「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
KCN 5
番外編。
あの人も若かった。
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あの人も若かった。
5.
「ふー……」
ヘレンたちより一足先に局内の休憩室に入り、デルタは新しい煙草に火を点けた。
「ったく、ろくなことしねえな、あのモジャモジャ狐は」
局内の様子を探るが、誰も外の様子を伺う者はいない。どうやら、先程の破裂音は誰にも聞かれなかったらしい。
「バレたら大目玉だなぁ」「何がです?」
すぐ横から声がかけられる。
「うぉ!?」
デルタはきょろきょろと周りを見回すが、目線上には誰の姿もない。
「……気のせいか」「気のせいじゃないです」
もう一度声がかけられ、デルタは目線を下に下げた。
「あ」「そりゃ私、背は小さいですけども」
その方向には、いつも死体の解剖を担当している猫獣人の医師が座っていた。
余談になるが、この時代――双月暦5世紀頃――にはまだ「科学捜査」は確立されていない。なので、「犯人の体液を入手して分析」とか、「現場に残された指紋を解析」と言った先進的な検証などできない。この時代の検死医が行っているのは概ね、「死因の確認」くらいである。
それだけのために専属の医師を雇うのはあまりにも非経済的なので、この猫獣人の彼は公安には委託・嘱託と言う形で在籍しており、本業は街医者である。
「またアグネリさんですか、はは……」
デルタから話を(局建物に穴を開けたことは秘密にして)聞かされた医師は煙草の煙を吐きながら苦笑する。
「本当、お騒がせですね」
「ああ。何だってヘレンちゃんは、あんなのと仲がいいんだかな」
「聞いた話では幼馴染だとか。……そう言うの聞くと、ちょっとうらやましくなります」
「ん?」
医師は煙草の煙をゆっくりと吐きながら、自分の身の上を語り始めた。
「私、央南系の移民の3世なんですけども、最初はここからもっと西の土地に住んでたんですよ。でも10歳の頃に、住んでた街で中毒事件が起こっちゃいましてね」
「中毒事件?」
「ええ。街中に流行るような食中毒が起きたんです。どうも大量に仕入れた魚が腐るか何かしてたみたいで。
それで街中大騒ぎになるし、家でも姉が亡くなるしで。……それで、ゴールドコーストに越してきたんです」
「そうだったのか……。そりゃ、まあ、……ご愁傷様、かな」
神妙な空気になったのを察してか、医師はパタパタと手を振る。
「あ、いえ。昔のことですから。……そんなわけで、私は幼馴染とか周りにいないんですよ」
「なるほどなぁ……」
昔のこと、と言っていたが、それでも肉親の話であるし、それなりに引きずっているのかも知れない。煙草を吸っている彼の顔は、どこか切なそうに見えた。
「あれ? アンタ……」
と、ここでデルタは彼の特徴的な瞳に気が付いた。
「はい?」
「右目、青色だけど、左目は金色なんだな。オッドアイってやつか」
「あ、はい。……まあ、名前もそれに因んでるんですけどね」
「名前? ……えっと、確か」
「シアン(青色)です。シアン・チョウ。
……っと、もうこんな時間ですか。それじゃ私、そろそろ家に帰ります。午後の診察とかあるんで」
医師シアンは煙草を灰皿に投げ込み、そそくさと局の出入口に向かった。
シアンと入れ替わりに、ヘレンとディーノが休憩室へとやってきた。
「あー、デルタさんこんなトコおったんですかぁ。探しましたよー」
「おう、ヘレンちゃん。……さっきの、大丈夫だったか?」
「多分バレてへんと思いますし、大丈夫でしょ」
「すみませんね、本当……」
ディーノは頭をワシワシとかきながら謝っている。
「次からはちゃんと説明してから使わせて、な?」
「はい、すみません」
「ホンマ、頼むでぇ。……ほな、そろそろ部屋に戻りましょ。ロメオさんもそろそろ、昼食から帰ってきてる頃でしょうし」
「そうだな。じゃ、行くとするか」
ヘレンの言葉にうなずきつつ、デルタは煙草を消した。
ヘレンの予想通り、部屋に戻ると既にロメオが戻ってきており、ニヤニヤしながら茶をすすっていた。
「どないしたんです? 機嫌良さそうですけど」
「ああ、面白いことが2つあったもんだから、はは……。
さっきメシ食いに行ってたら、息子夫婦とばったり会っちゃってねぇ。孫も一緒だったから、ちょっと遊んでたんだよ。やっぱいいねぇ、家族ってのは」
顔をとろりとにやけさせ、薄くなった赤毛をペタペタと撫で付けているロメオを見て、ヘレンはほほえましい気持ちになった。
「なるほどー。そんで、もういっこ面白いことっちゅうのんは何です?」
「ん? ああ、……それでな、メシ食い終わってこっちに帰ってきたら、パンって言う破裂音がしたからさ、一体何だと思って隠れて見てたら……」
そこで言葉を切り、ロメオはニヤニヤした顔をヘレンとデルタに向けてきた。
