「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・出立録 4
晴奈の話、第301話。
赤毛の幼馴染。
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4.
「んふふふ……」
一方、こちらは小鈴と楢崎。
ジュリアが別室に移動したため、3人で取っていた部屋は広々としていた。今夜は使われることの無い空のベッドを眺めながら、楢崎も苦笑する。
「若いなぁ、スピリット君」
「ま、好きなオトコがイライラしてたらそーするわよ。アイツならひょいひょいってなだめられるでしょうしね」
「そう言えば橘君、スピリット君とは顔見知りみたいだけど、どんな関係なんだい?」
楢崎の質問に、小鈴はベッドに腰掛けたまま答える。
「あー、腐れ縁って感じかな。瞬二さんも、朱海のコトは知ってるわよね?」
「ああ、赤虎亭のおかみさんだね」
「あいつとあたし、それからジュリアはちっさい頃から良く遊んでたのよ。歳も近いし、3人とも真っ赤な髪だし。『赤毛連盟』なんつってね」
「橘君の実家は央南だったよね。昔から市国の方にも、足を運んでたのかい?」
「そ、そ。家が情報屋やってるから、家族ぐるみで央中には何度も入ってたのよ。勉強とかで、あたしだけ4~5年向こうに住んでたコトもあったしね。
今でも公安と情報屋って関係で、ちょくちょく話するわ。……あ、だからか」
「うん?」
「いや、何で半年前、エランが赤虎亭を訪ねて来たんだろって思ってたんだけど、今考えてみたら、ジュリアがそう指示したんでしょうね」
「ああ、なるほど」
「にしても、……いいなぁ」
小鈴はベッドにごろんと寝転び、ため息をつく。
「何だかんだ言ってジュリア、オトコいるのよねぇ。あの子ドライな性格してるけど、バートと話してる時はニコニコしてんのよね」
「ニコニコ? ……うーん?」
楢崎は普段のジュリアの様子を記憶から探るが、思い浮かぶのは銀縁眼鏡の奥にある、細い目だけである。
(あの顔が、ニコニコと? ……今度、注意深く見てみよう)
「あの二人、幸せそうでいいわよねー」
「ふむ……」
楢崎は机に頬杖を付き、しんみりとしたため息をつく。
「幸せな男女、か」
「どしたの、瞬二さん?」
「あ、いや。……そう言えば、橘君は、その、お相手の方はいるのかい?」
楢崎にそう問われ、小鈴は噴き出した。
「ぷっ……、ふ、んふふふふ」
「え、どうしたんだい?」
「いや、んふふ……。
今はいないわ。前はいたんだけど、あたしがこの『鈴林』任されて、あっちこっち旅するようになってから、どーしても長続きしなくなっちゃってさ。みーんな口を揃えて、『待つのに疲れたんだ』っつって。
だから今は、一人なの。欲しいなーって思ってるんだけどね」
「ふむ……」
楢崎は立ち上がり、小鈴のベッドの横に立てかけてあった「鈴林」を見つめる。
「以前に黄君から聞いたことがあるんだけど、この杖には意思があるそうだね」
「そ、そ。……ホラ『鈴林』、挨拶して」
小鈴がそう声をかけると、「鈴林」はひとりでにちり、と鈴を鳴らした。
「ほう……」
「ね? ……ま、そのせいで彼氏もぜーんぜんできないんだけどね。ホントこの子、わがままで」
「はは、難儀だね。……そうだ『鈴林』君、こう言うのはどうかな?」
楢崎は「鈴林」の前にしゃがみこみ、提案してみた。
「5~6年くらい旅を我慢してもらって、その間に橘君に子供を作ってもらい、次からはその子と旅をするって言うのはどうだい?」
「アハハ、それいーわぁ」
小鈴は笑いながら、「鈴林」をトントンと突いた。
「ねー、そんでもいい、アンタ?」
ところが何度小突いても、杖は一向に鳴らない。
「……ダメ?」
今度はそれに答えるように、鈴がひとりでにちり、と鳴った。
「ケチぃ」
「残念だったね、はは……」
「こーなったら、一緒に旅ができるオトコ見つけなきゃいけないわねー」
小鈴はクスクス笑いながら、「鈴林」を手にとって鈴を拭き始めた。
「誰かいい男いないかしらねー」
手入れをしながら、小鈴は視線を楢崎の方に向ける。
「……うん?」
「……んーん、何でも。……ホラ『鈴林』、キレイにしたげるわよー」
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赤毛の幼馴染。
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「んふふふ……」
一方、こちらは小鈴と楢崎。
