黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・橙色録 1

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    晴奈の話、第304話。
    修羅の行き着く先、阿修羅。

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    1.
     とある央中東部の田舎町。
     若者二名の騒ぎ立てる声が、夜の街中に響いていた。
    「ぁ? やんのかコラぁ!」
    「ざけんな、やったるわボケぇ!」
     田舎町とは言っても、昔は鉱山都市として栄えたところである。
     当然のように、あの金火狐財団も積極的に採掘を行っていたし、街を活性化するために大型の商店や歓楽街も併せて造成され、往時はそれなりににぎわっていた。
    「くっそ、なめんなやカス!」
    「こっちのセリフや、アホ!」
     が、それはもう10年、20年も昔の話である。
     積極的な採掘活動によって、あっと言う間に鉱脈は尽きた。途端に金火狐は撤退し、続いて他の商人たちも消えていった。
    「ぐあ……!」
    「オラ、どないしたボケぇ!」
     後に残ったのは荒れた鉱山と荒れた街、そして荒れた人々と、その子供たちだけになった。
     まず、親の世代から街に残った金や建物、土地を奪い合い、その荒んだ戦いが子供たちにも伝播。毎日のように自分たちのテリトリーを主張し、醜く争い続けていた。
    「ひーっ、ひーっ……」
    「もうおしまいか、あぁ!?」
     そうしてその夜も、若者二人が愚かしく争っていた。

     が――その夜は少し、事情が違った。
     ある短耳の男が、その街を夜分遅くに訪れていたのだ。
    「オラッ! オラぁッ!」
    「……」
     男の前を、血まみれになった「狼」の少年が転がっていく。
    「ゼェ、ハァ……」
     少年を蹴飛ばしたらしい青年の「虎」が、荒い息を立てながら男の側にやって来た。
    「おい」
     旅の剣士風であるその男は、青年に声をかけた。
    「あ? なんや、文句あんのか?」
     青年はいかにも己が粗野・粗暴であると公言するかのように、剣士をにらみつけて威嚇する。
    「これから何をする気だ、青年?」
    「そんなん、おっさんに関係ないやろが」
     青年は剣士をにらみつけたまま、倒れた少年のところに歩き出す。
    「やっ、やめ……」
    「あぁ? ケンカ売ってきたん、お前やろが」
     青年の手にはレンガが握られている。剣士はもう一度、彼に声をかけた。
    「君。いかんな、それは」
    「……おっさん、さっきから何やねんな。邪魔せんといてくれるか」
     明らかに癇に障ったらしく、青年の声色が変わる。だが男は構う様子もなく、こう続ける。
    「君はその『狼』君にとどめを刺すつもりだろう? そのレンガで」
    「せやったら何やねん?」
     剣士はゆっくりと首を振り、倒れた「狼」の前に立つ。
    「この『狼』君は降参している。それなのにとどめを刺す、つまり殺すと言うことはだな、余計な恨みつらみを買うことになる。
     大方、この『狼』君が――狼獣人とは言え、こんなに貧相な体つきで――君に挑んだのも、怨恨からではないのか?」
    「説教か、おっさん」
     青年の額に青筋が走る。握ったレンガがビキ、と音を立てて割れた。
    「俺は説教されんのが、一番腹立つんや」
    「やれやれ……。聞く耳を持たん、か」
     男はため息をつき、剣を抜いた。

    「なぁなぁ、ウチのダーリンちゃん、ドコにおるか知らへん?」
     黒髪に金や緑、青と言ったド派手なメッシュを入れた虎獣人の少女――とは言え、身長は既に170を裕に超えている――が、近くで酒を呑んでいた仲間に声をかける。
    「んぇ? あー、アームのことか? なぁ、アームってさっき、外でかけたやんな?」
     同じく酒を呑んでいた少年が、真っ赤な顔でコクコクとうなずいた。
    「外? ドコらへんやろ?」
    「さぁなぁ。そんなん知らんわぁ」
    「ほな、ちょっと見てくるわ」
     その少女は仲間内で勝手にアジトにしていた酒蔵を抜け、夜の街に繰り出した。
    (もぉ、ダーリンちゃんっていっつもウチ置いて行くんやもんなぁ)
     少女が勝手に恋人と公言している青年アームは、彼女らが属する仲間たちのリーダーである。彼女と同じ虎獣人で、仲間内では最もケンカが強く、現在街中で起こっている争いの中心にいる男だった。
    (どーせ、どっかでケンカしとるんやろなぁ)
     少し歩いたところで、曲がり角の先から誰かの騒ぐ声がする。
    (お、あっちやろか)
     少女はひょいと、道の先を覗いてみた。

    「ひっ、はっ……」
     青年は恐怖でガチガチと歯を震わせていた。いや、体中がガクガクと震え、失禁までしている。
    「も、もうやめてくれ……っ!」
     体中に刀傷を受け、服を真っ赤に染めた青年は懇願するが、剣士は応じない。
    「君は、何度そう頼まれた?」
    「い……っ?」
    「何度、『もうやめてくれ』『勘弁してくれ』と、今までいたぶり、殺してきた者たちに頼まれた? そして君は、一度でもそれを呑み、矛を収めたことがあるのか?」
     剣士はゆらりと腕を挙げ、剣を上段に構えた。
    「や、やめ……っ」
     青年が泣き叫ぶ間も与えず、剣士は襲い掛かる。
     次の瞬間、青年の両腕と首は胴体から離れ、飛んでいった。
    「ひぃ……ッ!」
     曲がり角の陰でこの惨状を目の当たりにした少女は、思わず叫んでしまった。
    「む」
     青年、アームを斬った剣士はその悲鳴に気付き、振り返る。
    「あ……、あっ……、アーム、アームが……、ばっ、バラ、バラバラにぃ……」
    「ふむ。彼はアームと言う名前だったのか。なるほど、『腕』っ節は確かに強かったようだ」
     剣士は切り落とした左腕をつかみ、ぷらぷらと振って眺めた。
    「だが、相手が悪かったな。……君、大丈夫か?」
     剣士は腕を投げ捨て、倒れた少年に声をかけた。
    「う……」
    「息はあるようだな。だが、手当てをせねばなるまい」
     剣士は少年を抱きかかえようと屈み込む。と、少女が血相を変え、剣士に向かってきた。
    「よっ、よくもウチのダーリンちゃんを……ッ!」
    「ダーリン、ちゃん? ……何だそれは」
    「うるさいうるさいうるさああああいッ!」
     少女はその大柄な体をフルに使い、剣士に向かって跳び、そのまま蹴りを放つ。
     だが、剣士はその重たい蹴りを片腕一本で止めてしまった。
    「え!?」
     剣士は少女の足を払いのけ、剣を抜いた。
    「やれやれ。これも我が道、『阿修羅』の宿命か――人を助けつつ、一方で人を殺さねばならぬとは」
    「……ひっ」
     少女は短い悲鳴を上げた。その剣士から、得体の知れない恐ろしさを感じたからである。
     その底なしの恐怖は、一瞬で彼女を凍らせた。

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    2016.07.18 修正
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