「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・非道録 11
晴奈の話、第292話。
慟哭する晴奈。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
11.
「そうか、央北に……」
話を聞いた朱海とチェイサー一家は、複雑な面持ちで晴奈をじっと見た。
「アタシから言わせてもらえば、今は絶対行ってほしくない場所だ。戦争中だし、政争も激しい。そんな時に、そんなデカい犯罪組織を追って央北に入ろうなんて、自殺行為に近い」
「僕も同意見だよ。考え直せないのかい?」
晴奈は首を横に振り、強い意志を見せる。
「いいえ、私は行きます。このまま何もしなければ、ロウは浮かばれないでしょう。ようやく善人になり、幸せをつかんだあいつの人生を踏みにじったクラウンと、そして奴が加担し、楢崎殿の人生を狂わせた殺刹峰を、私は絶対に許すわけには行きません」
「そうは言っても……」
説得しようとするピースを、ボーダが止めた。
「分かったわ。応援するわ、セイナ」
「ありがとうございます」
「絶対、生きて帰ってきなさいよ」
「ええ」
ボーダの横にいたプレアが、晴奈の足にしがみつく。
「セイナさん、死んじゃダメだよ」
「分かっているさ。……必ず、生きて戻ります」
「おう。とびっきりの冒険譚、期待してるぜ」
朱海は晴奈の手を握り、がっちりと握手して無事を願った。
7月1日。
晴奈たちはゴールドコーストを発ち、央北の港町、ウエストポートへと船で向かっていた。
「こんな形であの街を離れるなんて、思いもよりませんでしたわね」
甲板で晴奈と一緒に風に当たっていたフォルナが、ぽつりとつぶやいた。
「そうだな。今年の初め、『どうにかして街を出られぬものか』と嘆いていたのが、何だか懐かしく感じてしまう」
「そうでしたわね……」
晴奈は目を閉じ、ゴールドコーストでの出来事を思い返す。
朱海やチェイサー一家、シリン、楢崎、そしてロウとの出会い。
血沸き胸躍る、闘技場での戦いの数々。
そして許しがたいあの凶事と、ロウの死に顔。
その顔を思い出し、不意に晴奈の目から涙がこぼれた。
「うっ……」
「どういたしましたの?」
晴奈はフォルナを抱きしめ、声を上げて泣いた。
「……風が強くて、良かった。これなら、どんなに泣き叫ぼうと、お主以外には、聞こえぬ。……う、ううっ、うぐっ」
「セイナ……」
晴奈は泣きながら、決意を口にした。
「私は、絶対に、殺刹峰を、潰す……っ! ロウの、ロウの仇を、何としてでも討つ……っ」
洋上の強い風は晴奈の願った通り、彼女の泣く声をかき消してくれた。
「いやー、へへへ……」
クラウンは安堵の表情を満面に浮かべ、狐獣人の女性と、その横に立つオッドの前に平伏していた。
「……」
「本当に一時はどうなることかと思いましたよ、へへへっ」
「さて、クラウン君と言ったか」
クラウンが一通り感謝の言葉を述べたところで、オッドの反対隣にいた片腕の、短耳の男が、クラウンを一瞥して尋ねる。
「君が何故ここに入れたか、その理由が分かるか?」
「え? そりゃ、市国で倒れてたオッド先生を、俺が助けたからじゃ」
「それもある。が、我々は秘密結社だ。そうそう、他人を引き入れるわけにはいかん」
「じゃあ、もしかして俺を加入させてくれるとか?」
「そんなわけ……無いじゃない……」
オッドと片腕の男に挟まれて座っていた「狐」の女性が、口を開いた。
「口封じの……、ためよ……」
「え」
「フローラ……やってちょうだい……」
女性が手を挙げた瞬間、クラウンの太い首に、背後から腕が回される。
「ぐえっ……!?」
「本当に、今回の取引は残念だったな」
「ええ……、そうね……」
「でもさーぁ、コイツが手に入ったんだからぁ、ソレはソレで良くなぁい?」
「まあ……、そうね……」
女性は抑揚の無い声で、相槌を打ち続ける。
「この体なら……、あなたの実験にも……、十分付き合えそうね……」
「ええ、今から楽しみで楽しみでしかたないわぁ」
オッドがにんまりと笑い、クラウンを横目で見る。
「くそ、てめ、っ、最初から、その、つも、り、で……」
「そーよぉ? じゃなきゃ、アンタみたいな小者がこんな奥まで入れるワケないじゃなぁい」
クラウンの意識が遠くなる。そこで首にかけられた手が離され、床に叩きつけられるように寝かされた。
「モノ……、とりあえず……、牢に運んでちょうだい……」
「承知した」
モノと呼ばれた片腕の男が、ぐいとクラウンの襟をつかむ。そこでほんの少しだけ、クラウンの意識が戻る。
クラウンは自分を絞め落としたであろう者の顔を、一瞬だけ見た。
「……!? ひ、ヒイ、ラ、ギ……!?」
その顔は十数年前に見た仇敵――柊雪乃の顔にそっくりだった。
蒼天剣・非道録 終
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慟哭する晴奈。
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「そうか、央北に……」
話を聞いた朱海とチェイサー一家は、複雑な面持ちで晴奈をじっと見た。
「アタシから言わせてもらえば、今は絶対行ってほしくない場所だ。戦争中だし、政争も激しい。そんな時に、そんなデカい犯罪組織を追って央北に入ろうなんて、自殺行為に近い」
「僕も同意見だよ。考え直せないのかい?」
晴奈は首を横に振り、強い意志を見せる。
