「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
KCN 14
番外編。
シアンの「最期」。
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シアンの「最期」。
14.
眼下で起こる罠の爆発に、シアンは最初ほくそ笑んでいた。
「うふふふ……、アイツら、バカじゃないのぉ? よくもまあ、全部引っかかるわねーぇ」
だが、途中から様子がおかしいことに気付く。妙に、立て続けに爆発が起こっているのだ。
「……いくらなんでも、爆発しすぎじゃない? よくあんなペースで進んでいけるわね?」
暗い夜道に仕掛けたせいで、シアンは職員たちが安全に進んでいることに気付かなかった。しかし、あまりにも罠が発動するペースが早い。どう考えても、負傷しているであろう職員たちが進める早さではない。
「嫌な予感がするわね……。傷が痛くて休憩してたけど、そろそろ取り掛かった方がいいわね」
シアンは崖から立ち上がり、側にある青酸化合物が入った箱を抱えようとした。
「そこまでやッ、シアン・チョウ!」
「……!」
気が付いた時には、職員たちが崖のすぐ下にまで近付いていた。
「……少しばかり、気を長くしすぎたみたいねーぇ」
「もういい加減観念せえや、シアン!」
へレンは警棒を構え、一歩前に出る。
「……観念? 観念ですって? このアタシが?」
だが、大勢の職員がじりじりと詰め寄ってきてもなお、シアンの顔に焦りの色は浮かばない。
「冗談言わないで、うふふふ……。何でアタシが、アンタら格下共に対して観念しなきゃいけないのぉ?」
シアンは抱えていた箱を開け、中に詰められていたビンを取り出す。
「このビンの中の、ほんの一つまみでも口に入れたら死ぬような奴が、アタシに指図なんて」
「いつまで優越感に浸っとる気や?」
笑うシアンに、ヘレンが鋭く声を投げかけた。
「……あ?」
「毒が効かへんとか、何で一々私らに言うん? 一回言えば分かるっちゅうねん。そんなにその体質を自慢したいんか? ……ちっちゃいなぁ、自分」
ヘレンにけなされ、シアンの目がピク、と震える。
「身長だけやなくて、気も器もちっちゃいわ。そんなやから貧しいのんを人のせいにしたり、犯罪に手を染めたり、挙句の果てにはそれを正当化しようとしたりするねんな。
……情けないと思わへんの、自分で?」
「……うるさい」
シアンの顔が歪む。そこに、ロメオの叱咤も入る。
「ヘレンちゃんの言う通りだ。アンタにもっと良識と向上心があれば、こんな下衆な犯罪を起こしたりはしなかっただろうに。
アンタのその体質と知識をちゃんと活かせば優秀で裕福な医者になれたものを、こんなくだらんことばかりして、その機会を全部逃しちまってるんだぞ? 誰の目から見ても情けない奴だよ、アンタは」
「……うるさいと、言ってるでしょ」
シアンのビンを持つ手が次第に震えていく。
「アンタらの御託なんてどうでもいいのよ! アタシは、やりたいようにやってやる!」
シアンはビンの蓋を開け、取水場の湧水の中に放り込もうとした。
「させるかッ!」
飛んでいくビンに向かって、ロメオが警棒を投げた。警棒は見事に命中し、ビンを粉々に砕いて崖の下に落とした。
「チッ……! でも、まだまだあるのよ!」
シアンは新たなビンを取り出そうと身を屈めた。が――。
「……うぐっ!?」
シアンが膝を抱え、うずくまる。
「……あ、当たった」
ロメオの後ろにいたディーノが、ブルブルと震える手で金属の棒を握りしめていた。ヘレンを救った時にロメオが使った、あの武器である。
「……なに、これ?」
シアンが涙声で、小さくつぶやいた。
「こんな、ことばかり……。どうしてアタシ、こんな目に遭うのよ……!?」
シアンは膝から血をダラダラと流しながら、ヨタヨタと荷車に乗り込む。
「まだ、何か……!?」
ヘレンたちは警戒し、警棒を構え直した。しかし――。
「もういい。もう十分。……もう、嫌。……さよなら」
ゴト、と音を立てて荷車が動く。荷車はシアンを載せたまま、崖から落ちていった。
「あ……っ」
そして一瞬間を置いて、爆発音が轟いた。どうやら水を圧し出すために用意していた爆薬を作動させ、自爆したらしい。
