説明し始めた。
「あのな、黒炎教ってあんだろ? 黒ずくめのアレだよ」
「あー、うん、黒いかっこしたアレ」
「コーヒーとかやたら飲んでるアレか」
「たまーに見るよな、あのアレ」
「その黒炎教の神様ってのは知ってるな? 授業でやってるし」
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「正解。そのカツミの実の娘が、テンコ・カツミだ」
「え? つまり神様の娘……ってこと?」
「そう言うことだ。何しろ神様だからな、ふつーの人間とは色々違うんだよ。寿命とか色々」
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