「いいえ、私は行きます。このまま何もしなければ、ロウは浮かばれないでしょう。ようやく善人になり、幸せをつかんだあいつの人生を踏みにじったクラウンと、そして奴が加担し、楢崎殿の人生を狂わせた殺刹峰を、私は絶対に許すわけには行きません」
「そうは言っても……」
説得しようとするピースを、ボーダが止めた。
「分かったわ。応援するわ、セイナ」
「ありがとうございます」
「絶対、生きて帰ってきなさいよ」
「ええ」
ボーダの横にいたプレアが、晴奈の足にしがみつく。
「セイナさん、死んじゃダメだよ」
「分かっているさ。……必ず、生きて戻ります」
「おう。とびっきりの冒険譚、期待してるぜ」
朱海は晴奈の手を握り、がっちりと握手して無事を願った。
7月1日。
晴奈たちはゴールドコーストを発ち、央北の港町、ウエストポートへと船で向かっていた。
「こんな形であの街を離れるなんて、思いもよりませんでしたわね」
甲板で晴奈と一緒に風に当たっていたフォルナが、ぽつりとつぶやいた。
「そうだな。今年の初め、『どうにかして街を出られぬものか』と嘆いていたのが、何だか懐かしく感じてしまう」
「そうでしたわね……」
晴奈は目を閉じ、ゴールドコーストでの出来事を思い返す。
朱海やチェイサー一家、シリン、楢崎、そしてロウとの出会い。
血沸き胸躍る、闘技場での戦いの数々。
そして許しがたいあの凶事と、ロウの死に顔。
その顔を思い出し、不意に晴奈の目から涙がこぼれた。
「うっ……」
「どういたしましたの?」
晴奈はフォルナを抱きしめ、声を上げて泣いた。
「……風が強くて、良かった。これなら、どんなに泣き叫ぼうと、お主以外には、聞こえぬ。……う、ううっ、うぐっ」
「セイナ……」
晴奈は泣きながら、決意を口にした。
「私は、絶対に、殺刹峰を、潰す……っ! ロウの、ロウの仇を、何としてでも討つ……っ」
洋上の強い風は晴奈の願った通り、彼女の泣く声をかき消してくれた。
「いやー、へへへ……」
クラウンは安堵の表情を満面に浮かべ、狐獣人の女性と、その横に立つオッドの前に平伏していた。
「……」
「本当に一時はどうなることかと思いましたよ、へへへっ」
「さて、クラウン君と言ったか」
クラウンが一通り感謝の言葉を述べたところで、オッドの反対隣にいた片腕の、短耳の男が、クラウンを一瞥して尋ねる。
「君が何故ここに入れたか、その理由が分かるか?」
「え? そりゃ、市国で倒れてたオッド先生を、俺が助けたからじゃ」
「それもある。が、我々は秘密結社だ。そうそう、他人を引き入れるわけにはいかん」
「じゃあ、もしかして俺を加入させてくれるとか?」
「そんなわけ……無いじゃない……」
オッドと片腕の男に挟まれて座っていた「狐」の女性が、口を開いた。
「口封じの……、ためよ……」
「え」
「フローラ……やってちょうだい……」
女性が手を挙げた瞬間、クラウンの太い首に、背後から腕が回される。
「ぐえっ……!?」
「本当に、今回の取引は残念だったな」
「ええ……、そうね……」
「でもさーぁ、コイツが手に入ったんだからぁ、ソレはソレで良くなぁい?」
「まあ……、そうね……」
女性は抑揚の無い声で、相槌を打ち続ける。
「この体なら……、あなたの実験にも……、十分付き合えそうね……」
「ええ、今から楽しみで楽しみでしかたないわぁ」
オッドがにんまりと笑い、クラウンを横目で見る。
「くそ、てめ、っ、最初から、その、つも、り、で……」
「そーよぉ? じゃなきゃ、アンタみたいな小者がこんな奥まで入れるワケないじゃなぁい」
クラウンの意識が遠くなる。そこで首にかけられた手が離され、床に叩きつけられるように寝かされた。
「モノ……、とりあえず……、牢に運んでちょうだい……」
「承知した」
モノと呼ばれた片腕の男が、ぐいとクラウンの襟をつかむ。そこでほんの少しだけ、クラウンの意識が戻る。
クラウンは自分を絞め落としたであろう者の顔を、一瞬だけ見た。
「……!? ひ、ヒイ、ラ、ギ……!?」
その顔は十数年前に見た仇敵――柊雪乃の顔にそっくりだった。
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2016.07.05 修正
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
おお、ようやく5部が終了ですね。
・・・・意外に時間がかかってすいません。
まだまだこれからって感じですね。
長丁場になりそうなお話ですね。
・・・・意外に時間がかかってすいません。
まだまだこれからって感じですね。
長丁場になりそうなお話ですね。
NoTitle
こちらもポールさんの小説、拝読しました。
第3部ラストの壮絶さは、とてもハラハラさせられました。
まさかあの人も、あの人も犠牲になるとは……。
第6部もなかなか盛り上がる展開が多いです。
お楽しみに。
第3部ラストの壮絶さは、とてもハラハラさせられました。
まさかあの人も、あの人も犠牲になるとは……。
第6部もなかなか盛り上がる展開が多いです。
お楽しみに。
NoTitle
ウィアードくんなんと浮かばれん男だ。
浮かばれなさではうちの某登場人物といい勝負であります。
第6部もゆるゆると読ませてもらいます~♪
浮かばれなさではうちの某登場人物といい勝負であります。
第6部もゆるゆると読ませてもらいます~♪
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NoTitle
第6部は雪乃っぽいのが出ますよ。
引き続き、お楽しみください。