「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・旅賢録 2
晴奈の話、第294話。
モールの秘術。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「いきなり、何をするかと思えば」
モールの杖が晴奈の刀を止めている。いや、正確に言えば杖と刀の間に、紙一枚分ほどの隙間があった。
「寸止めだ。……いやなに、あの時に何をされたのか、答えを聞きたいと思ってな」
「あの時って?」
モールはきょとんとしている。その顔を見た晴奈は、憮然としながら聞き返す。
「覚えてないのか?」
「だから、何だってね」
「6年前、黒荘で遭っただろう?」
「黒荘? ……んー?」
モールは杖をこすりながら考え込む。
「……んー、もしかしてあの時のバカ?」
「馬鹿とは失敬な。……まあ、今思い返せば確かに愚行だった」
「今のコレだって愚行だね。いきなり斬りつけるヤツがあるかってね」
「大変失敬した。が、あの時と同じことをすれば、あの時何をしたのか再現してくれるのではと期待したので」
モールは「あー……」と声を上げ、晴奈に説明し始めた。
「まあ、簡単に言えば、私のオリジナル魔術だね。門外不出の秘術でね、『ウロボロスポール』って言うね。例えば……」
モールは晴奈が持っていた脇差をひょいと抜き、いきなり海に捨てた。
「なっ、何をするか!?」
「ま、見てなってね」
モールは海に向かって杖を向け、呪文を唱えた。
「『ウロボロスポール:リバース』!」
すると、海に捨てたはずの脇差がするすると海から戻り、音も無く晴奈の腰元に納まっていった。
「……!?」
「コレが、君が吹っ飛ばされた術の正体だね。
下に落ちたはずのボールが上に登る。砕けたはずのガラス瓶が元通りに固まる。燃えたはずの本が灰から蘇る――あらゆる法則を逆回転させる、秘中の秘。私の『とっておき』だね。
この術は他にもバリエーションがあってね、今説明した『リバース』に、モーメント(力の発生源)とベクトル(力の向かう方向)の位置を入れ替える『スイング』――あの時はコレを使ってたね――そして術の属性を反転させる『スイッチ』と、色々あるね」
「ほ、う……」
説明されたものの、晴奈には何がなんだか分からない。
「ま、魔術知識と物理知識が無きゃ何言ってるか分かんないと思うし、単純に落ちたモノが戻ってくる術だって思ってもらえばいいね」
モールはそこで一旦、言葉を切った。
「……ふーん」
モールは晴奈の体をじろじろと見回している。
「な、何だ?」
「随分変わったもんだね」
「え?」
モールは近くの椅子に腰掛け、組んだ足に肘を置いて斜に構える。
「何て言うかねー……、昔会った時は、まるで砂上の楼閣だった。技術や力ばっかりが先行してて、土台の精神や感情面がグッズグズだったんだよねぇ。何か一発ぶちのめしたら、そのまんま崩れていきそうなヤツって印象だった」
「……!」
モールの言葉で、以前夢の中で出会った金狐に言われた言葉が蘇る。
――セイナの精神っちゅう土壌は成功ばかりしてしもて栄養多すぎ、グズグズに腐りそうになっとった。その上にある自信なんてもん、すぐダメになって当然や――
モールが今言った言葉と金狐の言葉は、驚くほど似通っていた。
(やはり、見識ある者は的確に見ているのだな)
「でも今は」
モールが話を続ける。
「肥沃な大地に悠然と建つ、大豪邸の雰囲気をかもし出してるね。技術や力量と言った建物はますます成長し、精神と言う土壌も豊かになっている。正直、こんな家があったら住みたいもんだね。
……んー?」
モールはそう言って、晴奈の体をじっとにらむ。
「……き、気味の悪いことを!」
「あーあー、悪い悪い。いやね、ちょこっと気になるモノが見えたもんでね」
「気になる、モノ?」
晴奈は自分の服や刀、尻尾を眺めてみたが、特に変なものは見当たらない。
「実物じゃない。オーラってヤツだね。何て言うか、んー、昔、私が取った弟子にちょっと似てる」
「弟子?」
モールはとんがり帽子のつばを下げ、淡々と昔話を始めた。
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モールの秘術。
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2.
