「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・出立録 6
晴奈の話、第303話。
敵首領と主治医の会話。
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6.
某所、殺刹峰アジト。
「どう……、調子は……?」
狐獣人の、ひどく顔色の悪い女性がオッドの研究室を訪れた。
「上々、って言いたいトコなんだけどねーぇ」
オッドはひどく残念そうな顔をして、女性を部屋に招きいれた。
「あら……、失敗したの……?」
「失敗じゃないわよぉ、アタシに落ち度無いわよーぉ。このおっさんが『素材』としてクズなのよぉ」
オッドは手術台に縛り付けられた熊獣人――クラウンを指差す。
「ひ……はっ……ひ……」
クラウンの額には何本も青筋が走り、目は赤黒く染まっている。そして肌全体が、青黒く変色していた。
「なーにが『キング』よぉ、まったく。ちょっと神経を肥大させて、血流量増やしただけで、もうコレよぉ?」
「は……ふっ……」
「もう脳の血管もポンポン弾けちゃったみたいで、ザ★廃人確定。『プリズム』に入れるどころか、普通の兵士にも使えないわよぉ」
「あら……そうなの……。それは……残念ね……」
「もう使いどころ無いから、ちゃっちゃとモンスターにしちゃってよぉ」
オッドの要請を聞いた「狐」は、非常に辛そうな顔をした。
「ちょっと……無理……。わたし……今日は……体調が悪くて……」
「そーねぇ、顔色悪いもんねぇ。栄養剤と強壮剤、打っとく?」
「ええ……お願いするわ……シアン……」
オッドは非常に嬉しそうな顔をして、薬棚を漁り始めた。
「了解、リョーカイ。……うふっ、やっぱ医者っぽいコトすると楽しいわぁ。天職ねぇ」
「あは……はは……」
「狐」の女性は口の端をやんわりと上げ、笑い顔を作る。
「どしたのぉ?」
「いえね……。こんな……人体実験する……あなたが……、医者っぽい……ことって……言うから……あはは……」
「それ嫌味? 侮辱?」
オッドが口を尖らせると、女性はゆっくりと手を振って否定した。
「いいえ……ただ……面白いなって……」
「ホラ、腕出しなさいよぉ。……相変わらず血管ほっそいわねぇ」
オッドが静脈を探しながら、女性に尋ねる。
「アンタ、今いくつだったっけ?」
「68よ……」
「魔術ってのはホントに、気味悪いわねぇ」
ようやく静脈を探し当て、ぷすりと注射を打つ。
「この腕を見たら90歳、100歳の超おばあちゃん。……なのに」
オッドが顔を上げた先には勿論、女性の顔がある。
「顔ときたら、どう見ても30そこそこ。『老顔若体』って言葉あるけど、アンタは逆ねぇ。『若顔老体』って感じ」
「いいじゃない……そんなの……。あなただって……、バニンガム卿だって……、その魔術の恩恵を……、受けてるんだから……」
「まあねぇ」
2本目の注射を打ち終え、オッドは改めて「狐」の顔を覗き込む。
「どうしたの……?」
「もう20年以上その顔見てるけど、いまだに分かんないわぁ」
「何が……?」
「アンタの考えてるコトが」
オッドの言葉に、「狐」は不思議そうな顔をした。
「どうして……?」
「アンタに何のメリットがあって、こんな組織を作ったのか。アンタの目的はなんなのか。ずーっと考えてるけど、アンタのその、青白ぉい顔を見る度に分かんなくなっちゃうのよねぇ」
「いつも……言ってるじゃない……」
口を開きかけた「狐」をさえぎって、オッドはその先を自分から話す。
「あーあー、『中央政府の粛清』とか、『新政権樹立のための基盤固め』とか、そんなコトは何べんも聞いたわよぉ。でもさーぁ、それは旦那サマのための目的じゃないのぉ?
