「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第4部
緑綺星・聖怨譚 1
シュウの話、第130話。
黒いうわさ?
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1.
「ラコッカファミリー主体で石油会社を作る」と言う天狐の飛び抜けた発案はただちに実施され、難民特区には連日、諸外国から人員や資材が山のように集まってきていた。
「なんだ、あの人だかり?」
「ラコッカのとこらしい。なんでも石油、本格的に掘り出すんだとさ」
「へー……?」
そのにぎわいを遠巻きに眺めるならず者たちは――長らく法の庇護と近代的倫理観に接していない人生を歩んでいるためか――公然とよからぬことを企む。
「あいつらバカなのかな? こんなとこに資材集めたら、片っ端から盗まれるだろうに」
「ってか俺らも後でかっぱらいに行くか」
「だな。最近いい儲け話もねーし」
が、多少は事情を知っているらしい者が、それを止める。
「やめとけやめとけ。あいつらのバックになんかめちゃめちゃヤバい大物がいるって話だぜ」
「なんだよ、大物って。んなもんがいようがいまいが、盗みの現場にパッと来られるわけでもないだろ?」
「それがそうでもないらしい。なんでもあの……、えーと、なんだっけか、ナントカってのがいてだな、……あー、そうそう、カツミとかなんとか」
「カツミ? 人の名前か?」
「ここいらにいそうな名前じゃねーな」
「南海とか北方とか、央南とか、とにかく相当遠くっぽい」
「央南って、……あ、もしかしてタイカ・カツミ? 黒炎教団の?」
「えっ」「黒炎?」「マジで?」
教団の名前が出た途端、ならず者たちは苦い顔を並べる。
「黒炎教の奴ら相手にすんのはちょっとなー……」
「だなぁ。あいつら報復だの仕返しだのに関しては、嫌になるくらい徹底的にやってくる奴らだし」
「何年か前に死んだダチの知り合いも、教団にちょっかい出して殺されたって話だし」
「……やめとくか。わざわざヤバいところに手ぇ出して殺されんのもバカらしいし」
悪事を企てようとはするものの、うわさがうわさを呼び、結局ほとんどの者は手を出そうとしなかった。
が、その中でもやはり、蛮勇と強欲に突き動かされる愚か者も少なからずおり――。
「へっへっへ……」
そうした愚か者数人が人目のない夜間、こっそりと資材置き場に押し入った。
「さーてと、何盗ろうかな……」
下卑た笑みを浮かべ、両手をこすり合わせて物色していると――突然、そのならず者の衣服がばさっと裂かれ、細切れになって散った。
「……へ?」
気付けば頭髪や尻尾の毛まで刈られ、丸裸になった男の前に、刀を持った黒ずくめの少年が現れた。
「天狐ちゃんから『殺しはすんな』って言われてるから、初太刀はそれで勘弁したげるよ。でもまだ何かしようって言うなら、その猫耳片方くらいは取らせてもらうよ」
「ひ……」
ほおに切っ先をぺたりと当てられ、男はへなへなとその場に崩れ落ちる。それを見下ろしていた少年ははあ、とため息をつき、切っ先を資材置き場の出入り口に向けた。
「座らないで。立って。そんで、さっさとどっか行って。そうしてくれれば追いかけないし」
「はっ、はっ、はひっ、いますぐっ」
男はあっと言う間にその場から逃げ去り、男の仲間たちも大慌てで追従していった。一人残った少年は刀を襟首の中にしまい込み、もう一度ため息をついた。
「つまんないもん斬っちゃったな」
計画始動当初は彼らのように盗みを働こうとする無法者が現れたものの、黒炎教団とのつながりをうわさされ、また、実際に撃退された者たちが自らの愚かな体験談を吹聴して回ったことで、ラコッカファミリ―――いや、「ラコッカ石油株式会社」に押し入ろうとするならず者は、一人もいなくなった。
「ってワケで海斗、夜の集中警備は今晩で終わりでいいぜ。明日からは他のヤツと同じシフトで過ごしていい」
「ありがと。やっとネトゲできるよ……ふあ~」
天狐からの辞令を受け、海斗はあくび混じりに返した。
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黒いうわさ?