ジュリアが別室に移動したため、3人で取っていた部屋は広々としていた。今夜は使われることの無い空のベッドを眺めながら、楢崎も苦笑する。
「若いなぁ、スピリット君」
「ま、好きなオトコがイライラしてたらそーするわよ。アイツならひょいひょいってなだめられるでしょうしね」
「そう言えば橘君、スピリット君とは顔見知りみたいだけど、どんな関係なんだい?」
楢崎の質問に、小鈴はベッドに腰掛けたまま答える。
「あー、腐れ縁って感じかな。瞬二さんも、朱海のコトは知ってるわよね?」
「ああ、赤虎亭のおかみさんだね」
「あいつとあたし、それからジュリアはちっさい頃から良く遊んでたのよ。歳も近いし、3人とも真っ赤な髪だし。『赤毛連盟』なんつってね」
「橘君の実家は央南だったよね。昔から市国の方にも、足を運んでたのかい?」
「そ、そ。家が情報屋やってるから、家族ぐるみで央中には何度も入ってたのよ。勉強とかで、あたしだけ4~5年向こうに住んでたコトもあったしね。
今でも公安と情報屋って関係で、ちょくちょく話するわ。……あ、だからか」
「うん?」
「いや、何で半年前、エランが赤虎亭を訪ねて来たんだろって思ってたんだけど、今考えてみたら、ジュリアがそう指示したんでしょうね」
「ああ、なるほど」
「にしても、……いいなぁ」
小鈴はベッドにごろんと寝転び、ため息をつく。
「何だかんだ言ってジュリア、オトコいるのよねぇ。あの子ドライな性格してるけど、バートと話してる時はニコニコしてんのよね」
「ニコニコ? ……うーん?」
楢崎は普段のジュリアの様子を記憶から探るが、思い浮かぶのは銀縁眼鏡の奥にある、細い目だけである。
(あの顔が、ニコニコと? ……今度、注意深く見てみよう)
「あの二人、幸せそうでいいわよねー」
「ふむ……」
楢崎は机に頬杖を付き、しんみりとしたため息をつく。
「幸せな男女、か」
「どしたの、瞬二さん?」
「あ、いや。……そう言えば、橘君は、その、お相手の方はいるのかい?」
楢崎にそう問われ、小鈴は噴き出した。
「ぷっ……、ふ、んふふふふ」
「え、どうしたんだい?」
「いや、んふふ……。
今はいないわ。前はいたんだけど、あたしがこの『鈴林』任されて、あっちこっち旅するようになってから、どーしても長続きしなくなっちゃってさ。みーんな口を揃えて、『待つのに疲れたんだ』っつって。
だから今は、一人なの。欲しいなーって思ってるんだけどね」
「ふむ……」
楢崎は立ち上がり、小鈴のベッドの横に立てかけてあった「鈴林」を見つめる。
「以前に黄君から聞いたことがあるんだけど、この杖には意思があるそうだね」
「そ、そ。……ホラ『鈴林』、挨拶して」
小鈴がそう声をかけると、「鈴林」はひとりでにちり、と鈴を鳴らした。
「ほう……」
「ね? ……ま、そのせいで彼氏もぜーんぜんできないんだけどね。ホントこの子、わがままで」
「はは、難儀だね。……そうだ『鈴林』君、こう言うのはどうかな?」
楢崎は「鈴林」の前にしゃがみこみ、提案してみた。
「5~6年くらい旅を我慢してもらって、その間に橘君に子供を作ってもらい、次からはその子と旅をするって言うのはどうだい?」
「アハハ、それいーわぁ」
小鈴は笑いながら、「鈴林」をトントンと突いた。
「ねー、そんでもいい、アンタ?」
ところが何度小突いても、杖は一向に鳴らない。
「……ダメ?」
今度はそれに答えるように、鈴がひとりでにちり、と鳴った。
「ケチぃ」
「残念だったね、はは……」
「こーなったら、一緒に旅ができるオトコ見つけなきゃいけないわねー」
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手入れをしながら、小鈴は視線を楢崎の方に向ける。
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「……んーん、何でも。……ホラ『鈴林』、キレイにしたげるわよー」



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~ Comment ~
NoTitle
あの、火山研究で有名だったクラフト夫妻みたいに世界を飛び回る人がいればいいんですけどね。なかなか世界は広くてもそれと出会えるきっかけというかそういうのはなかなかないですよね。夫婦で世界を飛び回るって言うのは結構難しいものですね。
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NoTitle
二人旅なんかすると、余計にこじれてしまうかも。
女三人旅はできても、異性と二人っきりで旅ができないタイプです。