「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
KCN 6
番外編。
焦るべからず。
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焦るべからず。
6.
KCN事件の発生から4ヶ月が経ち、事態はますます悪化していた。
発生件数は既に40件台に届き、また死者の数も22名となっていたため、世間では公安の捜査能力に不信感を抱く者も出始めていた。
「……チッ」
デルタは煙草を噛み潰しながら、捜査チームに送られてきた抗議の手紙を握りつぶした。
「何が『捜査当局の怠慢、許すべからず!』だ、んなこと言うならてめーらが捜査しろってんだ、クソ!」
抗議文をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げ捨てる。
「まあ、そうカッカしなさんな、デルタの兄ちゃんよ」
「……はい」
ロメオになだめられ、デルタは机に腰掛ける。
「しかし、いまだに有力な手がかりも無し、増えるのは抗議文とこのカードだけ、……じゃ、怒りたくもなるってもんですよ」
「まあ分かる、気持ちは良く分かる。……だけどなデルタ、焦っちゃダメだ。
焦って結果を出そうとすると、決まって下手を打つもんだ。俺たちが下手打っちまったら、市民の安全ってやつは非常に危うくなる。俺たちはできる限り、慎重に行動しなきゃならないんだよ――例え周りから『ごく潰し』だの『怠け者』だのって見られてても、な」
「そりゃ、まあ、分かってるつもりですけど……」
釈然としないデルタの気持ちを察し、ロメオは優しくポンポンと彼の肩を叩いた。
「それが分かっていればいいんだ。……くれぐれも焦るなよ、デルタ・ヴィンチ巡査長」
「……」
ロメオはもう一度彼の肩を叩き、帽子を取って部屋の扉を開けた。
「それじゃ定時だから、俺はそろそろ帰るよ。残業もほどほどにな」
「……はい」
ロメオに忠告されたものの、デルタは市民からなじられたことが悔しくてたまらなかった。
「何か、何か手がかりは……?」
だが、いくら焦ってもこちらが手にしている手がかりは、これまでに襲われた場所や死体のデータと、犯行現場に残されたカードだけである。
40枚以上になったそのカードの山を、デルタは怒り任せに机の上からはたき出した。
「くそ、分からん……っ!」
デルタはバンと机を叩き、悔しがった。
と、キイ……、と音を立てて、背後の扉が開く。
「あの、どうしたんですか……?」
心配そうに中を覗きこんできた顔を見て、デルタは我に返った。
「あ、……す、すまん。驚かせたか、ディーノ君」
「いえ……。あ、デルタさんはこんな時間まで何を?」
「現場に残ったものや資料から、何か見つからないかと思ってな。……だが、夜までかかっても、何の手がかりも出てこない」
「ふうん……」
ディーノは散らばった資料とカードを拾い、眺めている。
「ディーノ君こそ、こんな遅くまでどうしたんだ?」
「あ、この前お見せしたあの武器、改良してみたんです。衝撃が強過ぎて外しちゃうみたいですから、もっと衝撃を分散できるようにならないかなって。試行錯誤してたら、遅くなっちゃいまして、はは……」
ディーノはその武器が入っているらしいかばんを床に置き、資料を熟読する。
「あんまり見ないでくれるかな、ディーノ君。一応、部外秘だから」
「あ、すみません」
ディーノはぺこりと頭を下げた。
「でも変な犯人ですよね」
「うん?」
「『KCN』って名前なのにほら、これ」
そう言ってディーノは資料のある項目を指差した。
「……? 良く分からないんだが」
「えっと……。KCNって言えば、あれですよね。あの薬品だと思ったんですけど」
ディーノは自分が思ったことを、たどたどしく説明する。それを聞くうちに、デルタの目が段々と見開かれていった。
「……そうか!」
「え?」
「ありがとう、ディーノ君。……こうしちゃいられないな」
「どうしたんですか?」
「用事ができた。悪いがまた明日来てくれ」