「いきなり、何をするかと思えば」
モールの杖が晴奈の刀を止めている。いや、正確に言えば杖と刀の間に、紙一枚分ほどの隙間があった。
「寸止めだ。……いやなに、あの時に何をされたのか、答えを聞きたいと思ってな」
「あの時って?」
モールはきょとんとしている。その顔を見た晴奈は、憮然としながら聞き返す。
「覚えてないのか?」
「だから、何だってね」
「6年前、黒荘で遭っただろう?」
「黒荘? ……んー?」
モールは杖をこすりながら考え込む。
「……んー、もしかしてあの時のバカ?」
「馬鹿とは失敬な。……まあ、今思い返せば確かに愚行だった」
「今のコレだって愚行だね。いきなり斬りつけるヤツがあるかってね」
「大変失敬した。が、あの時と同じことをすれば、あの時何をしたのか再現してくれるのではと期待したので」
モールは「あー……」と声を上げ、晴奈に説明し始めた。
「まあ、簡単に言えば、私のオリジナル魔術だね。門外不出の秘術でね、『ウロボロスポール』って言うね。例えば……」
モールは晴奈が持っていた脇差をひょいと抜き、いきなり海に捨てた。
「なっ、何をするか!?」
「ま、見てなってね」
モールは海に向かって杖を向け、呪文を唱えた。
「『ウロボロスポール:リバース』!」
すると、海に捨てたはずの脇差がするすると海から戻り、音も無く晴奈の腰元に納まっていった。
「……!?」
「コレが、君が吹っ飛ばされた術の正体だね。
下に落ちたはずのボールが上に登る。砕けたはずのガラス瓶が元通りに固まる。燃えたはずの本が灰から蘇る――あらゆる法則を逆回転させる、秘中の秘。私の『とっておき』だね。
この術は他にもバリエーションがあってね、今説明した『リバース』に、モーメント(力の発生源)とベクトル(力の向かう方向)の位置を入れ替える『スイング』――あの時はコレを使ってたね――そして術の属性を反転させる『スイッチ』と、色々あるね」
「ほ、う……」
説明されたものの、晴奈には何がなんだか分からない。
「ま、魔術知識と物理知識が無きゃ何言ってるか分かんないと思うし、単純に落ちたモノが戻ってくる術だって思ってもらえばいいね」
モールはそこで一旦、言葉を切った。
「……ふーん」
モールは晴奈の体をじろじろと見回している。
「な、何だ?」
「随分変わったもんだね」
「え?」
モールは近くの椅子に腰掛け、組んだ足に肘を置いて斜に構える。
「何て言うかねー……、昔会った時は、まるで砂上の楼閣だった。技術や力ばっかりが先行してて、土台の精神や感情面がグッズグズだったんだよねぇ。何か一発ぶちのめしたら、そのまんま崩れていきそうなヤツって印象だった」
「……!」
モールの言葉で、以前夢の中で出会った金狐に言われた言葉が蘇る。
――セイナの精神っちゅう土壌は成功ばかりしてしもて栄養多すぎ、グズグズに腐りそうになっとった。その上にある自信なんてもん、すぐダメになって当然や――
モールが今言った言葉と金狐の言葉は、驚くほど似通っていた。
(やはり、見識ある者は的確に見ているのだな)
「でも今は」
モールが話を続ける。
「肥沃な大地に悠然と建つ、大豪邸の雰囲気をかもし出してるね。技術や力量と言った建物はますます成長し、精神と言う土壌も豊かになっている。正直、こんな家があったら住みたいもんだね。
……んー?」
モールはそう言って、晴奈の体をじっとにらむ。
「……き、気味の悪いことを!」
「あーあー、悪い悪い。いやね、ちょこっと気になるモノが見えたもんでね」
「気になる、モノ?」
晴奈は自分の服や刀、尻尾を眺めてみたが、特に変なものは見当たらない。
「実物じゃない。オーラってヤツだね。何て言うか、んー、昔、私が取った弟子にちょっと似てる」
「弟子?」
モールはとんがり帽子のつばを下げ、淡々と昔話を始めた。
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今日の旅岡さん

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NoTitle
3回パスしたら負けっていうウノのローカルルールは初めて聞きました。そもそもパスがないゲームだと思うので(^^)
作中でこしらえた黄輪さんのオリジナルルールですか?
作中でこしらえた黄輪さんのオリジナルルールですか?
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NoTitle
ただ、よく考えてみると「火紅狐」で同じゲームをやった時、このルールは適用してませんでした。
これを覚えていれば、もうちょっと話に面白味が出たであろうものを……っ(´・ω・)