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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    KCN 12

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    番外編。
    ヘレンの、そして公安の逆襲。




    12.
     縛られたままのヘレンに突き飛ばされ、シアンは面食らった。
    「なっ……!?」
    「なーにが『アタシには豊かに暮らす権利がある』や、ドアホ! その、アンタと同じよーな暮らししとった何の罪も無い人間をポンポン殺しといてまあ、よーそんな偉そうなセリフいけしゃあしゃあと言えたもんやなぁ、あぁ!?」
    「ちょ、え、アンタ、言葉遣い、きつ……」
     突然の反撃にシアンはうろたえるが、構わずヘレンはまくし立てる。
    「偉そうなことベラベラベラベラ言うて、結局は『自分が犯罪を犯したんは自分のせいやありませーん』『金持ちうらやましかったんですー』『薬もらって自制が効かなくなっちゃったんですー』『貧乏なせいで盗みや殺人やってしもたんですー』って言いたいだけやろが!?
     どんだけ責任転嫁すれば気が済むねんや、このクズ! 自分のやったことにまったく責任持てんアホが、何を抜かすか!?」
    「……こ、この……っ」
     シアンの目に、ふたたび怒りの炎が灯る。だが、激昂したヘレンの怒声は止まらない。
    「その上『銀行や金火狐には金があるから盗んでもいい』とか『自分には力があるから殺しても裁かれない』とか言うて、自分の悪事を丸ごと正当化しようやなんて、どんだけ恥知らずや、カスがッ!」
    「……このアマッ!」
     散々ヘレンに叱咤され、シアンはついに逆上した。
    「それ以上口を開いたら、殺すぞッ!」
    「おぉ、なんぼでも言うたるわ! お前みたいな奴の力がなんぼのもんや! ハナからまともに生きようとせーへんような根性曲がった奴に、ホイホイそんな仰々しいもんが付いてたまるかいな!
     お前の力なんぞ、ゴミや、ゴミッ!」
    「……ブッ殺す!」
     シアンの口調は作ったような女言葉から、彼本来のものに戻っていた。シアンは側にあったビンを手に取り、ヘレンをにらみつける。どうやら、それを浴びせるつもりらしい。
    「お前の先輩に使ったのと同じ、皮膚と血液を溶かす猛毒だ! さあ、死ねっ……!」
     シアンは声を張り上げ、ビンを振り上げた。

     だが、次の瞬間――ビンは粉々に砕け散った。
    「うあっ……!?」
     ビンの破片と中身が、シアンの右半身全体に降りかかる。
    「……っ、か……、くあっ……!」
     破片がシアンの腕や脚、頬に刺さり、血がダラダラと噴き出している。しかし、「毒には強い」と自分でも言っていた通り、デルタを枯らした薬品自体は効いていないようだ。
    「おーぉ、当たるもんだねぇ。なかなかいいんじゃないの、これ」
    「そっ、そうですかね? やっぱり、体に密着させた方が衝撃も和らぐみたいですね」
     小屋の外から聞き覚えのある声が入って来る。
    「あ……! ロメオさん! ディーノ!」
    「よぉ、狐ちゃん。なかなか色っぽい格好してんじゃないの、はは……」
     小屋の窓からひょいと、金属の棒を握り締めたロメオが入ってきた。
    「い、今、た、たた、助けますからね!」
     ディーノもヨタヨタと入ってくる(ちなみに視線は、胸倉をつかまれていたために多少はだけた、ヘレンの豊かな胸元に向いたままである。そのため窓枠に足を引っ掛けて、頭から落っこちてしまった)。
    「き、貴様らっ……! どうして、ここが……!?」
     シアンは右半身を引いた姿勢で、信じられないと言う表情でロメオたちをにらみつける。ロメオはヘレンの縄を解きながら、経緯を説明した。
    「このディーノくんは、本当に良くやってくれた。前にアンタに逃げられた時、医務室に残ってた、アンタが良く使ってたらしい薬品に反応して発色する薬を作ってくれてたんだ。
     んで、喫茶店でヘレンちゃんがいなくなった時、ディーノくんはそいつを使ってみた。そしたらまあ、見事に足跡がここまで残ってくれた、ってわけだ。あっちこっちの現場で歩き回ったせいで、薬品が靴の裏に染み込んでたんだろうな」
    「く、くそ……っ」
     血をボタボタと流しながら、シアンは入口に向かって走り出した。
    「逃がすな! 総員囲め!」
     ロメオの号令と共に、既に外で待機していた職員たちがなだれ込む。
    「あ……っ」
     小屋の中に続々と職員がなだれ込み、シアンの前に立ちふさがる。
    「さあ観念してもらおうか、『お嬢さん』」
    「……く……」
     シアンは立ち止まり、上を仰ぎ見た。
     のどからひねり出すようなその声と、天を仰ぐようなその仕草を見て、ロメオたちはシアンが観念したのかと思っていた。
    「く……くっ……」
     だが、良く見ればシアンの口元はニヤリと曲がっている。
    「くく……くっ……くくくく……っ」
    「様子がおかしい……。総員、警戒しつつ……」「……アタシと、したコトが」
     取り囲め、と言おうとしたが、シアンの声にさえぎられた。。
    「アタシとしたコトが、あの女狐のせいで、ちょこーっとうろたえちゃったわねーぇ。
     このシアン・チョウ、……いいえ、ドクター・オッドが、こんなところで終わっちゃダメよねぇ。まだ、これからなのに……」
     そう言った瞬間、シアンの頭上からパラパラとほこりが落ち始めた。
    「何をしてる……?」
     ロメオは口に出さず、手で全員を撤退させるよう指示する。それに応じ、職員たちはそろそろと、後ずさりした。
     次の瞬間、シアンの真上にあった梁が鈍い音を立てて軋み、割れる。
    「アタシを、捕まえられるものなら……」
     ドサドサと落ちてくる天井に紛れ、シアンの声が轟いた。
    「捕まえてみなさいよ、ボンクラ共ッ!」



     小屋が崩れる前に、職員たちは何とか全員、無事に脱出できた。そして、半壊した小屋の上に立ち、自分たちを見下ろすシアンの姿を見つめていた。
    「うふふ、ふ……。見てなさいよ、アンタたち! このドクター・オッドの、街中を巻き込んだ大・大・大化学実験ショーを!」
     シアンはそう叫び、姿を消した。

     その姿を見たヘレンたちは一様に、ぞくりと寒気を感じていた。
     血に染まった半身がおぞましかったこと、崩壊していった天井に突っ込んで行ったのに無傷だったこと、恐ろしい犯罪を行うと宣言されたこと。
     そして何より、白く輝く月の光を反射するその二色の瞳が禍々しく照り光っていたことが、職員たち全員の恐怖心を煽っていた。
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    ~ Comment ~

     

    Pastelさん、こんにちは。
    こちらこそ訪問&コメントありがとうございました。
    また機会があれば、コメントなど送りますね、
    (*゚ー゚)ノシ

     

    あらためまして。Pastelです。
    遊びにきていただいてありがとうございました。
    コメントもうれしかったです。
    マタゆっくり遊びにこれたらナって思います。
    これからもよろしくおねがいしますね。
    (☆´ー`)ノ

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