デルタは椅子にかけていた上着を無造作につかみ、袖を通しながらバタバタと部屋を出て行った。
KCN事件の発生から4ヶ月が経ち、事態はますます悪化していた。
発生件数は既に40件台に届き、また死者の数も22名となっていたため、世間では公安の捜査能力に不信感を抱く者も出始めていた。
「……チッ」
デルタは煙草を噛み潰しながら、捜査チームに送られてきた抗議の手紙を握りつぶした。
「何が『捜査当局の怠慢、許すべからず!』だ、んなこと言うならてめーらが捜査しろってんだ、クソ!」
抗議文をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に投げ捨てる。
「まあ、そうカッカしなさんな、デルタの兄ちゃんよ」
「……はい」
ロメオになだめられ、デルタは机に腰掛ける。
「しかし、いまだに有力な手がかりも無し、増えるのは抗議文とこのカードだけ、……じゃ、怒りたくもなるってもんですよ」
「まあ分かる、気持ちは良く分かる。……だけどなデルタ、焦っちゃダメだ。
焦って結果を出そうとすると、決まって下手を打つもんだ。俺たちが下手打っちまったら、市民の安全ってやつは非常に危うくなる。俺たちはできる限り、慎重に行動しなきゃならないんだよ――例え周りから『ごく潰し』だの『怠け者』だのって見られてても、な」
「そりゃ、まあ、分かってるつもりですけど……」
釈然としないデルタの気持ちを察し、ロメオは優しくポンポンと彼の肩を叩いた。
「それが分かっていればいいんだ。……くれぐれも焦るなよ、デルタ・ヴィンチ巡査長」
「……」
ロメオはもう一度彼の肩を叩き、帽子を取って部屋の扉を開けた。
「それじゃ定時だから、俺はそろそろ帰るよ。残業もほどほどにな」
「……はい」
ロメオに忠告されたものの、デルタは市民からなじられたことが悔しくてたまらなかった。
「何か、何か手がかりは……?」
だが、いくら焦ってもこちらが手にしている手がかりは、これまでに襲われた場所や死体のデータと、犯行現場に残されたカードだけである。
40枚以上になったそのカードの山を、デルタは怒り任せに机の上からはたき出した。
「くそ、分からん……っ!」
デルタはバンと机を叩き、悔しがった。
と、キイ……、と音を立てて、背後の扉が開く。
「あの、どうしたんですか……?」
心配そうに中を覗きこんできた顔を見て、デルタは我に返った。
「あ、……す、すまん。驚かせたか、ディーノ君」
「いえ……。あ、デルタさんはこんな時間まで何を?」
「現場に残ったものや資料から、何か見つからないかと思ってな。……だが、夜までかかっても、何の手がかりも出てこない」
「ふうん……」
ディーノは散らばった資料とカードを拾い、眺めている。
「ディーノ君こそ、こんな遅くまでどうしたんだ?」
「あ、この前お見せしたあの武器、改良してみたんです。衝撃が強過ぎて外しちゃうみたいですから、もっと衝撃を分散できるようにならないかなって。試行錯誤してたら、遅くなっちゃいまして、はは……」
ディーノはその武器が入っているらしいかばんを床に置き、資料を熟読する。
「あんまり見ないでくれるかな、ディーノ君。一応、部外秘だから」
「あ、すみません」
ディーノはぺこりと頭を下げた。
「でも変な犯人ですよね」
「うん?」
「『KCN』って名前なのにほら、これ」
そう言ってディーノは資料のある項目を指差した。
「……? 良く分からないんだが」
「えっと……。KCNって言えば、あれですよね。あの薬品だと思ったんですけど」
ディーノは自分が思ったことを、たどたどしく説明する。それを聞くうちに、デルタの目が段々と見開かれていった。
「……そうか!」
「え?」
「ありがとう、ディーノ君。……こうしちゃいられないな」
「どうしたんですか?」
「用事ができた。悪いがまた明日来てくれ」
デルタは椅子にかけていた上着を無造作につかみ、袖を通しながらバタバタと部屋を出て行った。



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