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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・聖怨譚 3

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    シュウの話、第132話。
    ご意見番の鶴声。

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    3.
     双月暦570年代における白猫党との戦いが彼らの分裂・内戦勃発と言う形で決着した後も、一聖は「フェニックス」の最高顧問とトラス王族の教育係を続けており、いつしか王室のご意見番としての地位を確立していた。
     そのため6世紀末、第2代国王の後継者を定めるべく催された御前会議にも当然、彼女の姿があった。
    「オレの結論から言えば、カレンしかない」
     会議が始まるなり、一聖はそう言い放った。
    「いや……しかし」
     言い淀む他の有識者に、一聖がたたみかける。
    「じゃ、他にいんのか? マークは今、会社と研究機関を6つも持ってる実業家兼研究者だ。王族としての公務をこなす余裕はないだろう。ビクトリアとフリーダも同様だ。極論を言や、今、この3人の誰かに王位を継がせるために産業界から引っこ抜いたら、王国経済に急ブレーキをかけるコトになる。消去法的にカレンしかない。
     ってか、今ならまだ女王として立てられる。今はまだ何の要職にも就いてねーし会社興してもいねーが、このまま放っといてもう何年か経ったら、カレンも十中八九、他の3人と同じよーに起業しようとするだろーな。そん時はもう、手遅れだと思わなきゃならねーだろう」
    「ですが初代国王、そして現国王陛下は『狼』です。カレン様はその、『猫』ですが……」
     恐る恐るながらも反論されるが、一聖はことごとく切り捨てる。
    「ソレがなんだ? 血筋は継いでるだろ? 見た目が気に入らねーってのか?」
    「年齢もかなりお若いですし……」
    「マークが起業したのは16ん時だぜ? 同じ血筋なら20代で女王だって十分務まるだろ」
    「マーク様のお子様と言う手も……」
    「カレンより年下じゃねーか。何だってそんなに種族にこだわる?」
     一聖の主張はいずれも正論で、きわめて合理的ではあるものの、いささか強弁とも取れるこのつっけんどんな態度に、ついに静観していた国王、ショウも口を開いた。
    「私の意向としてはマークを考えていたのだが……それではいかん理由があるのか? いや、無論カズセ女史の意見は至極もっともな話であると理解している。だが我がトラス家が王家を名乗る以前より、一貫して『狼』血統の長子が家督を継いできた歴史がある。
     古来よりの歴史、伝統を守ることこそ、王家が体面を保つ根源・根拠であると言える。そうした意見もあることは、理解してもらえんだろうか」
    「もちろんその言い分もよーく分かってるつもりだぜ、陛下。だけどよ、アンタは王国の発展を棒に振ってまで現代の風潮に合わねー伝統を重んじ、マークに後を継がせるべきだって言うのか? ソレは先代とアンタで築き上げ、子供たちが飛躍・発展させてきたこの国の未来をドブに捨てるような、非合理的・前時代的で稚拙な選択とは思わねーか?
     過去を取るか? 未来を取るか? 突き詰めればその二択だ。アンタはどっちを選ぶ?」
     そのまま言葉を切り、一聖とショウは互いに無言で見つめ合っていたが――折れたのはショウの方だった。
    「……そうだな、確かにその通りだ。私は国王、即ち一国の舵を取る重責を担う者だ。であるにもかかわらず人間が国家の安寧と発展を阻む選択など、するべきではないだろう。女史の言う通り、それは軽挙妄動も甚(はなは)だしい愚断に他ならん。
     うむ、私は十分に納得した。カズセ女史の言う通りにしよう。次の王はカレンだ」
     結局、一聖の主張を覆せるほどの正当性ある反論ができる者はおらず、国王自らの承認もその場で受けたことで、末娘のカレンを次代の女王として立てることが内定された。

     この会議の数年後に第3代国王として即位したカレンは王族としての責務を十全に全うし、一聖の主張した通り、トラス王国のさらなる隆盛に大きく貢献した。
     この一件は一聖の見識が確かなものであるとして、彼女の評判を高めることとなったが、同時に旧来の権威層や王族すら軽んじる、彼女の奔放で傲岸不遜な言動に、強い不満・不快感を表す者も少なくなかった。
     この相反する風潮は年代を経るごとに強まっていき、次第に王国内は親一聖派・反一聖派に分裂し始め――そして双月暦634年、その亀裂は深刻な事態を引き起こした。
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