「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・応酬譚 7
シュウの話、第128話。
フィクサー天狐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
まだどこかとぼけた様子を見せているファミリーに、今度はカニートが、もっと現実的な説明を述べた。
「あんたら、このスマホを見てくれ。このスマホの裏面、何が書いてある?」
「会社名か? ピクスマニア」
「そう。一流電子機器メーカーのピクスマニアだ。その現CEO……まあ、社長みたいなもんだが、そいつとテンコ・カツミ氏には関わりがある。テンコ氏は天狐ゼミって言う魔術学専門校を開いてるんだが、そのCEOが実はゼミの卒業生なんだ」
「へー」
「あと、腕時計のメーカーと言ってパッと思いつくとこ、一通り言ってみてくれ」
「うーん……カシハラ? とか、ハイエク?」
「ナノセカンドとかあったよね」
「あとはトポリーノとか」
「それらの創業者も全員、天狐ゼミの卒業生だ」
「へー……え?」
「全員? マジで?」
話の規模が大きくなり、ファミリーの顔に驚きの色が浮かぶ。
「自動車メーカーで言えばATモータース、ミナト、コロモなど複数社に、ゼミ卒業生が多数関わってる。大手パソコンメーカーや精密機器メーカーの社長や会長、重役にもずらりとゼミ生がいる。最新鋭の電子機器メーカー幹部陣なんて天狐ゼミの同窓会も同然。……ここまで言えばテンコ氏がどれくらいヤバい存在か、分かるだろ?
彼女に『ちょっと来い』と呼ばれたら、政財界のどんな大物だろうと、どんな重要な用事があろうと、大慌てで彼女の屋敷にすっ飛んで行かなきゃならないくらいの超大物なんだ。8世紀最大のフィクサーと言ってもいい」
《長々とご紹介してくれてありがとよ。だがオレのスゴさなんか今、どーだっていい。オレが今してんのは、お前さんたちの油田をどーすんだって話だ》
カニートが掲げたままだったスマホから、天狐のイライラした雰囲気の声が飛んで来る。
《んで、ロロ。話を戻すが、トラス王国に売るのもイヤだ、白猫党に売るのももっとイヤだ、と。じゃあどうすんだよってなるだろ》
「ああ……まあな。まさかあんた、いや、テンコさんが買ってくれるのか?」
《言ったろ、テンコちゃんって呼べって。ソレと、オレは買わねーよ。んなもんいらねーし。代わりにオレからの提案、第3の選択はこうだ。お前らが起業して、石油掘って精製して売れ》
「は!?」
唐突な提案に、ロロの短い熊耳がぴょん、と立った。
「なんだって!? お、俺たちが!?」
《ソレが一番の方法だろ? 他の誰にも利権をつかませないし、誰にも騙される余地はない。コレ以上の上策はないはずだ》
「やれっつったって、俺たちにそんな技術や設備はねえぞ!? ましてやカネはどうすんだよ!?」
うろたえるロロに、天狐がこう返す。
《カネはオレが出してやる。技術者も設備も、オレのツテでどうにだってできる。その他、必要なモノがあるんならいくらでも援助してやる。後はお前さんたちがやるか、やらねーかだ》
「う……」
場がしんと静まり返り、ロロとファミリーたちは顔を見合わせる。
「……どうすんだ、親父?」
「で、できんのかよ、そんなの」
「無理だって……」
ファミリーたちは異口同音に、天狐の提案に否定的な意見を述べる。
「だって俺たち、バカじゃん」
「カネ出してくれたって、設備作ってくれたって、会社なんて無理に決まってるって」
「無理だって。どー考えても無理」
「……」
が――その中で一人、ロロだけははっきりと言い切った。
「やるか」
「……はぁ!?」
「マジで言ってんのかよ、親父!?」
「何考えてんだよ!? できるわけねーじゃん!」
「お前ら、それでいいのか?」
ロロは周りを見回し、大きく首を横に振った。
「俺たちのすぐ目の前に現れたものすげえチャンスを――しかもカネもモノもヒトもまるごと都合してやるって言われてんのに――やりもしねえ内から『ダメだ』『できるわけねー』『無理に決まってる』って、簡単にあきらめちまうのか?