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「ラコッカファミリー主体で石油会社を作る」と言う天狐の飛び抜けた発案はただちに実施され、難民特区には連日、諸外国から人員や資材が山のように集まってきていた。
「なんだ、あの人だかり?」
「ラコッカのとこらしい。なんでも石油、本格的に掘り出すんだとさ」
「へー……?」
そのにぎわいを遠巻きに眺めるならず者たちは――長らく法の庇護と近代的倫理観に接していない人生を歩んでいるためか――公然とよからぬことを企む。
「あいつらバカなのかな? こんなとこに資材集めたら、片っ端から盗まれるだろうに」
「ってか俺らも後でかっぱらいに行くか」
「だな。最近いい儲け話もねーし」
が、多少は事情を知っているらしい者が、それを止める。
「やめとけやめとけ。あいつらのバックになんかめちゃめちゃヤバい大物がいるって話だぜ」
「なんだよ、大物って。んなもんがいようがいまいが、盗みの現場にパッと来られるわけでもないだろ?」
「それがそうでもないらしい。なんでもあの……、えーと、なんだっけか、ナントカってのがいてだな、……あー、そうそう、カツミとかなんとか」
「カツミ? 人の名前か?」
「ここいらにいそうな名前じゃねーな」
「南海とか北方とか、央南とか、とにかく相当遠くっぽい」
「央南って、……あ、もしかしてタイカ・カツミ? 黒炎教団の?」
「えっ」「黒炎?」「マジで?」
教団の名前が出た途端、ならず者たちは苦い顔を並べる。
「黒炎教の奴ら相手にすんのはちょっとなー……」
「だなぁ。あいつら報復だの仕返しだのに関しては、嫌になるくらい徹底的にやってくる奴らだし」
「何年か前に死んだダチの知り合いも、教団にちょっかい出して殺されたって話だし」
「……やめとくか。わざわざヤバいところに手ぇ出して殺されんのもバカらしいし」
悪事を企てようとはするものの、うわさがうわさを呼び、結局ほとんどの者は手を出そうとしなかった。
が、その中でもやはり、蛮勇と強欲に突き動かされる愚か者も少なからずおり――。
「へっへっへ……」
そうした愚か者数人が人目のない夜間、こっそりと資材置き場に押し入った。
「さーてと、何盗ろうかな……」
下卑た笑みを浮かべ、両手をこすり合わせて物色していると――突然、そのならず者の衣服がばさっと裂かれ、細切れになって散った。
「……へ?」
気付けば頭髪や尻尾の毛まで刈られ、丸裸になった男の前に、刀を持った黒ずくめの少年が現れた。
「天狐ちゃんから『殺しはすんな』って言われてるから、初太刀はそれで勘弁したげるよ。でもまだ何かしようって言うなら、その猫耳片方くらいは取らせてもらうよ」
「ひ……」
ほおに切っ先をぺたりと当てられ、男はへなへなとその場に崩れ落ちる。それを見下ろしていた少年ははあ、とため息をつき、切っ先を資材置き場の出入り口に向けた。
「座らないで。立って。そんで、さっさとどっか行って。そうしてくれれば追いかけないし」
「はっ、はっ、はひっ、いますぐっ」
男はあっと言う間にその場から逃げ去り、男の仲間たちも大慌てで追従していった。一人残った少年は刀を襟首の中にしまい込み、もう一度ため息をついた。
「つまんないもん斬っちゃったな」
計画始動当初は彼らのように盗みを働こうとする無法者が現れたものの、黒炎教団とのつながりをうわさされ、また、実際に撃退された者たちが自らの愚かな体験談を吹聴して回ったことで、ラコッカファミリ―――いや、「ラコッカ石油株式会社」に押し入ろうとするならず者は、一人もいなくなった。
「ってワケで海斗、夜の集中警備は今晩で終わりでいいぜ。明日からは他のヤツと同じシフトで過ごしていい」
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天狐からの辞令を受け、海斗はあくび混じりに返した。
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