「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・出立録 3
晴奈の話、第300話。
アホの子と大人の女。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
一方、バート班も買い物に来ていた。
「うふふー」
「は、はは……」
「……」
バートの背後でフェリオとシリンがいちゃついている。いや、正確にはシリンがフェリオに付きまとっているのだ。
「なーなー、アレ何なん? あの槍持った女の人の銅像」
「ん? あ、ああ、あれは昔、この街を護った英雄を……」「フェリオ、お前なぁ」
たまりかねたバートが口を開いた。
「任務中だぞ」
「すんません」「えーやんかー」
謝るフェリオの前に出て、シリンが反論する。
「出発は明後日やろ? もうちょいのんびりしてても大丈夫やん」
「大丈夫かそうでないか、考えるのは俺だ。そして、今準備しなきゃ間に合わないと判断した。遊んでる暇はねーんだよ」
「……あーそーですかー」
シリンがうざったそうな顔をし、フェリオの首に手を回す。
「そんならパパっと準備終わらして、後で一緒に遊び行こなー、なー?」
「お、おう」
もう一度バートが振り向く。黒眼鏡で見えはしないが、その目は確実に怒っていた。
「フェリオ、ちょっとこっち来い。シリンはそこで待ってろ」
「えーよ」
バートはフェリオの首をつかみ、路地裏に連れ込む。
「さーてフェリオ、俺が怒ってるのは分かってるよな? なぁ?」
「……はい」
「何で怒ってるか分かるか?」
「シリンが、オレに付きまとってるから」
「おいおい、人のせいにするなよフェリオ巡査長」
首を絞める力がジワジワと強くなっていく。
「苦しいっス、先輩」
「それでだ、フェリオ。お前に3つ選択肢をやる。好きなのを選べ」
バートが煙草をギリギリと噛みながら、フェリオをにらみつける。
「1つ、今すぐ銃でてめーの頭ブチ抜け。それか2つ、シリンの頭ブチ抜いて来い。
それが嫌なら3つ、シリンを黙らせろ」
「……み、3つ目にします」
「よし。じゃあ行け」
バートが手を離した途端、フェリオはバタバタと路地裏を飛び出した。
「……ったく」
バートにしてみれば今回の任務と、その前の任務――クラウン一味への潜入捜査からずっと、貧乏くじを引き続けているようなものである。
前回だけでも、いたずらに苦労ばかりさせられ、金もむしられた上、歯や骨まで折られたのである。今回にしても、恋人と二人きりで過ごす時間がまったく無い一方で、シリンが自分の周りで、見せ付けるようにフェリオに絡んでいるのだ。
(絶対、今の俺は不調、絶不調だ……。ジュリアぁぁ、もう勘弁してくれよぉぉ……)
これだけ不運が続けば、情緒不安定になるのも仕方が無い。後輩をいじめたくなるのも、当然と言えば当然のことだった。
が、シリンもシリンで空気を読まないし、状況を理解してくれない。
「はぁ? 何でバートの言う通りにせなアカンの?」
「だから、うちの班のリーダーだからだってば」
「それは公安が決めた話やろ? ウチ、そんなん聞いてへんもん」
「いやいやいや、船の中とか港とか、宿でも散々説明しただろ? まあ、お前『うんうん分かった分かった』って生返事ばっかりだったかも知れないけどさぁ」
「あ、宿って言えば、今夜どないする? 今日は一緒のベッドでええ?」「うだーッ!」
フェリオの必死の説明も、シリンには十分の一も伝わらなかった。
宿に帰ってからもずっと、バートは不機嫌な顔で煙草をふかしていた。
「なぁなぁ、バート。煙たいんやけど……」
「……」
フェリオに背中から抱きついたまま文句を言ってくるシリンに対し、バートはイラついた目をチラ、と見せて無言で威圧する。
「話聞いとるー?」
しかしシリンはにらまれても動じない。と言うよりも、にらんでいることにさえ気付いていない。
「……」
バートの口から煙草が落ちる。バートが怒りのあまり、吸口を噛み千切ったのだ。
「いい加減にしやがれよ、このバカ……」
「は?」
怒りに満ちたバートの言葉に、シリンもあからさまに不機嫌になり、フェリオから体を離す。
(うわわわ、まずい~っ)
険悪な雰囲気の室内で、板挟みのフェリオは真っ青になった。
と――。
「入るわよ」
別行動を取っていたはずのジュリアの声が、部屋の中に飛び込んできた。
「え?」
シリンをにらんでいたバートが、驚いた声を上げる。
「じゅ、ジュリア? こんな時間に何だよ?」
ドアを静かに開け、ジュリアが入ってきた。
「うん、ちょっとあなたと話がしたくなったから。遅くにごめんね」
「い、いや、俺はいいんだ、けど」
「ああ」
ジュリアはシリンたちの方に向き直り、すっと鍵を差し出す。
「ちょっと悪いんだけど、フェリオ君、シリンさん。別の部屋取ったから、今夜はそこで寝てくれない?」
「へっ?」「な、何で?」
バートもシリンもきょとんとしていたが、フェリオはジュリアの助け舟に素早く乗り込んだ。
「ま、ま、ま……、シリン、リーダー同士の大事な、大事なお話があるんだろ、きっと、うん。オレたちもゆっくりできるし、いいじゃん、な?」
「……そやな。えへへへー」
