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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・出立録 2

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    晴奈の話、第299話。
    混沌とする大組織。

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    2.
     喫茶店で茶を飲みつつ、エランの政治解説が始まった。
    「まあ、ともかく『中央政府』がどんな組織なのか、って言うところから話しますね。
     もともとは天帝教の神様、タイムズ帝が中央大陸、ひいては世界全体の平定のために築き上げた組織で、かつては本当に、世界全体を支配していたと言われています。まあ、半分神話みたいな話なんですけどね。
     ちなみに『タイムズ』って言う名前は現在の暦、双月暦を制定したことから、『時間(タイム)を作った偉大な者』ってことで、周りからそう呼ばれたらしいです。こう言うのも神話がかってますけど」
     話が一々逸れるので、横に座っていたフォルナが度々エランの右腕を小突く。
    「エラン、本題を話してちょうだい」
    「あ、すみません。ついつい……。
     まあ、天帝一族が300年以上率いてきた『旧』中央政府はやがて政治腐敗にまみれ、暴政が敷かれるようになりました。そこで起こったのが黒白戦争――中央政府の大臣だったファスタ卿を筆頭として反乱軍が結成され、中央政府との長い戦いを続けた末に、反乱軍側が勝利。中央政府の政治体制は一新され、天帝一族の手から離れることになりました。
     しかし中央政府はファスタ卿の手に渡ることはありませんでした。ファスタ卿と手を組んでいたカツミがファスタ卿を暗殺し、彼が持っていた全権を奪ったそうです。これがタイカ・カツミ伝説の始まりであり、『乱世の奸雄』『黒い悪魔』と呼ばれる由縁でもあります」
    「克大火が、そんなことを……?」
     その話と実際に会った大火とのイメージが食い違い、晴奈は思わず首をかしげた。納得いかなさそうなその様子に、エランもきょとんとする。
    「あの、有名な話ですけど……」
    「ああ、うむ。そうだな、私もおぼろげにそう聞いたことはある」
    「ですよねぇ。……それで、話の続きですけど。
     カツミは中央政府を手に入れた後、かなり無茶苦茶な要求をしました。その最たる例が、『中央政府の歳入額の何%かを、自分に納めること』。今でこそ中央政府の歳入は2~3千億クラムとウチの総収入と同じくらいですけども、そこから考えてもざっと50億、60億の金が毎年カツミに入っていきます」
    「そんなにか……」
     大商家の娘と言えど、流石の晴奈もそんな金を目にしたことは無い。未亡人となったシルビアへの香典として渡した、あの途方も無い大金がかすむほどの額である。
    (なるほど、そこは悪魔だな)
    「その要求は央北だけじゃなく、央中、央南など、様々な地域に対しても行われました。
     でもニコル3世がその要求を突っぱねたおかげで、他の地域も揃って反発。その結果、カツミの権利は央北からの税収を掠めるだけに留まりました。それに元々、カツミは政治にそれほど興味が無かったみたいで、その権利が確保された途端、あっさり中央政府の政治権力を譲渡したんです。
     そこから大混乱ですよ。カツミ及び反乱軍が一点に集中させた絶大な権力を奪い合って、央北の名家や権力者が対立。逆に央南や北方など、央北から遠い地域は独自の政治体制を敷き、中央政府から離反していきました。
     カツミの暴挙と放任、『大交渉』の失敗、政治的内乱と央北外の反発――黒白戦争の終結から200年あまりを経た今、『中央』政府とは名ばかり、央北、央中と西方の一部を領地とする『ただの大国』になっています。一応国としてのまとまりはありますが、その方針は各大臣によってバラバラ、軍務大臣や外務大臣が侵略を推す一方で、内務大臣や財務大臣などは貿易を優先させようと和平の道を探る……、と言うような感じです。
     明確な政治方針のない中央政府はこの200年ずっと、混乱したままです」

     エランの言う通り、中央政府に属している軍人や官僚たちは、互いに反目しているようだった。よほど争いが耐えないらしく、街中で彼らがすれ違う度、周囲に緊張が走っているのが傍目から見ても明らかだった。
     そして実際、争っている現場も何度か目撃した。
    「おぉ、これはこれは……」
     部下を引き連れた初老の将校が若い官僚数人に出会うなり、こうなじる。
    「こんな往来で出会うとは、よほどお仕事がお忙しいようで。いやぁ、昼間からご苦労様ですなぁ」
     官僚もややにらみながら、こう返す。
    「……ええ、我々もどこかの粗忽者さんが考え無しに消費した物資を確保するのに、文字通り東奔西走している次第でしてね」
    「ほうほう、それはそれは。まあ、よろしく頼みますわ、ははは」
     こんな感じで、一々両者が突っかかる。実際に手を出すには至らないが、非常に険悪な雰囲気なのである。

     喫茶店を出て、ふたたび往来を歩いていた晴奈はため息をついた。
    「なるほど、荒れた国だな」
    「ええ。そもそもですね、今起こっている戦争だって大義も目的も、何にも無いですよ。
     一応は『北方からの攻撃を受けているために、やむなく応戦』とか、『カツミに叛意を抱いている危険国を先制攻撃』とか、『縮小した領土の再拡大』だとか色々言ってますけど、実情は中央政府内の主導権を握るためだけにやってるみたいです」
    「どう言うことだ?」
    「一つは、カツミに取り入るためですね。実権を手放したとは言え、カツミは相当の金と影響力、実行力を備えてますから、彼を味方に付けられれば政府内での権力は間違いなく強まるでしょうし」
    「ふむ」
    「まあ、それとはまったく逆の理由もあります。カツミを消してしまえばその莫大な金と、『悪魔を倒した』って言う名声が手に入ります。だから、彼を倒せるだけの兵力を集めるために領土拡大とか、軍事国を配下に置こうとか、そう言うことを考えてるみたいですよ」
    「なるほど……。一方で克大火にへつらい、もう一方では反発、か。確かに、混沌とした組織だな」
     晴奈は腕を組み、ため息混じりにつぶやいた。
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