そもそもテンコさ、……テンコちゃんみたいな提案する奴なんか、普通いるわけねえんだ。誰だってこう言う。『君たちに良い条件で買い取ってやろう』『悪いようにはしないから全部ワタクシに任せたまえ』ってな。王国がまさにそうじゃねえか。白猫党だって広報だけはいいツラしてるしな。で、実際は二束三文で買い付けたり、もっとひどけりゃ、約束なんてハナから反故にして、1コノンも払わねえって話もザラにある。
そんな中でテンコちゃんだけだぜ、『お前らで全部やりゃいい』『お前らに任せる』っつったのは。そのための手助けまでしてくれるって言ってる。もちろん……何かウラだとか、思惑だとかはあるだろうけどな」
《まあな》
黙っていたスマホから、天狐の声が響いた。
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フィクサー天狐。
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まだどこかとぼけた様子を見せているファミリーに、今度はカニートが、もっと現実的な説明を述べた。
「あんたら、このスマホを見てくれ。このスマホの裏面、何が書いてある?」
「会社名か? ピクスマニア」
「そう。一流電子機器メーカーのピクスマニアだ。その現CEO……まあ、社長みたいなもんだが、そいつとテンコ・カツミ氏には関わりがある。テンコ氏は天狐ゼミって言う魔術学専門校を開いてるんだが、そのCEOが実はゼミの卒業生なんだ」
「へー」
「あと、腕時計のメーカーと言ってパッと思いつくとこ、一通り言ってみてくれ」
「うーん……カシハラ? とか、ハイエク?」
「ナノセカンドとかあったよね」
「あとはトポリーノとか」
「それらの創業者も全員、天狐ゼミの卒業生だ」
「へー……え?」
「全員? マジで?」
話の規模が大きくなり、ファミリーの顔に驚きの色が浮かぶ。
「自動車メーカーで言えばATモータース、ミナト、コロモなど複数社に、ゼミ卒業生が多数関わってる。大手パソコンメーカーや精密機器メーカーの社長や会長、重役にもずらりとゼミ生がいる。最新鋭の電子機器メーカー幹部陣なんて天狐ゼミの同窓会も同然。……ここまで言えばテンコ氏がどれくらいヤバい存在か、分かるだろ?
彼女に『ちょっと来い』と呼ばれたら、政財界のどんな大物だろうと、どんな重要な用事があろうと、大慌てで彼女の屋敷にすっ飛んで行かなきゃならないくらいの超大物なんだ。8世紀最大のフィクサーと言ってもいい」
《長々とご紹介してくれてありがとよ。だがオレのスゴさなんか今、どーだっていい。オレが今してんのは、お前さんたちの油田をどーすんだって話だ》
カニートが掲げたままだったスマホから、天狐のイライラした雰囲気の声が飛んで来る。
《んで、ロロ。話を戻すが、トラス王国に売るのもイヤだ、白猫党に売るのももっとイヤだ、と。じゃあどうすんだよってなるだろ》
「ああ……まあな。まさかあんた、いや、テンコさんが買ってくれるのか?」
《言ったろ、テンコちゃんって呼べって。ソレと、オレは買わねーよ。んなもんいらねーし。代わりにオレからの提案、第3の選択はこうだ。お前らが起業して、石油掘って精製して売れ》
「は!?」
唐突な提案に、ロロの短い熊耳がぴょん、と立った。
「なんだって!? お、俺たちが!?」
《ソレが一番の方法だろ? 他の誰にも利権をつかませないし、誰にも騙される余地はない。コレ以上の上策はないはずだ》
「やれっつったって、俺たちにそんな技術や設備はねえぞ!? ましてやカネはどうすんだよ!?」
うろたえるロロに、天狐がこう返す。
《カネはオレが出してやる。技術者も設備も、オレのツテでどうにだってできる。その他、必要なモノがあるんならいくらでも援助してやる。後はお前さんたちがやるか、やらねーかだ》
「う……」
場がしんと静まり返り、ロロとファミリーたちは顔を見合わせる。
「……どうすんだ、親父?」
「で、できんのかよ、そんなの」
「無理だって……」
ファミリーたちは異口同音に、天狐の提案に否定的な意見を述べる。
「だって俺たち、バカじゃん」
「カネ出してくれたって、設備作ってくれたって、会社なんて無理に決まってるって」
「無理だって。どー考えても無理」
「……」
が――その中で一人、ロロだけははっきりと言い切った。
「やるか」
「……はぁ!?」
「マジで言ってんのかよ、親父!?」
「何考えてんだよ!? できるわけねーじゃん!」
「お前ら、それでいいのか?」
ロロは周りを見回し、大きく首を横に振った。
「俺たちのすぐ目の前に現れたものすげえチャンスを――しかもカネもモノもヒトもまるごと都合してやるって言われてんのに――やりもしねえ内から『ダメだ』『できるわけねー』『無理に決まってる』って、簡単にあきらめちまうのか?
そもそもテンコさ、……テンコちゃんみたいな提案する奴なんか、普通いるわけねえんだ。誰だってこう言う。『君たちに良い条件で買い取ってやろう』『悪いようにはしないから全部ワタクシに任せたまえ』ってな。王国がまさにそうじゃねえか。白猫党だって広報だけはいいツラしてるしな。で、実際は二束三文で買い付けたり、もっとひどけりゃ、約束なんてハナから反故にして、1コノンも払わねえって話もザラにある。
そんな中でテンコちゃんだけだぜ、『お前らで全部やりゃいい』『お前らに任せる』っつったのは。そのための手助けまでしてくれるって言ってる。もちろん……何かウラだとか、思惑だとかはあるだろうけどな」
《まあな》
黙っていたスマホから、天狐の声が響いた。
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