フェリオの説得を聞いたシリンは一瞬ででれっとした顔になって、フェリオの腕を抱きしめた。
「ほな、ウチらそっち行くわー。何号室?」
「211号室よ。はい、鍵」
「あいあい、ありありー」
シリンは尻尾をパタパタ揺らしながら鍵を受け取り、フェリオを引っ張るように部屋を出て行った。
「……」
思いもよらぬ展開に、バートは依然固まったままだ。
「バート」
「う、おう?」
ジュリアに声をかけられ、バートは我に返る。
「煙草、ちゃんと始末しなさい。床に転がってるわよ」
「おっ、ああ、うん。……悪い悪い」
バートは先程噛み千切った煙草を拾おうと屈み込む。
「危ねー危ねー。……ん?」
煙草を拾い、立ち上がろうとしたところで、両肩に手を置かれた。
「ごめんなさいね、バート。このところずっと、嫌な任務ばっかり押し付けちゃって」
「……いいよ、別に。仕事なんだしさ」
「今回の任務でもしばらく、二人っきりになれないし」
「いいってば」
「でも、今夜だけは確実に、朝まで一緒にいられるわよ。私の班は落ち着いた人ばっかりだから、今夜くらい私がいなくても、ちゃんと準備を進めてくれるし。シリンさんも、フェリオ君に任せれば素直だしね。
だから、……ね?」
「……おう」
バートはジュリアの手を取り、静かに立ち上がった。
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アホの子と大人の女。
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3.
一方、バート班も買い物に来ていた。
「うふふー」
「は、はは……」
「……」
バートの背後でフェリオとシリンがいちゃついている。いや、正確にはシリンがフェリオに付きまとっているのだ。
「なーなー、アレ何なん? あの槍持った女の人の銅像」
「ん? あ、ああ、あれは昔、この街を護った英雄を……」「フェリオ、お前なぁ」
たまりかねたバートが口を開いた。
「任務中だぞ」
「すんません」「えーやんかー」
謝るフェリオの前に出て、シリンが反論する。
「出発は明後日やろ? もうちょいのんびりしてても大丈夫やん」
「大丈夫かそうでないか、考えるのは俺だ。そして、今準備しなきゃ間に合わないと判断した。遊んでる暇はねーんだよ」
「……あーそーですかー」
シリンがうざったそうな顔をし、フェリオの首に手を回す。
「そんならパパっと準備終わらして、後で一緒に遊び行こなー、なー?」
「お、おう」
もう一度バートが振り向く。黒眼鏡で見えはしないが、その目は確実に怒っていた。
「フェリオ、ちょっとこっち来い。シリンはそこで待ってろ」
「えーよ」
バートはフェリオの首をつかみ、路地裏に連れ込む。
「さーてフェリオ、俺が怒ってるのは分かってるよな? なぁ?」
「……はい」
「何で怒ってるか分かるか?」
「シリンが、オレに付きまとってるから」
「おいおい、人のせいにするなよフェリオ巡査長」
首を絞める力がジワジワと強くなっていく。
「苦しいっス、先輩」
「それでだ、フェリオ。お前に3つ選択肢をやる。好きなのを選べ」
バートが煙草をギリギリと噛みながら、フェリオをにらみつける。
「1つ、今すぐ銃でてめーの頭ブチ抜け。それか2つ、シリンの頭ブチ抜いて来い。
それが嫌なら3つ、シリンを黙らせろ」
「……み、3つ目にします」
「よし。じゃあ行け」
バートが手を離した途端、フェリオはバタバタと路地裏を飛び出した。
「……ったく」
バートにしてみれば今回の任務と、その前の任務――クラウン一味への潜入捜査からずっと、貧乏くじを引き続けているようなものである。
前回だけでも、いたずらに苦労ばかりさせられ、金もむしられた上、歯や骨まで折られたのである。今回にしても、恋人と二人きりで過ごす時間がまったく無い一方で、シリンが自分の周りで、見せ付けるようにフェリオに絡んでいるのだ。
(絶対、今の俺は不調、絶不調だ……。ジュリアぁぁ、もう勘弁してくれよぉぉ……)
これだけ不運が続けば、情緒不安定になるのも仕方が無い。後輩をいじめたくなるのも、当然と言えば当然のことだった。
が、シリンもシリンで空気を読まないし、状況を理解してくれない。
「はぁ? 何でバートの言う通りにせなアカンの?」
「だから、うちの班のリーダーだからだってば」
「それは公安が決めた話やろ? ウチ、そんなん聞いてへんもん」
「いやいやいや、船の中とか港とか、宿でも散々説明しただろ? まあ、お前『うんうん分かった分かった』って生返事ばっかりだったかも知れないけどさぁ」
「あ、宿って言えば、今夜どないする? 今日は一緒のベッドでええ?」「うだーッ!」
フェリオの必死の説明も、シリンには十分の一も伝わらなかった。
宿に帰ってからもずっと、バートは不機嫌な顔で煙草をふかしていた。
「なぁなぁ、バート。煙たいんやけど……」
「……」
フェリオに背中から抱きついたまま文句を言ってくるシリンに対し、バートはイラついた目をチラ、と見せて無言で威圧する。
「話聞いとるー?」
しかしシリンはにらまれても動じない。と言うよりも、にらんでいることにさえ気付いていない。
「……」
バートの口から煙草が落ちる。バートが怒りのあまり、吸口を噛み千切ったのだ。
