「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・応酬譚 8
シュウの話、第129話。
創業。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
《オレの思惑もちゃんと話しておいてやんよ。じゃなきゃフェアじゃねーし、納得しねーだろーしな。率直に言って、オレは白猫党とトラス王国が大っキライだ。どっちにも1世紀単位の因縁があるもんで、な。ましてや他人の油田を奪って軍事転用しよう、アコギに荒稼ぎしようなんてこすい真似、見過ごすワケがねーだろ。だからお前らに肩入れするんだ。
この機会にどっちも、二度と立ち直れなくなるくれーにコテンパンにブチのめしてやるつもりなのさ》
天狐の声色には少なからず怒りがにじんでおり、それが理屈では言い表せない信憑性を、皆に感じさせていた。
「……テンコちゃん。あんたのことを、信じてみたい」
ロロはスマホにかじりつくように近付き、はっきり返答した。
「あんたが本当に俺たちを助けてくれるんなら、俺たちは、……いや、俺一人ででもやる」
《その言葉を待ってたぜ》
「だが一つ、お願いしたいことがある。顔も知らない奴の言うことをホイホイ聞きたくないってのは、分かってくれるだろ?」
「同感だな」
スマホからではなく――部屋の外から、声が飛んで来る。
「……!?」
ドアが音もなく開き、金毛九尾の狐獣人が現れた。
「オレとしても、一度も顔を合わせるコトないまま仕事の話なんざしたかねー性質でな。ましてやコレは世界を変えるレベルの大事業だ。そんな重大プロジェクトを最初から最後までコソコソとスマホの向こうで指示する役なんざ、オレの好みじゃねーよ」
「あんたが……テンコちゃん?」
面食らった様子のロロと同様、ファミリーたちも天狐の幼なげな容姿に、驚いた声を上げていた。
「ちっちゃ」
「え……年下?」
「マジ子供じゃん」
彼らを一瞥し、天狐は肩をすくめて返した。
「言いたいコトは色々あるがよ、とりあえず改めて自己紹介させてもらうぜ。オレが克天狐だ。ロロってのは、この中で一番トシ食ってそーなアンタか?」
「ああ、俺だ。残念ながらこんな環境なんで、俺も含めてこいつらの礼儀作法はからっきしだ。それだけは容赦してほしい」
「とりあえず開口一番、オレにガキだの子供だの言わなきゃソレでいい」
そう返され、ファミリーたちは揃って頭を下げた。
「すんませんっした!」
「おう。……ケケ、素直なトコは評価してやんよ。ともかく話は早いトコ進めたい」
天狐がパチ、と指を鳴らすと、高級そうなスーツに身を包んだ、黒毛の狼獣人の女性が、アタッシェケースを2つ持って現れた。
「まずはとりあえずの支度金、10億エルだ。と言っても特区の中で札束渡したって何にもならねーから、白紙名義の通帳で渡しとく。名前書いとけ」
「じゅっ……」「おくっ……!?」
額を聞いて、ファミリーがざわめく。
「ソレからスマホだな。さっきの通帳に紐付けた預金管理アプリが入ってる。取引に使え。オレの電話番号とTtTの連絡先も入れてるから、なんかあったらまずオレに連絡しろ。使い方は……カニートだっけか、アンタ、教えてやれ」
「あ、ああ」
「あと、コイツが今回の話、一番のキモってヤツになる」
狼獣人が2つ目のケースを開けると、そこには紙束が入っていた。
「なんだあれ?」
「おカネ……じゃないよな」
「何かの書類?」
ケースの中を覗き込んだファミリーは、そろってけげんな表情を浮かべる。ロロも同様に、中身を指差して尋ねた。
「そいつは?」
「一言で言や、トラス王国の『ツケ』さ。何十年も威張り散らして好き放題やってきたツケが、こーしてココに集まってるってワケだ、な」
「ツケ……?」
「既に工事の業者も手配してある。1ヶ月で操業可能な状態まで持っていく予定だ。本格的に動くのは明日からになるから、今日はとりあえず会社の設立宣言だ。
よろしく頼むぜ、ロロ社長」
おそらくは肩辺りを叩こうとしたのだろうが、流石に身長差が50センチ以上もあったためか――天狐は肩まで挙げかけた手を「おっと」と言って引っ込め、握手の形に変える。ロロは服の端で手をぬぐってから、その手をしっかりと握った。
