「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・旅賢録 3
晴奈の話、第295話。
神話師弟。
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3.
モールは杖をさすりながら、ゆっくりと話をする。その仕草はまるで老人のようだった。
「よくよく考えてみりゃ、あれはもう500年も前になるんだねぇ。
央中にカレイドマインって街があったんだけど、そこに『狐』の女の子が住んでたんだよね。その子に、私はあるものを感じた。それは一体、何だと思うね?」
「何、と言われても……? 見当もつかぬ」
晴奈もモールの隣に座り、話に相槌を打つ。
「一言で言えば『英気』、そんな感じのオーラ。おかしいよね、その子はまだこんなちっちゃな子供だったんだから。当時から既に長生きしてた私がちょっと驚くくらい、きらめくオーラを放っていたね。
その子の名前はエリザ。初めて会った時はまだ、ドコにでもいるような女の子だった。私はその子のオーラを見た時、ちょっとからかってやりたくなったんだよね。当時、ほとんどの人が知らなかった、その存在を想像すらしてなかった魔術を、ちょこっとだけ教えてやったんだ。
そしたら驚きだよ。その子はあっと言う間に、私の教えた魔術を完璧に理解・習得してしまった。さらには、自分であれこれ研究を重ねて――」
モールは帽子を上げ、ニヤッと笑った。
「現在の魔術理論の基礎を半分以上、その子が築き上げちゃったね。現在中央大陸で使われてる魔術は、央北天帝教が広めた『タイムズ型』と、その子が洗練させた『ゴールドマン型』に二分されてる。まあ、素人にゃ一緒に見えるんだけどね」
晴奈はその女の子が誰を指しているのか、ようやく気付いた。
「エリザ……、ゴールドマン?」
「そ、『金火狐』のエリザ。現在知らぬ者は無い、伝説の女傑さ。私と会ったコトがきっかけになって、その子は歴史に名を残す大人物となった。
君には、ソレと似た何かを感じる。英雄の瑞気が、ほのかに見え隠れしているね。何か最近、君の中の何かが目覚めるきっかけがあったんじゃないかと思うんだけど……」
モールにそう問われ、晴奈には思い当たる節があった。
(きっかけ、か。
教団との戦争、黒炎殿との契約、日上に剣を奪われたこと、あの悪魔じみたアランとの戦い、闘技場での連戦、ロウの死――衝撃的な出来事は、色々とあった。
私の心が一変したのは確かだろう)
「やっぱり、何かあったね? 良かったらさ、ちょこっと話してみてよ」
晴奈はモールの態度を、意外に思った。
「私のことを? 先程まで随分、気の無い素振りだったのに、どう言う風の吹き回しだ?」
「いやぁ……、前の君は取るに足らないヤツだったけど、今の君はなかなか興味深いもの。名前もちゃんと、覚えさせてもらったね。
悪かったね、晴奈」
晴奈から一通り聞き終えたモールは、また帽子のつばを下げた。
「そうかー……、アルのヤツと戦って無事だとはねぇ」
「アル?」
「アランのコトだね。いいコト教えてあげようか?」
「む?」
モールは目を隠したまま、晴奈に伝えた。
「アランってのはね、正真正銘の悪魔なんだ。克も『悪魔』だなんて言われてるけど、アランも悪魔だね。
体を鋼で固め、さらにその姿をフードとマントで覆い隠している。私や克なんかと同じように、何百年も生きていて、その上性質が悪いコトに……」
モールはまた帽子を上げる。その目はイタズラっぽく光っていた。
「復活するのさ。何度殺しても、ね」
「なんと」
「二天戦争の頃から、何度も何度も名前を変えて政治・戦争に干渉している。克と戦ったことも数え切れないほどだ。私は運良く、敵として出会わずに済んでるけどね」
「ふむ」
「『鉄の悪魔』アル。今度歴史の本を読むコトがあったら、名前に『Arr』が付く人物を見てみな。ソレっぽいコト、やってるのが分かるからね」
