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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    KCN 13

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    番外編。
    最後の追走。




    13.
     ヘレンが助け出されてから1時間後、ゴールドコースト全域に厳戒態勢が敷かれた。シアンの言う「大化学実験」を阻止するため、夜の街は騒然としていた。
     一方で、ヘレンたちは一旦公安局に戻り、シアンの行方を推理していた。
    「どこに行きよったんやろな……?」
    「さあなぁ。……止めなきゃヤバいのは確かだ。だが、手がかりが無い」
     ロメオは事件の資料をまとめた束を、ディーノに投げる。
    「ディーノくん、化学に詳しい君なら、シアンが一体何を使って、何をする気なのか分かるかい?」
    「そう、ですね……」
     ディーノはぺらぺらと資料を眺める。探しやすいように、ロメオが要点を説明した。
    「これまでに襲った場所は、大別して3つ。食品や酒なんかを扱う小さな工場。金を溜め込んでる銀行や商店。そして、鉄工所や精錬所と言った化学薬品のある工場。
     ヘレンちゃんの話からすると、食品工場と銀行なんかは飢えと貧しさのために襲ったそうだ。その欲求は概ね満たされているだろうし、恐らく現状との関係は薄い。重要なのは、何の化学薬品を奪い、溜め込んでいるか、だ」
    「そうですね……」
     ディーノは資料の数点にチェックを入れ、推理してみた。
    「目立ってるのは、この硝酸ナトリウム20キロですね。それから鉱山の方で手に入れた、燐や黒鉛とかの、可燃性の鉱物。
     一方で、やっぱり大量に手に入れやすかったのか、シアン化化合物があっちこっちの工場で盗まれてますね」
    「シアン化化合物っちゅうと、青酸カリ?」
    「あ、いえ。それもなんですがもう一つ、代表的なものがあるんですよ。シアン化ナトリウム、通称青酸ソーダですね。どっちも危険な薬品ですよ。揮発性・水溶性が高く、溶け込んだ空気や水を大量に吸引したら、ほぼ即死です」
    「さっき言ってた硝酸とか燐とかは、火薬に加工できるな。それと、あいつの名前を冠した大量のシアン化化合物、か。
     ディーノくんよ、そのシアン化化合物ってのは、例えば爆弾に詰めて飛散させたりできるもんかい?」
    「うーん……。熱には弱い物質ですから、そのまんま詰めたら爆発した瞬間、蒸発すると思います。でも何かの容器に入れれば、飛ばすことは可能かと」
    「そうか……」
     あれこれと推理するが、どれも「大化学実験」と称すには今ひとつ、ピンと来ない。ヘレンは一旦話の輪から外れ、街の地図を眺めてみた。
     と、街の北東部分、鉱山区のある場所に目が留まった。
    「……今ちょっと、ものすごい嫌な可能性に気が付いたんですけど」
    「何だ?」
    「ゴールドコーストって、飲料水は地下水と、北東の鉱山地域から沸き出てる水を引いてきたのんと、二種類ありますよね」
    「ああ。源泉から何本ものパイプを通って、街中の井戸に流れ込んでる」
    「そのパイプの端で爆弾を破裂させて水を圧し出したら、どうなりますかね?」
    「恐らく圧力がかかって、井戸から水が吹き出してくるんじゃないでしょうか?」
    「その水に、シアン化化合物が溶け込んどったら……?」
    「……!」
     三人の脳裏に、井戸から噴き出した大量の毒水が降り注ぐゴールドコーストと言う、悪夢の情景が浮かんだ。
    「もし、それが起こったら……!」
    「夜中で人通りは少ないとは言え、とんでもない被害が出るぞ!」
     丁度そこに、その仮説を裏付けるかのような報告が飛び込んできた。
    「報告します! 先ほど、シアン医師と思われる人物が、北西の第2鉱山区で目撃されたと言う通報がありました!」
    「第2……。源泉があるとこや」
    「やばいな……。よし、すぐに巡回中の奴を全員、飲料水取水場に向かわせろ!」
     ヘレンたちも武装し、鉱山へと向かった。



     ヘレンの予想通り、シアンは取水場の前にある崖の上に座っていた。傍らにはいくつかの木箱と医療器具が載せられた荷車がある。その木箱の中には――。
    「うふふふ、ふ。……この街での最後の大実験、派手にやらなきゃね」
     大量の青酸系薬品と、爆弾。そして、億に届こうかと言う額のクラム金貨が入れられていた。
    「この街が地獄と化したのを見届けて、アタシはこの街を出る。さぁて、ドコに行こうかしらねーぇ……」
     シアンは己の顔に包帯を巻きつけながら、遠い土地への移住を夢想していた。
     と、遠くの方でズン、と言う重たい音がこだまする。
    「……ああ、引っかかっちゃった★」
     シアンのいる崖下から、黒い煙がもうもうと上がっていた。

    「くそ、罠か……!」
     先に向かっていた職員たちに追いついたヘレンたちは、その惨状に頭を抱えた。
     シアンが取水場までの道のあちこちに爆弾を仕掛けていたらしく、いたるところで黒煙が噴き上がっている。職員たちも数名、血まみれになって倒れているのが確認できた。
    「夜中じゃ、どこに罠がかけられてるのか判別できねえ……。かと言って夜明けを待ってちゃ、毒の雨が降っちまう。……どうするかな」
    「……僕に考えがあります」
     やはり、これまでのように付いてきたディーノが小さく手を挙げた。
    「何だ?」
    「罠が先に爆発してしまえば、通れます。ですから……」
     ディーノはうろうろと歩き回り、思案する。
    「おい、危ないぞ!」
    「大丈夫です。……そうですね、あの、警棒を貸してください」
     ディーノは周りの職員たちに警棒を借り、それを長細くまとめる。
    「こうやって、先に……」
     一本の長い棒になった警棒の束を、ディーノはそっと前に流していく。と、束の先端が何かに引っかかり、続いて爆発が起こった。
    「うひゃっ!?」
    「なるほど、それなら誰も巻き込まれないな。……よし、時間ももうあまり無い! みんな、ディーノくんを手伝ってくれ!」
     他の職員たちも同じように警棒を束ね、道のあちこちを突いて罠を解除していった。
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