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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第4部

    緑綺星・聖怨譚 4

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    シュウの話、第133話。
    旧トラス王国の政変。

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    4.
     20代で王位を継いだカレン女王の在位は40年近くにも及び、長期政権による安定した治世が行われてきたが、その平和にも陰りが差していた。カレンが重い病に冒されており、余命いくばくもないことが判明したのである。
    「一刻も早く次の国王を定めねば……」
     王室政府の閣僚たちが密かに集まり、緊急会議を開いていたが、そこに一聖の姿はなかった。いや――。
    「だが王位継承を論じるとなると、カズセ女史を呼ばねばなるまい? 今上陛下を選出したのは彼女なのだから、今回も会議に呼ばねば」
    「そこが問題だと言うのだ!」
     会議の中心人物となっていた首相が、苛立たしげに怒鳴る。
    「実際には先代陛下は長子を選ばれるおつもりだったと聞いている。だがあの黒女の佞言でご意見を曲げられ、末娘であった今上陛下に譲られたのだぞ?
     つまり今上陛下の即位は本来ならば絶対に行われるはずのなかった、極めてイレギュラーな決定なのだ。少なくとも私は、そんな経緯では納得できない。いや、世間全般から見ても、おおよそ常識的な判断とは言えまい」
    「いくらなんでも飛躍した話では……」
     反論しかけた閣僚に、首相は首を大きく横に振ってまくし立てる。
    「いいや、これは民意だ! あの女の余計な一言さえなければ、何の波乱もなく長子マークが即位し、『狼』血統による治世が続いていたはずだ! 適切な言葉ではないだろうが――今上陛下のご容態が急変し、後継者を定める話もまとまっていない今が、絶好の機会だ」
    「絶好の……機会? マクファーソン、君は何をするつもりなんだ?」
     尋ねた体ではあったが、閣僚の顔色からは、首相がこれから言わんとしていることを察している気配が見て取れた。そして周囲の予想通り、首相は――ここから半世紀に渡る混乱の端緒となった――決断を述べた。
    「今こそ、血統を正しい流れに戻すべきだ。『猫』にはここで、表舞台から退いてもらう」

     カレンの容態が急変したとの知らせを受け、急遽外遊から戻ってきた彼女の息子たちと、そしてちょうど王宮で一聖からの授業を受けていた孫娘フェリスが、王立病院に集まっていた。彼らが病院に到着してほどなく、どうにか小康状態となったと医師から告げられたものの、同時に「次に意識を失えばもう目覚めることはないだろう」とも診断され、息子たちは大慌てでバタバタと、彼女の病室に駆けていった。そして本来ならばフェリスも向かうべきだったのだろうが、残念ながらこの時、幼い彼女は激しく動揺しており、ロビーの椅子から立ち上がることすらできなかった。
     そのため、一同に追従していた一聖が彼女の側に付き、なだめる役を買って出てくれていた。
    「ぐすっ、ぐすっ……」
    「まあ……こんな話、お前さんにゃ初めてのコトだもんな。落ち着くまでオレがココにいてやるから」
    「ひっく……はい……ぐすっ……」
     嗚咽を上げるフェリスの背をさすってやりながら、二人並んでロビーに座っていたが――。
    「……ん?」
     一聖が顔を上げ、ロビーの外に目をやった。
    (黒塗りの高級車がゾロゾロと来やがったな。大方、カレンがヤバいってのを聞いて、内閣のヤツらが慌てて馳せ参じたってトコか。しかしツラの皮が厚い閣僚どもだとしても、配慮なさすぎんだろ。どいつもこいつも病院のフロントに停めんなっての。邪魔だろーが)
     が、いつまで待っても車からは人が出てくる様子はない。その妙な気配に、一聖は嫌な予感を覚えた。
    (あの並び――まるで病院の入口を固めてるみてーじゃねーか。いや、まるでじゃねーな。実際に邪魔してんだから。……考えてみりゃ、今ココには王太子をはじめとして、王位継承の上位者が勢ぞろいしてんだよな。しかも国家元首で実の母親が生きるか死ぬかの瀬戸際だってんで、他のコト考える余裕はねー。病院の配慮で、家族水入らずにしてもらってるだろーし。
     よからぬコト企てるにゃ、絶好のシチュエーションじゃねーか)
     瞬間、一聖はフェリスをがっちり抱きしめる。
    「ひっく、ひっ、……え、え? カズちゃん?」
    「つかまってろ。お前さんにゃ悪いが、ちっとココから離れんぞ」
    「えっ、……え?」
     問い直す暇も与えず、一聖はフェリスを伴い、「テレポート」で病院から姿を消す。その直後――ずらりと並んだ高級車の中から、武装した兵士が続々と現れた。
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