晴奈はその名前を心に刻み込みつつ、別の質問をぶつけてみた。
「先程から黒炎殿のことをご存知であるような口ぶりだが、モール殿は会ったことが?」
それを尋ねた瞬間、モールは非常に嫌そうな顔をした。
「黒炎殿って、克のコト? そりゃ、あるけどもね。あんまりアレコレ言いたかないねぇ。何て言うかアイツ、私とそりが合わないんだもん。思い出すと腹立つコトもあるしね」
「……それは失敬した」
先程は老人のように見えたモールが、今度はすねた子供のように見える。
(本当に何と言うか、この人はころころと、人の変わる……)
晴奈は内心、苦笑していた。
二人で話しているところに、楢崎とフォルナがやって来ていた。
「話を拝聴させていただきましたけれど、あなたは本当に『旅の賢者』モール・リッチなのですか?」
「ん、そうだよ」
モールはフォルナの顔を見上げ、大儀そうに手を挙げた。
「……何と言うか、不思議なお召し物ですわね」
「単刀直入にボロいって言っていいよ、別にね」
モールは口角を上げてニヤニヤしている。と、楢崎が思いつめたような顔で口を開く。
「モール殿。その、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「んー?」
「モール殿は非常に博識で、魔術に見識の深い方と伺っています。焔流剣術を、ご存知でしょうか?」
「ああ、知ってるね。あの『燃える刀』を使うとか言う、欠陥剣術」
「欠陥……ッ!?」
その言葉に晴奈はカチンと来たが、反対に楢崎は驚いた顔をしていた。
「あー悪い悪い、言い方が……」「い、いえ!」
謝りかけたモールを遮りつつ、楢崎は顔をブンブンと振り、しゃがみ込む。
「ある者からも、焔流には重大な弱点があると言われたのです! どうか、それを教えていただけませんか!?」
「……ふーん。まあ、それじゃ正直に言うけどさ。怒んないで聞いてよね」
モールは座り直し、その「弱点」を語り始めた。
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モールは杖をさすりながら、ゆっくりと話をする。その仕草はまるで老人のようだった。
「よくよく考えてみりゃ、あれはもう500年も前になるんだねぇ。
央中にカレイドマインって街があったんだけど、そこに『狐』の女の子が住んでたんだよね。その子に、私はあるものを感じた。それは一体、何だと思うね?」
「何、と言われても……? 見当もつかぬ」
晴奈もモールの隣に座り、話に相槌を打つ。
「一言で言えば『英気』、そんな感じのオーラ。おかしいよね、その子はまだこんなちっちゃな子供だったんだから。当時から既に長生きしてた私がちょっと驚くくらい、きらめくオーラを放っていたね。
その子の名前はエリザ。初めて会った時はまだ、ドコにでもいるような女の子だった。私はその子のオーラを見た時、ちょっとからかってやりたくなったんだよね。当時、ほとんどの人が知らなかった、その存在を想像すらしてなかった魔術を、ちょこっとだけ教えてやったんだ。
そしたら驚きだよ。その子はあっと言う間に、私の教えた魔術を完璧に理解・習得してしまった。さらには、自分であれこれ研究を重ねて――」
モールは帽子を上げ、ニヤッと笑った。
「現在の魔術理論の基礎を半分以上、その子が築き上げちゃったね。現在中央大陸で使われてる魔術は、央北天帝教が広めた『タイムズ型』と、その子が洗練させた『ゴールドマン型』に二分されてる。まあ、素人にゃ一緒に見えるんだけどね」
晴奈はその女の子が誰を指しているのか、ようやく気付いた。
「エリザ……、ゴールドマン?」
「そ、『金火狐』のエリザ。現在知らぬ者は無い、伝説の女傑さ。私と会ったコトがきっかけになって、その子は歴史に名を残す大人物となった。
