「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
KCN 4
番外編。
プロファイリングと飛び込み営業。
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プロファイリングと飛び込み営業。
4.
ヘレンはこれまで犯行現場に残されてきたある物を机に並べ、腕を組んでそれらをにらみ付けていた。
「……」
「どうした、ヘレン?」
背後から声がかけられる。
「あ、デルタさん」
「もう30枚近いんだな、それ」
ヘレンの机の上には、これまで犯行現場に残されてきたカードが並んでいた。
文面はおおよそ「怪盗KCN参上 ~様 ~します」となっている。襲った銀行や工場、商店の名前を「~様」に入れ、続いて「金子を拝借します」「美味しそうなワインをいただきます」など簡単な文章を付けて、犯人が現場に置いていくのだ。
冒頭の「KCN」と言う3文字が恐らく犯人の名前であろうと言うことから、496年現在この一連の事件は「KCN事件」と呼ばれていた。
「でも、最近は『怪盗』って付かなくなったみたいだな」
「ええ、それなんですわ、気になっとるんは」
「ん?」
ヘレンはもっとも新しいカードと、比較的初期のものとを手に取って見比べた。
「いつの間にか、『怪盗』っちゅう言葉が消えとるんです。これ、ちょっと気になりません?」
「まあ、最近は泥棒としてよりも、無差別殺人犯として名前が通ってるからな。犯人も気にしてるんじゃないか?」
「でも、時系列的には逆なんですわ」
「って言うと?」
ヘレンはもう一枚、カードを手に取る。
「殺人犯として名前が通り始めたのんはフランコ信用金庫で初めて殺人を犯してから、何件か間を置いてからです。なのに、その次のイヴァノ鉄工ですぐに『怪盗』の文字を外してます。世間が騒ぐより前に、自分からこの言葉を消しとるんですわ」
「それは……、単に良心の呵責から、とかじゃないのか?」
「犯人がそんなに良心のある奴やったら、その後無差別的に人を殺したりしませんて。
それにこう言う傾向、前々からありますのんや」
「うん?」
デルタはくわえていた煙草を揉み潰し、ヘレンの話に集中する。
「最初の方は、こんなカードなんかありませんでしたよね。カードが出てきたのんと、世間が怪盗やの言い始めたんは同時期ですわ。
せやから私ら捜査陣も、『犯人は世間を騒がせるのを目的とした愉快犯』っちゅう見方してましたけども……」
ヘレンはそこで言葉を切り、部屋の扉の方に顔を向ける。
「誰や?」「うひゃ」
扉の向こうで、息を呑む声がする。少し遅れて、ゆっくりと扉が開いた。
「……こ、こんにちはー」
「ああ、アンタかいな」
ヘレンは表情を崩し、その人物に歩み寄った。
「そんなトコで突っ立ってんと、こっち来いな」
「あ、はい。お邪魔します」
入ってきたのは、ボサボサの茶髪を無造作にまとめた、ひょろりとした狐獣人の男だった。
「おう、ディーノ君。久々だなぁ」
「あ、ども。ご無沙汰してました」
ディーノは頭をボリボリとかきつつ挨拶した。
「相変わらずだなぁ。それで今日はどんな用なの、発明家君」
「あ、はい。えーと、お二人とも、時間いいですか?」
「えーけど、何やの?」
「えっとですね、あ、まずは見てもらった方がいいかな」
そう言ってディーノは持っていたかばんを開けた。
「……? 何やのん?」
「えーと、何て言ったらいいのかな。あ、ほら、古い兵器で火薬を筒に詰めて、石とかを発射する装置があるんですけど、それを小型化した感じの物を造ってみたんです。
それで、公安さんに試験的に使ってみてもらえないかなって」
「ふーん……?」
このディーノ・アグネリと言う人物、金火狐財団の開発局に勤めている職人で、ヘレンの昔からの知り合いなのだが、とにかく変人で知られている。
これまでにも警棒の軽量化や壊れにくい手錠など、公安の装備品を改良する上で少なからず貢献しているのだが、時折「逃走する犯人を拘束するための、発射式の手錠」や「篭城する犯人をいぶり出すための、体積が急激に増えるゼリー」など、妙な発明品を持ちこんでくると言う困った習慣がある。
その発明品のほとんどが奇抜すぎる発想と使用法のため、大抵の公安職員は彼を敬遠していたのだが、ヘレンのいるチームは「腐れ縁」と言うこともあって、半分茶飲み友達が訪ねてくるようなつもりで彼と親しんでいた。
場所を公安局の外にある空き地に移し、ヘレンとデルタはディーノから発明品の説明を受けた。
