黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・旅賢録 1

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    晴奈の話、293話目。
    いわゆるウノ。

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    1.
     ゴールドコーストを発って、3日が過ぎた。
     晴奈一行はまだ、船の上にいる。



     やることも無いので、公安組は小鈴、シリンと一緒に、船の食堂で漫然とカードゲームに興じている。
    「火の6」エランが一枚切る。
    「それじゃ、雷の6」ジュリアがそれに続く。
    「うーん……、パス」バートが流す。
    「あ、あたし出せる。雷の3」小鈴がつなぐ。
    「パス」フェリオもパスする。
    「雷ならあるわ。雷の9」シリンもすんなり通す。
    「おっ、9だ。良かった、氷の9」エランがほっとした表情でカードを切った。
    「氷ならあるわね。氷の1」ジュリアもカードをすっと切る。カードを4枚持っていたバートが硬直した。
    「……パスだ」
     シリンが嬉しそうな顔で、バートに声をかけた。
    「3回パスしたから負けやな」
    「くっそー……」
     バートがカードをばら撒き、椅子にもたれかかった。
    「コレでバートの6連敗やな。ホンマ、バートは勝負弱いなぁ」
    「……ほっとけ」
     からかうシリンに、バートは帽子で顔を隠しながら悔しそうな素振りを見せた。
    「気分転換に、飲み物でも持ってきましょうか」
     エランの提案に、全員がうなずく。
    「そうだな、ちょうどのどが渇いてるところだった。コーヒー頼む」
    「じゃ、頼むわ。何でもいいし」
    「私も紅茶お願いね、エラン君」
    「ほんじゃエラン、ウチと一緒に行こかー」
     シリンがエランの手を引き、ドリンクバーへと連れて行った。
     エランが財団総帥、ヘレンの息子だと発覚してからも、エランに対する扱いは変わらなかった。ヘレンが「あんまり甘やかさんといてくださいね」と念押ししたからである。
    「ボスは紅茶、バート先輩はコーヒー、フェリオ先輩は何でもいいって言ってたから、オレンジジュースでも持っていこうかな」
    「コスズさんはレモネードやったな。ほんじゃ、ウチもオレンジジュースにしとこかな。エランは何飲むのん?」
    「あ、僕は、えーと、……うーん、何にしようかなぁ? アップルジュースもいいしなぁ、でも紅茶もすっきりするし、うーん、どっちがいいかなぁ」
    「両方混ぜて、アップルティーにしたらええやん」
     シリンの提案に、エランは「あー」と声を上げる。
    「それいいですね、そうします」
     二人は盆を借りて、飲み物を皆のところに運んだ。
    「お、ありがとよエラン、シリン」
     フェリオが礼を言いつつ、飲み物を皆に回す。礼を言われたシリンは嬉しそうに尻尾を振りつつ、フェリオの首に手を回した。
    「んふふー、どーいたしましてー」
    「モテモテだなぁ、フェリオ」
    「あ、いや、いえ……」
     フェリオは顔を真っ赤にして首を振ろうとするが、シリンがそれを邪魔する。
    「そやでー、ウチにモッテモテやねんでー」
    「……あはは、はは」
     フェリオは半分諦めたような顔で、されるがままになっている。フェリオの頭を抱きしめたままのシリンが、思い出したように尋ねた。
    「そー言えば、バートとジュリアって付き合ってるって聞いたんやけど」
     顔を赤くし、口ごもるバートに対し、ジュリアはさらりと答えた。
    「お、おう。まあ、な」
    「ええ、初めて会った時からすれば、もう長い付き合いね」
    「へー。結婚とかはせえへんの?」
    「いや、まあ、そりゃ……」
     照れているバートとはとことん対照的に、ジュリアは平然とした顔をしている。
    「そうね、バートの階級が私に追いついたら、その時はしようかなって思ってるわ。
     後1階級だし、頑張ってね」
    「……おう」
     バートはまた椅子にもたれながら、帽子で顔を隠した。

     晴奈と楢崎、そしてフォルナの3人はゲームに参加せず、ぼんやりと海を見ていた。
    「今、どの辺りなんだろうね」
    「恐らく今日か明日、フラワーボックスに寄港するところですわね」
     楢崎はフォルナの横顔をチラ、と見てつぶやく。
    「そうか。それじゃもう、グラーナ王国の海域に入ってるんだね」
    「ええ、順当に進めば4日後にはルーバスポート、そしてさらに10日進めばウエストポートに着く、とのことですわ」
    「ふむ。……考えてみれば、すぐなんだね」
    「え?」
     楢崎はフォルナの顔を見て、諭すような口調で話す。
    「故郷に帰ろうと思ったら、すぐ帰れる手段があるし、帰れない事情も無い。正直言って、すごくうらやましいと思う。僕の家は遠いし、まだ帰れないんだもの」
    「……ナラサキさん、すみませんが嫌味にしか聞こえませんわ。わたくし、ちゃんと思うところがあって『ここ』におりますのよ」
    「はは……、それは悪かった、うん」
     楢崎は笑っているが、割と気分を害したらしい。それ以上は何も言わず、すっとフォルナの側を離れた。フォルナの方も同様に、楢崎にぷいと背を向けてしまった。
    (おいおい)
     二人の様子を見ていた晴奈は、どちらと話をしようかと逡巡していた。
     と、そこへ――。
    「あーらら、ケンカだねぇ」
    「む?」
     突然、背後から声をかけられた。振り向くと、ボロボロのローブに身を包み、ヨレヨレのとんがり帽子を被った、いかにも魔術師と言う風体の狐獣人が立っている。
    「誰だ、お主?」
    「え、なんで名乗んなきゃいけないね?」
     おどけた様子で振舞うその男に、晴奈は多少カチンと来た。
    「……名乗る道理は無い。が、いきなり割り込まれて面食らったものでな」
    「あーあー、悪い悪い。いやね、ケンカは横でワイワイ言いながら眺めるのがベスト、ってのが私の主義なもんでね」
    「それはまた、浅ましい主義だな」
    「何とでも言いなってね。……で、あの二人はアンタの知り合い?」
    「そうだ。……ん?」
     晴奈はこの男の声に、聞き覚えがあった。
     妙に高い、少年のような声――昔、まだ紅蓮塞にいた頃に聞いた覚えのある声だ。
    (……いや、正確には紅蓮塞の外だ。一度、無断で抜け出して黒荘を訪れた際、こんな声を聞いた。
     そう言えば家元から聞いたことがある。あの方はよく、姿形を変えていると。私が出会った時は長耳姿だったが、家元の時は『狐』だったそうだし、もしかしたら……)
    「……モール殿か?」
    「ほぇ?」
     男は目を丸くして尋ね返す。
    「何で知ってるね?」
    「やはりか……」
     晴奈はモールから一歩離れる。
     そして――。
    「ここで遭ったが百年目――あの時の雪辱、晴らさせてもらうぞッ!」「はぁ!?」
     晴奈はいきなり、モールに斬りかかった。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2週間ぶりの蒼天剣です。
    大変お待たせしましたw

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    2017.04.26 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    実は6部の終盤、雪乃が出てきます。
    他にも懐かしい顔ぶれが出てきますので、お楽しみに。

    ゲームをはじめ、ギャンブル的なものは、時代と場所を問わず発生する、と考えているので。
    「火紅狐」なんか、ゲームだらけですよw

    NoTitle 

    ついに6部!!
    ・・・・ここまで読むと、随分とユキノが昔のキャラクターっぽい感じになってきますね。私は現在進行形で書いていますけどね。
    カードゲームがあるのですね。・・・ってどこの国でもありますものね。
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