君には、ソレと似た何かを感じる。英雄の瑞気が、ほのかに見え隠れしているね。何か最近、君の中の何かが目覚めるきっかけがあったんじゃないかと思うんだけど……」
モールにそう問われ、晴奈には思い当たる節があった。
(きっかけ、か。
教団との戦争、黒炎殿との契約、日上に剣を奪われたこと、あの悪魔じみたアランとの戦い、闘技場での連戦、ロウの死――衝撃的な出来事は、色々とあった。
私の心が一変したのは確かだろう)
「やっぱり、何かあったね? 良かったらさ、ちょこっと話してみてよ」
晴奈はモールの態度を、意外に思った。
「私のことを? 先程まで随分、気の無い素振りだったのに、どう言う風の吹き回しだ?」
「いやぁ……、前の君は取るに足らないヤツだったけど、今の君はなかなか興味深いもの。名前もちゃんと、覚えさせてもらったね。
悪かったね、晴奈」
晴奈から一通り聞き終えたモールは、また帽子のつばを下げた。
「そうかー……、アルのヤツと戦って無事だとはねぇ」
「アル?」
「アランのコトだね。いいコト教えてあげようか?」
「む?」
モールは目を隠したまま、晴奈に伝えた。
「アランってのはね、正真正銘の悪魔なんだ。克も『悪魔』だなんて言われてるけど、アランも悪魔だね。
体を鋼で固め、さらにその姿をフードとマントで覆い隠している。私や克なんかと同じように、何百年も生きていて、その上性質が悪いコトに……」
モールはまた帽子を上げる。その目はイタズラっぽく光っていた。
「復活するのさ。何度殺しても、ね」
「なんと」
「二天戦争の頃から、何度も何度も名前を変えて政治・戦争に干渉している。克と戦ったことも数え切れないほどだ。私は運良く、敵として出会わずに済んでるけどね」
「ふむ」
「『鉄の悪魔』アル。今度歴史の本を読むコトがあったら、名前に『Arr』が付く人物を見てみな。ソレっぽいコト、やってるのが分かるからね」
晴奈はその名前を心に刻み込みつつ、別の質問をぶつけてみた。
「先程から黒炎殿のことをご存知であるような口ぶりだが、モール殿は会ったことが?」
それを尋ねた瞬間、モールは非常に嫌そうな顔をした。
「黒炎殿って、克のコト? そりゃ、あるけどもね。あんまりアレコレ言いたかないねぇ。何て言うかアイツ、私とそりが合わないんだもん。思い出すと腹立つコトもあるしね」
「……それは失敬した」
先程は老人のように見えたモールが、今度はすねた子供のように見える。
(本当に何と言うか、この人はころころと、人の変わる……)
晴奈は内心、苦笑していた。
二人で話しているところに、楢崎とフォルナがやって来ていた。
「話を拝聴させていただきましたけれど、あなたは本当に『旅の賢者』モール・リッチなのですか?」
「ん、そうだよ」
モールはフォルナの顔を見上げ、大儀そうに手を挙げた。
「……何と言うか、不思議なお召し物ですわね」
「単刀直入にボロいって言っていいよ、別にね」
モールは口角を上げてニヤニヤしている。と、楢崎が思いつめたような顔で口を開く。
「モール殿。その、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「んー?」
「モール殿は非常に博識で、魔術に見識の深い方と伺っています。焔流剣術を、ご存知でしょうか?」
「ああ、知ってるね。あの『燃える刀』を使うとか言う、欠陥剣術」
「欠陥……ッ!?」
その言葉に晴奈はカチンと来たが、反対に楢崎は驚いた顔をしていた。
「あー悪い悪い、言い方が……」「い、いえ!」
謝りかけたモールを遮りつつ、楢崎は顔をブンブンと振り、しゃがみ込む。
「ある者からも、焔流には重大な弱点があると言われたのです! どうか、それを教えていただけませんか!?」
「……ふーん。まあ、それじゃ正直に言うけどさ。怒んないで聞いてよね」
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