「……で、ここの引き金を引くと、ですね」
「こう?」
ヘレンは説明に従ってその器械を握り、10メートルほど離れた空き缶に向かって引き金を引いてみた。
すると耳をつんざくようなバン、と言う音を立てて、ヘレンの利き腕に強い衝撃が走った。
「ひゃっ!?」
ヘレンは突然の衝撃に面食らい、尻餅を付いてしまう。
「な、何!? 何なん、これ!?」
「ですから、小石とかを発射する装置です」
「それは分かっとるわ! いきなり爆発するなんて聞いてへんで!」
「いや、火薬を使いますし、分かってるかなって」
「こんなグワーッと来ると思わへんやんか、こんなちっこいのに! ……あーもー、ビックリしたわ、ホンマに!」
ヘレンは驚かされた怒りを、デコピンでぶつける。
「あいてっ」
「……はぁ。んで、これは何に使うのん?」
「あ、えーと、そうですね。犯人が逃げてる時とか、遠いところから攻撃する時に」
「……それやったら、魔術とかの方がええんちゃうん?」
「いや、それだと使える人が限定されるんで……。これなら、誰でも引き金を引けば使えますから」
話を聞いていたデルタが、煙草に火を点けながら話に加わる。
「しかし、命中するもんかね? 空き缶にはまったくかすりもしてないみたいだが……」
「え?」
「ほれ、あそこ……」
ヘレンとディーノはデルタがくわえた煙草で指し示した先に目を向ける。
「……あ」
その方向には、公安局の壁に穴が空いているのが見えた。
「やばっ」
ヘレンの顔が青ざめる。
「……とりあえずしらばっくれよう。逃げるぞ」
デルタはいち早く、公安局の中に駆け込んだ。
ヘレンはこれまで犯行現場に残されてきたある物を机に並べ、腕を組んでそれらをにらみ付けていた。
「……」
「どうした、ヘレン?」
背後から声がかけられる。
「あ、デルタさん」
「もう30枚近いんだな、それ」
ヘレンの机の上には、これまで犯行現場に残されてきたカードが並んでいた。
文面はおおよそ「怪盗KCN参上 ~様 ~します」となっている。襲った銀行や工場、商店の名前を「~様」に入れ、続いて「金子を拝借します」「美味しそうなワインをいただきます」など簡単な文章を付けて、犯人が現場に置いていくのだ。
冒頭の「KCN」と言う3文字が恐らく犯人の名前であろうと言うことから、496年現在この一連の事件は「KCN事件」と呼ばれていた。
「でも、最近は『怪盗』って付かなくなったみたいだな」
「ええ、それなんですわ、気になっとるんは」
「ん?」
ヘレンはもっとも新しいカードと、比較的初期のものとを手に取って見比べた。
「いつの間にか、『怪盗』っちゅう言葉が消えとるんです。これ、ちょっと気になりません?」
「まあ、最近は泥棒としてよりも、無差別殺人犯として名前が通ってるからな。犯人も気にしてるんじゃないか?」
「でも、時系列的には逆なんですわ」
「って言うと?」
ヘレンはもう一枚、カードを手に取る。
「殺人犯として名前が通り始めたのんはフランコ信用金庫で初めて殺人を犯してから、何件か間を置いてからです。なのに、その次のイヴァノ鉄工ですぐに『怪盗』の文字を外してます。世間が騒ぐより前に、自分からこの言葉を消しとるんですわ」
「それは……、単に良心の呵責から、とかじゃないのか?」
「犯人がそんなに良心のある奴やったら、その後無差別的に人を殺したりしませんて。
それにこう言う傾向、前々からありますのんや」
「うん?」
デルタはくわえていた煙草を揉み潰し、ヘレンの話に集中する。
「最初の方は、こんなカードなんかありませんでしたよね。カードが出てきたのんと、世間が怪盗やの言い始めたんは同時期ですわ。
せやから私ら捜査陣も、『犯人は世間を騒がせるのを目的とした愉快犯』っちゅう見方してましたけども……」
ヘレンはそこで言葉を切り、部屋の扉の方に顔を向ける。
「誰や?」「うひゃ」
扉の向こうで、息を呑む声がする。少し遅れて、ゆっくりと扉が開いた。
「……こ、こんにちはー」
「ああ、アンタかいな」
ヘレンは表情を崩し、その人物に歩み寄った。
「そんなトコで突っ立ってんと、こっち来いな」
「あ、はい。お邪魔します」
入ってきたのは、ボサボサの茶髪を無造作にまとめた、ひょろりとした狐獣人の男だった。
「おう、ディーノ君。久々だなぁ」
「あ、ども。ご無沙汰してました」
ディーノは頭をボリボリとかきつつ挨拶した。
「相変わらずだなぁ。それで今日はどんな用なの、発明家君」
「あ、はい。えーと、お二人とも、時間いいですか?」
