fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・烈士録 4

     ←蒼天剣・烈士録 3 →蒼天剣 目次(第1部;立志・修行編)
    晴奈の話、30話目。
    お説教。

    4.
     堂の戸が、すっと開かれる。重蔵がニコニコと笑みを浮かべながら、堂に入ってきた。
    「おう、おう。起きておったな、晴さん」
     晴奈は一瞬重蔵に顔を向け、すぐに目の前で刀を構えていた「自分」の方に視線を戻した。だが、既にそこには誰もいない。辺りを見回しても、人の姿は重蔵だけである。
     この24時間の間戦ってきた者たちは、どこにもいなかった。
    「さて、聞こうかの。晴さん、この試験は何を問うものじゃろ?」
     すべてを察した顔で、重蔵は晴奈に問いかける。晴奈はこの24時間で至った考えを、率直に話した。
    「……戦いの、意義。無闇に戦うことが、正しいことかどうか。無益な戦いは、無駄であると言うことだと」
    「ほぼ、正解じゃ。じゃが後一つ、逆のことも考えなければならぬ」
    「逆のこと? と言うと」
     晴奈は刀を納めつつ、聞き返す。
    「意味も無く戦えば、どうなる?」
    「意味も、無く……。恐らく、無為。何もなさぬかと」
    「さよう。じゃが、確実に失ったものがある。時間や話す機会、物、その他諸々、そして何より、人命。人は失った分、何かを手に入れようとする生き物じゃ。戦いで失ったものを取り戻そうとし、それは時として次の戦いを生む。
     そして戦いでまた何かを失い、さらに手に入れようとし――行き着く先は、修羅の世界じゃ。こうなるともう、無限の損失しか残らん。永遠に失い続ける人生を歩み、何も生み出すことは無い。それは己自身をも滅ぼす、まさしく地獄じゃ。
     無益な戦いこそ、剣士の名折れと心得よ。それがこの試験の本意じゃ」
    「なるほど……」
     重蔵の答えを聞いて、晴奈はしばらく顔を伏せ、考える。
    「……もう一つ、思ったことがあるのです」
    「うん?」
    「私は、私と向かい合った時、ひどく怯えていました」
     それを聞いた重蔵が、「ほう」と声をあげた。
    「自分まで呼びなすったか」
    「ええ。そして対峙した時、ずっと私は私から殺意をぶつけられていました。お恥ずかしい話ですが、これまで私は、あれほど強い殺意を受けたことが無かったのです」
    「ふむ」
     重蔵は腰を下ろし、晴奈に座るよう促す。
    「まあ、今までの経験から言うとじゃな」
    「はい」
     座り込み、同じ目線にいる晴奈をじっと見て、重蔵は言葉を続ける。
    「晴さんみたいに、自分を呼び出した者は滅多におらんのじゃ。
     呼び出した者は例外なく、若くして才能を開花させ、道を極めた者。そう言う者ほど、自分に自信を持っておるのじゃろうな」
    「はあ……」
    「正直な話、わしが試験を受けることを促した時、『自分にはその資格がある』と思っておったじゃろ?」
    「……はい」
     心中を言い当てられ、晴奈は顔を赤くしてうなずく。
    「そんな者ほど、当然過ぎるほど当然のことに気付かん。『敵を倒す時は逆に、倒されることもある』と言うことにな。それが分からん者ほど修羅になりやすい。
     さっきも言うたが、剣士としてその道に身を落とすことは、何よりも悪い罪じゃ」
     罪、と聞いて晴奈の心がまた痛む。先ほど感じた罪悪感が、思い出されてきた。
    「自分と向かい合った時に感じたそれを、よく覚えておきなさい。修羅の道に足を踏み入れそうになった時、それを思い出せば、思い止まることができるじゃろう」
    「はい……」
     晴奈は重蔵の言葉を、心に深く刻みつけた。

     重蔵は懐から巻物を取り出し、晴奈の眼前で紐解き、開く。
    「これは、焔流剣術の始まりからずっと書き連ねておる、免許皆伝の書じゃ。
     ほれ、この端。『焔玄蔵』と書かれておるじゃろ。これこそが我らの開祖、『焔剣仙』玄蔵。そしてその後に、おびただしい数の名前が連なっておる。これらは皆、焔流を極めし者。免許皆伝の証を得た者たちじゃ。
     そして今日、玄蔵と反対側の端に。黄晴奈の名を連ねよう」
     重蔵は指差した箇所に晴奈の名を書き、晴奈の手を取って拇印を押させた。
    「おめでとう。これより晴さんは、焔流免許皆伝を名乗ってよろしい」
    「……」
     晴奈は何か礼を言おうとしたが、言葉にならない。ばっと体を伏せ、重蔵の前で深々と頭を下げた。



     こうして双月暦512年の秋、晴奈は焔流免許皆伝と言う、最大・最高級の剣士の称号を得た。同時に紅蓮塞での地位も急激に上がり、指導に回ることも多くなった。
     だが、晴奈はこの現状に満足しなかった。いくら強くなっても、強くなったと言う証明を得ても――。
    (明奈を救い出せなくて、何が免許皆伝だ。
     いつか明奈が無事に帰ってくるまでは、いや、私が救い出すその時までは、この言葉を用いるまい)
     晴奈は救い出す機を待ち、黙々と修行に励んでいた。

    蒼天剣・烈士録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.07 転載及び加筆修正
    2016.02.10 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・烈士録 3】へ
    • 【蒼天剣 目次(第1部;立志・修行編)】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    後述しますが、「黒炎教団」=「大火の組織」ではありません。
    「大火を神聖視する人たちが勝手に作った組織」です。
    明奈がさらわれたのも、大火の意思とは無関係。
    彼らが勝手に暴走した結果です。

    NoTitle 

    大火を倒さんといかんのかv-394

    NoTitle 

    トイ・ストーリーかなんかのNGシーンみたい(;´∀`)

    パロディコント 

    「そうだ。こちらから攻撃はしないで、体力の消費を抑えるのだ」

    晴奈は太刀を青眼につけた。

    24時間が過ぎた。

    堂を開けたとき、そこにあったのは、太刀を青眼につけて構え、立ったまま眠っている、晴奈の姿だった。

    ぐー。

    修行やり直し!


    というパロディコントを思いつきました。

    すみません思いついたらしゃべりたくなるほうで……。

     

    3年経ち、第2部になりました。
    変化したのは、晴奈の身長くらいですね。

    懐かしいですね、FF。
    戦わずに戦闘が終了する展開、なかなか書くのが難しいです。
    はっきりと優劣、決着を付けられないので。
    この話はきっちりまとめられたと思います(*´∀`)

    第一部終了、お疲れ様でした。
    今後も楽しみにしてますね。

    3年後!!?? 

    ……といきなりの展開に驚いたり。
    そうは言っても人物は変わっていないので、外観もそんなに変わっていないのかな~~と思ったり。それとも、やっぱり若干晴奈も大人っぽくなっていたりすんでしょうか。
    免許皆伝ということですね。FFⅣでも自分の戦いがありましたよね。自分自身の戦いに勝つためには『攻撃しないこと』が勝つ方法だとは思わなかった記憶があります。この辺は結構いい話だな~~と思いました。このシリーズも長いですが、もちろん引き続き読みますよ~~。

    なお私ごとになりますが、小説の一部の連載が終わりました。コメントなど頂き本当にありがとうございます。二部の連載も邁進していきますので、よろしくお願いいたします。



    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・烈士録 3】へ
    • 【蒼天剣 目次(第1部;立志・修行編)】へ