アタシはアンタ自身のメリットとか、目的を聞きたいのよぉ」
「……」
「狐」はオッドから目線をそらし、ぽつりとつぶやいた。
「そうね……わたし自身の……目的……。
2つ……かな……。娘の……、フローラのためと……、わたしの魔術の……、完成を目指すため……、かしら……」
「魔術の完成?」
「まだ……、完全じゃない……」
「狐」は両手を挙げ、その細い腕をオッドに見せた。
「体は……確かに……、30代のままのはず……なのに……、ひどく……衰えている……。同じ術をかけた……、あなたや……バニンガム卿は……、とっても若々しいのに……、わたしだけが……こんなに衰弱してる……」
「それは、その……、アンタの病気のせいじゃないの。魔術、関係ないじゃない」
「だからよ……。わたしの魔術……現時点では……、この病を克服できない……。完成していたら……、きっと……わたしは……」
「……まあ、うん。とりあえずアタシには、症状を緩和するコトしかできないしねぇ」
オッドは立ち上がり、また薬棚に向かう。
「とりあえず栄養剤と強壮剤は打ったし、沈静剤も作っとくわねぇ。……アンタの魔術が完成するのが早いか、それともアタシが特効薬作るのが早いか」
「それとも……、わたしが死ぬのが先か……」
「ちょっと、ふざけないでよぉ……」
オッドは憮然とした顔で、薬品を混ぜ始めた。
蒼天剣・出立録 終
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敵首領と主治医の会話。
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某所、殺刹峰アジト。
「どう……、調子は……?」
狐獣人の、ひどく顔色の悪い女性がオッドの研究室を訪れた。
「上々、って言いたいトコなんだけどねーぇ」
オッドはひどく残念そうな顔をして、女性を部屋に招きいれた。
「あら……、失敗したの……?」
「失敗じゃないわよぉ、アタシに落ち度無いわよーぉ。このおっさんが『素材』としてクズなのよぉ」
オッドは手術台に縛り付けられた熊獣人――クラウンを指差す。
「ひ……はっ……ひ……」
クラウンの額には何本も青筋が走り、目は赤黒く染まっている。そして肌全体が、青黒く変色していた。
「なーにが『キング』よぉ、まったく。ちょっと神経を肥大させて、血流量増やしただけで、もうコレよぉ?」
「は……ふっ……」
「もう脳の血管もポンポン弾けちゃったみたいで、ザ★廃人確定。『プリズム』に入れるどころか、普通の兵士にも使えないわよぉ」
「あら……そうなの……。それは……残念ね……」
「もう使いどころ無いから、ちゃっちゃとモンスターにしちゃってよぉ」
オッドの要請を聞いた「狐」は、非常に辛そうな顔をした。
「ちょっと……無理……。わたし……今日は……体調が悪くて……」
「そーねぇ、顔色悪いもんねぇ。栄養剤と強壮剤、打っとく?」
「ええ……お願いするわ……シアン……」
オッドは非常に嬉しそうな顔をして、薬棚を漁り始めた。
「了解、リョーカイ。……うふっ、やっぱ医者っぽいコトすると楽しいわぁ。天職ねぇ」
「あは……はは……」
「狐」の女性は口の端をやんわりと上げ、笑い顔を作る。
「どしたのぉ?」
「いえね……。こんな……人体実験する……あなたが……、医者っぽい……ことって……言うから……あはは……」
「それ嫌味? 侮辱?」
オッドが口を尖らせると、女性はゆっくりと手を振って否定した。
「いいえ……ただ……面白いなって……」
「ホラ、腕出しなさいよぉ。……相変わらず血管ほっそいわねぇ」
オッドが静脈を探しながら、女性に尋ねる。
「アンタ、今いくつだったっけ?」
「68よ……」
「魔術ってのはホントに、気味悪いわねぇ」
ようやく静脈を探し当て、ぷすりと注射を打つ。
「この腕を見たら90歳、100歳の超おばあちゃん。……なのに」
オッドが顔を上げた先には勿論、女性の顔がある。
「顔ときたら、どう見ても30そこそこ。『老顔若体』って言葉あるけど、アンタは逆ねぇ。『若顔老体』って感じ」
「いいじゃない……そんなの……。あなただって……、バニンガム卿だって……、その魔術の恩恵を……、受けてるんだから……」
「まあねぇ」
2本目の注射を打ち終え、オッドは改めて「狐」の顔を覗き込む。
「どうしたの……?」
「もう20年以上その顔見てるけど、いまだに分かんないわぁ」
「何が……?」
「アンタの考えてるコトが」
オッドの言葉に、「狐」は不思議そうな顔をした。
「どうして……?」
「アンタに何のメリットがあって、こんな組織を作ったのか。アンタの目的はなんなのか。ずーっと考えてるけど、アンタのその、青白ぉい顔を見る度に分かんなくなっちゃうのよねぇ」
「いつも……言ってるじゃない……」
口を開きかけた「狐」をさえぎって、オッドはその先を自分から話す。
「あーあー、『中央政府の粛清』とか、『新政権樹立のための基盤固め』とか、そんなコトは何べんも聞いたわよぉ。でもさーぁ、それは旦那サマのための目的じゃないのぉ?
アタシはアンタ自身のメリットとか、目的を聞きたいのよぉ」
「……」
「狐」はオッドから目線をそらし、ぽつりとつぶやいた。
「そうね……わたし自身の……目的……。
2つ……かな……。娘の……、フローラのためと……、わたしの魔術の……、完成を目指すため……、かしら……」
「魔術の完成?」
「まだ……、完全じゃない……」
「狐」は両手を挙げ、その細い腕をオッドに見せた。
「体は……確かに……、30代のままのはず……なのに……、ひどく……衰えている……。同じ術をかけた……、あなたや……バニンガム卿は……、とっても若々しいのに……、わたしだけが……こんなに衰弱してる……」
「それは、その……、アンタの病気のせいじゃないの。魔術、関係ないじゃない」
「だからよ……。わたしの魔術……現時点では……、この病を克服できない……。完成していたら……、きっと……わたしは……」
「……まあ、うん。とりあえずアタシには、症状を緩和するコトしかできないしねぇ」
オッドは立ち上がり、また薬棚に向かう。
「とりあえず栄養剤と強壮剤は打ったし、沈静剤も作っとくわねぇ。……アンタの魔術が完成するのが早いか、それともアタシが特効薬作るのが早いか」
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