こうして、ゴールドコースト最悪の事件の一つと言われたKCN事件は、犯人シアンの自爆で幕を閉じた。
眼下で起こる罠の爆発に、シアンは最初ほくそ笑んでいた。
「うふふふ……、アイツら、バカじゃないのぉ? よくもまあ、全部引っかかるわねーぇ」
だが、途中から様子がおかしいことに気付く。妙に、立て続けに爆発が起こっているのだ。
「……いくらなんでも、爆発しすぎじゃない? よくあんなペースで進んでいけるわね?」
暗い夜道に仕掛けたせいで、シアンは職員たちが安全に進んでいることに気付かなかった。しかし、あまりにも罠が発動するペースが早い。どう考えても、負傷しているであろう職員たちが進める早さではない。
「嫌な予感がするわね……。傷が痛くて休憩してたけど、そろそろ取り掛かった方がいいわね」
シアンは崖から立ち上がり、側にある青酸化合物が入った箱を抱えようとした。
「そこまでやッ、シアン・チョウ!」
「……!」
気が付いた時には、職員たちが崖のすぐ下にまで近付いていた。
「……少しばかり、気を長くしすぎたみたいねーぇ」
「もういい加減観念せえや、シアン!」
へレンは警棒を構え、一歩前に出る。
「……観念? 観念ですって? このアタシが?」
だが、大勢の職員がじりじりと詰め寄ってきてもなお、シアンの顔に焦りの色は浮かばない。
「冗談言わないで、うふふふ……。何でアタシが、アンタら格下共に対して観念しなきゃいけないのぉ?」
シアンは抱えていた箱を開け、中に詰められていたビンを取り出す。
「このビンの中の、ほんの一つまみでも口に入れたら死ぬような奴が、アタシに指図なんて」
「いつまで優越感に浸っとる気や?」
笑うシアンに、ヘレンが鋭く声を投げかけた。
「……あ?」
「毒が効かへんとか、何で一々私らに言うん? 一回言えば分かるっちゅうねん。そんなにその体質を自慢したいんか? ……ちっちゃいなぁ、自分」
ヘレンにけなされ、シアンの目がピク、と震える。
「身長だけやなくて、気も器もちっちゃいわ。そんなやから貧しいのんを人のせいにしたり、犯罪に手を染めたり、挙句の果てにはそれを正当化しようとしたりするねんな。
……情けないと思わへんの、自分で?」
「……うるさい」
シアンの顔が歪む。そこに、ロメオの叱咤も入る。
「ヘレンちゃんの言う通りだ。アンタにもっと良識と向上心があれば、こんな下衆な犯罪を起こしたりはしなかっただろうに。
アンタのその体質と知識をちゃんと活かせば優秀で裕福な医者になれたものを、こんなくだらんことばかりして、その機会を全部逃しちまってるんだぞ? 誰の目から見ても情けない奴だよ、アンタは」
「……うるさいと、言ってるでしょ」
シアンのビンを持つ手が次第に震えていく。
「アンタらの御託なんてどうでもいいのよ! アタシは、やりたいようにやってやる!」
シアンはビンの蓋を開け、取水場の湧水の中に放り込もうとした。
「させるかッ!」
飛んでいくビンに向かって、ロメオが警棒を投げた。警棒は見事に命中し、ビンを粉々に砕いて崖の下に落とした。
「チッ……! でも、まだまだあるのよ!」
シアンは新たなビンを取り出そうと身を屈めた。が――。
「……うぐっ!?」
シアンが膝を抱え、うずくまる。
「……あ、当たった」
ロメオの後ろにいたディーノが、ブルブルと震える手で金属の棒を握りしめていた。ヘレンを救った時にロメオが使った、あの武器である。
「……なに、これ?」
シアンが涙声で、小さくつぶやいた。
「こんな、ことばかり……。どうしてアタシ、こんな目に遭うのよ……!?」
シアンは膝から血をダラダラと流しながら、ヨタヨタと荷車に乗り込む。
「まだ、何か……!?」
ヘレンたちは警戒し、警棒を構え直した。しかし――。
「もういい。もう十分。……もう、嫌。……さよなら」
ゴト、と音を立てて荷車が動く。荷車はシアンを載せたまま、崖から落ちていった。
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そして一瞬間を置いて、爆発音が轟いた。どうやら水を圧し出すために用意していた爆薬を作動させ、自爆したらしい。
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