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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    KCN 7

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    番外編。
    揺らぐ平和。




    7.
     翌日、ヘレンたちの部屋。
     ヘレンとロメオが、デルタの机の前で首をひねっていた。
    「おっかしいねぇ……? もう9時回っちまったんだけども」
    「遅いですね、なんぼ何でも」
     概ね定時に出勤してくるデルタが、いつまで経っても現れないのだ。
    「まあ、夕べ残業する気満々そうだったからなぁ。寝坊してるのかも知れないねぇ。……仕方ない、俺があいつの家まで行って呼んでくるわ」
    「いや、ロメオさんここの責任者ですし、抜けたらアカンでしょ。私が行きますわ」
    「ん、じゃあ……」
     そこにトントンと、扉を叩く音が響いてきた。
    「ん? どうぞー」
    「おはようございます、ヘレンさん、ロメオさん。……あれ?」
     入ってきたディーノはきょろきょろと部屋中を見回す。
    「デルタなら寝坊したみたいだよ」
    「あ、そうなんですか。夕べも遅くまで残ってましたからねぇ」
    「ん? アンタ、デルタさんに昨日会うたん?」
     ヘレンの問いに、ディーノはぺこりとうなずく。
    「はい、こないだの武器を改良したんで、誰かに見てもらえないかなって。
     でも忙しいんですね、やっぱり。デルタさん、『用事ができた』って言って、大急ぎでどこかに行っちゃいました」
    「大急ぎで……?」
     ディーノの話に、飄々としていたロメオの目がしゅっと短くなった。
    「そりゃ、何時頃の話だい?」
    「えーと、10時くらいだったと思います、夜の」
    「夜中に用事だって……? 何か手がかりを見つけたのかな、奴さん」
    「何か言うてへんかったか?」
    「うーん、特には」
    「ホンマか? ホンマに、何も変なトコ無かったか?」
     ディーノの要領を得ない応答に、ヘレンが苛立ちかけたその時だった。
    「たっ、大変です、警部殿!」
     空きっぱなしだった扉を蹴破るようにして、職員が入ってきた。
    「うん? どした、いきなり?」
    「巡査長が……、ヴィンチ巡査長が……っ!」

    「……冗談だろ、おい」
     現場に駆けつけたロメオとヘレン、そして成り行きで付いてきたディーノは唖然としていた。
    「こんな……、こんなん……!」
     三人の足元には、紫色に変色した大量の血が溜まっていた。
    「こんなん、ウソやろ……?」
     そしてその血溜まりの中心に、全身がただれ、体中のありとあらゆる血を流しきったデルタの遺体が横たわっていた。
    「こんなん、こんなん……」
    「……畜生、だから焦るなって……、くそっ……」
     ディーノは凄惨な死体にショックを受け、遠くに走り去って嘔吐している。
     ヘレンはしゃがみ込み、顔を両手で覆って泣いている。
     そしてロメオは帽子を深々と被り、表情を見せないようにしてその場から立ち去った。



     こうしてKCN事件は44件目を迎え、同時に「仲間を殺された」として、全公安職員を怒りに打ち震えさせることとなった。
     なお、この事件に関しては、いつものカードはどこにも見当たらなかった。

    「……その……」
     デルタの葬儀から1週間が経ったが、ヘレンチームの士気は上がらなかった。訪ねてきたディーノも、どう声をかけていいか分からずオロオロしている。
    「……まあ、何だ。茶でも飲んでくか、狐の兄ちゃん」
    「あ、……はい」
     ヘレンは呆然とした様子で机に座っている。その前には、デルタの帽子が置いてある。
    「デルタさん……」
    「……あー、悪いが茶、自分で淹れてくれ」
    「あ、はい」
    「それから、ヘレンちゃんの分もな」
    「分かりました」
     ロメオは自分の頭を撫で付けながら、ヘレンに声をかける。
    「お前さんがここに配属された時からの先輩だったもんなぁ、デルタは」
    「……はい」
    「ちょっと怒りっぽくて適当なとこもあったけども、正義感だけは誰にも負けない奴だったよ」
    「……はい……」
    「……そんなあいつを殺したKCNだけは、許せんよなぁ」
    「……」
     ヘレンは顔を上げた。そこには、いつもの穏やかな顔をしたロメオはいなかった。
    「ロメオさん……」
    「俺の公安人生の中でも指折りの極悪犯だ、こいつは。
     あの殺し方……、殺すんだったら普通に殺しゃいいものを、何だって全身干からびさせるような真似をする? 度が過ぎるぜ……!」
    「……」
    「なあ、ヘレンちゃん。俺の孫も、将来公安職員になりたいって言ってるんだ。
     でもこのまんまKCNを放っておいたら、いざ職員になったって時に、いきなり標的にされるかも分からん。いや、今この時点でも、奴は無差別的に人を殺している。いつ、孫が標的になってもおかしくないんだよ。
     少しでも早く街を平和にするためには、こいつは今、確実に捕まえなきゃならん! そのためにゃ……」
     ロメオはデルタの帽子をつかみ、ヘレンの頭に乗せた。
    「ここでぼーっとしてちゃいつまでも捕まえられんぞ、ヘレン! さ、シャッキリしな!」
    「……はい!」
     ヘレンの声に活力が戻る。それを確認したロメオは、深々とうなずいた。
    「よっしゃ! じゃあまずは、現状の把握からだ」
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