「いい加減にしやがれよ、このバカ……」
「は?」
怒りに満ちたバートの言葉に、シリンもあからさまに不機嫌になり、フェリオから体を離す。
(うわわわ、まずい~っ)
険悪な雰囲気の室内で、板挟みのフェリオは真っ青になった。
と――。
「入るわよ」
別行動を取っていたはずのジュリアの声が、部屋の中に飛び込んできた。
「え?」
シリンをにらんでいたバートが、驚いた声を上げる。
「じゅ、ジュリア? こんな時間に何だよ?」
ドアを静かに開け、ジュリアが入ってきた。
「うん、ちょっとあなたと話がしたくなったから。遅くにごめんね」
「い、いや、俺はいいんだ、けど」
「ああ」
ジュリアはシリンたちの方に向き直り、すっと鍵を差し出す。
「ちょっと悪いんだけど、フェリオ君、シリンさん。別の部屋取ったから、今夜はそこで寝てくれない?」
「へっ?」「な、何で?」
バートもシリンもきょとんとしていたが、フェリオはジュリアの助け舟に素早く乗り込んだ。
「ま、ま、ま……、シリン、リーダー同士の大事な、大事なお話があるんだろ、きっと、うん。オレたちもゆっくりできるし、いいじゃん、な?」
「……そやな。えへへへー」
フェリオの説得を聞いたシリンは一瞬ででれっとした顔になって、フェリオの腕を抱きしめた。
「ほな、ウチらそっち行くわー。何号室?」
「211号室よ。はい、鍵」
「あいあい、ありありー」
シリンは尻尾をパタパタ揺らしながら鍵を受け取り、フェリオを引っ張るように部屋を出て行った。
「……」
思いもよらぬ展開に、バートは依然固まったままだ。
「バート」
「う、おう?」
ジュリアに声をかけられ、バートは我に返る。
「煙草、ちゃんと始末しなさい。床に転がってるわよ」
「おっ、ああ、うん。……悪い悪い」
バートは先程噛み千切った煙草を拾おうと屈み込む。
「危ねー危ねー。……ん?」
煙草を拾い、立ち上がろうとしたところで、両肩に手を置かれた。
「ごめんなさいね、バート。このところずっと、嫌な任務ばっかり押し付けちゃって」
「……いいよ、別に。仕事なんだしさ」
「今回の任務でもしばらく、二人っきりになれないし」
「いいってば」
「でも、今夜だけは確実に、朝まで一緒にいられるわよ。私の班は落ち着いた人ばっかりだから、今夜くらい私がいなくても、ちゃんと準備を進めてくれるし。シリンさんも、フェリオ君に任せれば素直だしね。
だから、……ね?」
「……おう」
バートはジュリアの手を取り、静かに立ち上がった。
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300話っ。
月換算して、10ヶ月分。
どこまでも伸びていきますね。
現在書き溜めているものも含めれば、400を越えています。
……つまり第6部は100話以上あるってことにΣ(゚∀゚;)
非常に長くなってきますが、よろしくお付き合いください。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2009.06.07 修正
2016.07.11 修正
300話っ。
月換算して、10ヶ月分。
どこまでも伸びていきますね。
現在書き溜めているものも含めれば、400を越えています。
……つまり第6部は100話以上あるってことにΣ(゚∀゚;)
非常に長くなってきますが、よろしくお付き合いください。
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2009.06.07 修正
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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

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短編・掌編

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雑記

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
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おお、300話ですね。
私も日記を含めると1000記事超えていますけど・・・。それにしてもここまで書くのも大変ですよね。読むのも大変ですけど。
なかなか読むスピードは遅いですけどよろしくお願いします。
私も日記を含めると1000記事超えていますけど・・・。それにしてもここまで書くのも大変ですよね。読むのも大変ですけど。
なかなか読むスピードは遅いですけどよろしくお願いします。
- #629 LandM
- URL
- 2011.12/08 08:10
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現在連載中の方も、(執筆中の部分を合わせて)400話になる勢い。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。