「ああ、任された。……と言っても俺は経営の『け』の字も知らない。イチから教えてくれ」
「いいぜ。教えるコトにゃ慣れっこだ」
がっちりと固い握手を交わし――この無法地帯に、約20年ぶりに会社が設立された。
緑綺星・応酬譚 終
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《オレの思惑もちゃんと話しておいてやんよ。じゃなきゃフェアじゃねーし、納得しねーだろーしな。率直に言って、オレは白猫党とトラス王国が大っキライだ。どっちにも1世紀単位の因縁があるもんで、な。ましてや他人の油田を奪って軍事転用しよう、アコギに荒稼ぎしようなんてこすい真似、見過ごすワケがねーだろ。だからお前らに肩入れするんだ。
この機会にどっちも、二度と立ち直れなくなるくれーにコテンパンにブチのめしてやるつもりなのさ》
天狐の声色には少なからず怒りがにじんでおり、それが理屈では言い表せない信憑性を、皆に感じさせていた。
「……テンコちゃん。あんたのことを、信じてみたい」
ロロはスマホにかじりつくように近付き、はっきり返答した。
「あんたが本当に俺たちを助けてくれるんなら、俺たちは、……いや、俺一人ででもやる」
《その言葉を待ってたぜ》
「だが一つ、お願いしたいことがある。顔も知らない奴の言うことをホイホイ聞きたくないってのは、分かってくれるだろ?」
「同感だな」
スマホからではなく――部屋の外から、声が飛んで来る。
「……!?」
ドアが音もなく開き、金毛九尾の狐獣人が現れた。
「オレとしても、一度も顔を合わせるコトないまま仕事の話なんざしたかねー性質でな。ましてやコレは世界を変えるレベルの大事業だ。そんな重大プロジェクトを最初から最後までコソコソとスマホの向こうで指示する役なんざ、オレの好みじゃねーよ」
「あんたが……テンコちゃん?」
面食らった様子のロロと同様、ファミリーたちも天狐の幼なげな容姿に、驚いた声を上げていた。
「ちっちゃ」
「え……年下?」
「マジ子供じゃん」
彼らを一瞥し、天狐は肩をすくめて返した。
「言いたいコトは色々あるがよ、とりあえず改めて自己紹介させてもらうぜ。オレが克天狐だ。ロロってのは、この中で一番トシ食ってそーなアンタか?」
「ああ、俺だ。残念ながらこんな環境なんで、俺も含めてこいつらの礼儀作法はからっきしだ。それだけは容赦してほしい」
「とりあえず開口一番、オレにガキだの子供だの言わなきゃソレでいい」
そう返され、ファミリーたちは揃って頭を下げた。
「すんませんっした!」
「おう。……ケケ、素直なトコは評価してやんよ。ともかく話は早いトコ進めたい」
天狐がパチ、と指を鳴らすと、高級そうなスーツに身を包んだ、黒毛の狼獣人の女性が、アタッシェケースを2つ持って現れた。
「まずはとりあえずの支度金、10億エルだ。と言っても特区の中で札束渡したって何にもならねーから、白紙名義の通帳で渡しとく。名前書いとけ」
「じゅっ……」「おくっ……!?」
額を聞いて、ファミリーがざわめく。
「ソレからスマホだな。さっきの通帳に紐付けた預金管理アプリが入ってる。取引に使え。オレの電話番号とTtTの連絡先も入れてるから、なんかあったらまずオレに連絡しろ。使い方は……カニートだっけか、アンタ、教えてやれ」
「あ、ああ」
「あと、コイツが今回の話、一番のキモってヤツになる」
狼獣人が2つ目のケースを開けると、そこには紙束が入っていた。
「なんだあれ?」
「おカネ……じゃないよな」
「何かの書類?」
ケースの中を覗き込んだファミリーは、そろってけげんな表情を浮かべる。ロロも同様に、中身を指差して尋ねた。
「そいつは?」
「一言で言や、トラス王国の『ツケ』さ。何十年も威張り散らして好き放題やってきたツケが、こーしてココに集まってるってワケだ、な」
「ツケ……?」
「既に工事の業者も手配してある。1ヶ月で操業可能な状態まで持っていく予定だ。本格的に動くのは明日からになるから、今日はとりあえず会社の設立宣言だ。
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