「……えへ」「……すんません」
ヘレンたちは顔を真っ赤にし、ロメオに頭を下げた。
「ふー……」
ヘレンたちより一足先に局内の休憩室に入り、デルタは新しい煙草に火を点けた。
「ったく、ろくなことしねえな、あのモジャモジャ狐は」
局内の様子を探るが、誰も外の様子を伺う者はいない。どうやら、先程の破裂音は誰にも聞かれなかったらしい。
「バレたら大目玉だなぁ」「何がです?」
すぐ横から声がかけられる。
「うぉ!?」
デルタはきょろきょろと周りを見回すが、目線上には誰の姿もない。
「……気のせいか」「気のせいじゃないです」
もう一度声がかけられ、デルタは目線を下に下げた。
「あ」「そりゃ私、背は小さいですけども」
その方向には、いつも死体の解剖を担当している猫獣人の医師が座っていた。
余談になるが、この時代――双月暦5世紀頃――にはまだ「科学捜査」は確立されていない。なので、「犯人の体液を入手して分析」とか、「現場に残された指紋を解析」と言った先進的な検証などできない。この時代の検死医が行っているのは概ね、「死因の確認」くらいである。
それだけのために専属の医師を雇うのはあまりにも非経済的なので、この猫獣人の彼は公安には委託・嘱託と言う形で在籍しており、本業は街医者である。
「またアグネリさんですか、はは……」
デルタから話を(局建物に穴を開けたことは秘密にして)聞かされた医師は煙草の煙を吐きながら苦笑する。
「本当、お騒がせですね」
「ああ。何だってヘレンちゃんは、あんなのと仲がいいんだかな」
「聞いた話では幼馴染だとか。……そう言うの聞くと、ちょっとうらやましくなります」
「ん?」
医師は煙草の煙をゆっくりと吐きながら、自分の身の上を語り始めた。
「私、央南系の移民の3世なんですけども、最初はここからもっと西の土地に住んでたんですよ。でも10歳の頃に、住んでた街で中毒事件が起こっちゃいましてね」
「中毒事件?」
「ええ。街中に流行るような食中毒が起きたんです。どうも大量に仕入れた魚が腐るか何かしてたみたいで。
それで街中大騒ぎになるし、家でも姉が亡くなるしで。……それで、ゴールドコーストに越してきたんです」
「そうだったのか……。そりゃ、まあ、……ご愁傷様、かな」
神妙な空気になったのを察してか、医師はパタパタと手を振る。
「あ、いえ。昔のことですから。……そんなわけで、私は幼馴染とか周りにいないんですよ」
「なるほどなぁ……」
昔のこと、と言っていたが、それでも肉親の話であるし、それなりに引きずっているのかも知れない。煙草を吸っている彼の顔は、どこか切なそうに見えた。
「あれ? アンタ……」
と、ここでデルタは彼の特徴的な瞳に気が付いた。
「はい?」
「右目、青色だけど、左目は金色なんだな。オッドアイってやつか」
「あ、はい。……まあ、名前もそれに因んでるんですけどね」
「名前? ……えっと、確か」
「シアン(青色)です。シアン・チョウ。
……っと、もうこんな時間ですか。それじゃ私、そろそろ家に帰ります。午後の診察とかあるんで」
医師シアンは煙草を灰皿に投げ込み、そそくさと局の出入口に向かった。
シアンと入れ替わりに、ヘレンとディーノが休憩室へとやってきた。
「あー、デルタさんこんなトコおったんですかぁ。探しましたよー」
「おう、ヘレンちゃん。……さっきの、大丈夫だったか?」
「多分バレてへんと思いますし、大丈夫でしょ」
「すみませんね、本当……」
ディーノは頭をワシワシとかきながら謝っている。
「次からはちゃんと説明してから使わせて、な?」
「はい、すみません」
「ホンマ、頼むでぇ。……ほな、そろそろ部屋に戻りましょ。ロメオさんもそろそろ、昼食から帰ってきてる頃でしょうし」
「そうだな。じゃ、行くとするか」
ヘレンの言葉にうなずきつつ、デルタは煙草を消した。
ヘレンの予想通り、部屋に戻ると既にロメオが戻ってきており、ニヤニヤしながら茶をすすっていた。
「どないしたんです? 機嫌良さそうですけど」
「ああ、面白いことが2つあったもんだから、はは……。
さっきメシ食いに行ってたら、息子夫婦とばったり会っちゃってねぇ。孫も一緒だったから、ちょっと遊んでたんだよ。やっぱいいねぇ、家族ってのは」
顔をとろりとにやけさせ、薄くなった赤毛をペタペタと撫で付けているロメオを見て、ヘレンはほほえましい気持ちになった。
「なるほどー。そんで、もういっこ面白いことっちゅうのんは何です?」
「ん? ああ、……それでな、メシ食い終わってこっちに帰ってきたら、パンって言う破裂音がしたからさ、一体何だと思って隠れて見てたら……」
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「……えへ」「……すんません」
ヘレンたちは顔を真っ赤にし、ロメオに頭を下げた。



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