「えーけど、何やの?」
「えっとですね、あ、まずは見てもらった方がいいかな」
そう言ってディーノは持っていたかばんを開けた。
「……? 何やのん?」
「えーと、何て言ったらいいのかな。あ、ほら、古い兵器で火薬を筒に詰めて、石とかを発射する装置があるんですけど、それを小型化した感じの物を造ってみたんです。
それで、公安さんに試験的に使ってみてもらえないかなって」
「ふーん……?」
このディーノ・アグネリと言う人物、金火狐財団の開発局に勤めている職人で、ヘレンの昔からの知り合いなのだが、とにかく変人で知られている。
これまでにも警棒の軽量化や壊れにくい手錠など、公安の装備品を改良する上で少なからず貢献しているのだが、時折「逃走する犯人を拘束するための、発射式の手錠」や「篭城する犯人をいぶり出すための、体積が急激に増えるゼリー」など、妙な発明品を持ちこんでくると言う困った習慣がある。
その発明品のほとんどが奇抜すぎる発想と使用法のため、大抵の公安職員は彼を敬遠していたのだが、ヘレンのいるチームは「腐れ縁」と言うこともあって、半分茶飲み友達が訪ねてくるようなつもりで彼と親しんでいた。
場所を公安局の外にある空き地に移し、ヘレンとデルタはディーノから発明品の説明を受けた。
「……で、ここの引き金を引くと、ですね」
「こう?」
ヘレンは説明に従ってその器械を握り、10メートルほど離れた空き缶に向かって引き金を引いてみた。
すると耳をつんざくようなバン、と言う音を立てて、ヘレンの利き腕に強い衝撃が走った。
「ひゃっ!?」
ヘレンは突然の衝撃に面食らい、尻餅を付いてしまう。
「な、何!? 何なん、これ!?」
「ですから、小石とかを発射する装置です」
「それは分かっとるわ! いきなり爆発するなんて聞いてへんで!」
「いや、火薬を使いますし、分かってるかなって」
「こんなグワーッと来ると思わへんやんか、こんなちっこいのに! ……あーもー、ビックリしたわ、ホンマに!」
ヘレンは驚かされた怒りを、デコピンでぶつける。
「あいてっ」
「……はぁ。んで、これは何に使うのん?」
「あ、えーと、そうですね。犯人が逃げてる時とか、遠いところから攻撃する時に」
「……それやったら、魔術とかの方がええんちゃうん?」
「いや、それだと使える人が限定されるんで……。これなら、誰でも引き金を引けば使えますから」
話を聞いていたデルタが、煙草に火を点けながら話に加わる。
「しかし、命中するもんかね? 空き缶にはまったくかすりもしてないみたいだが……」
「え?」
「ほれ、あそこ……」
ヘレンとディーノはデルタがくわえた煙草で指し示した先に目を向ける。
「……あ」
その方向には、公安局の壁に穴が空いているのが見えた。
「やばっ」
ヘレンの顔が青ざめる。
「……とりあえずしらばっくれよう。逃げるぞ」
デルタはいち早く、公安局の中に駆け込んだ。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

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もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

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未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
どうもお久しぶりです。
コメントを書くのは半年ぶりくらいになりますでしょうか(^-^;
毎日更新を楽しみにしています。今回コメントしたのは、誤字の報告のためです。
「金子」ではなく「金庫」ではないでしょうか(^^;
何か意図があってそうしているのでしたら申し訳ありません(>_<)
コメントを書くのは半年ぶりくらいになりますでしょうか(^-^;
毎日更新を楽しみにしています。今回コメントしたのは、誤字の報告のためです。
「金子」ではなく「金庫」ではないでしょうか(^^;
何か意図があってそうしているのでしたら申し訳ありません(>_<)
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ご指摘いただいて恐縮ですが、誤字ではありません。
「金子(きんす)」です。「お金」のもったいぶった言い方ですね。
怪盗を気取ってる人なら、こんな言い回しをするんじゃないかな、と思いましてw