FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・橙色録 5

     ←蒼天剣・橙色録 4 →蒼天剣・橙色録 6
    晴奈の話、第308話。
    異様な敵。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     バートとペルシェが戦っている間に、シリンとフェリオも殺刹峰の仕向けた戦闘員たちを、食堂内で相手にしていた。
    「……あれぇ?」
     シリンは戦っていて、何かしらの違和感を覚えた。
    「なぁ、フェリオ。何か、おかしない?」
    「ああ……」
     フェリオも同様の違和感を感じているようだ。
     そして戦いが始まって5分ほどで、その違和感が何なのか気付いた。
    「あいつら、倒れねぇ……!」
     敵の数はリーダーのペルシェを抜いて8名。さらに、バートの先制攻撃で3名倒したはずなのだが、シリンたちの前には依然8名が揃っている。倒れても倒れても、いつの間にか起き上がってシリンたちに向かってくるのだ。
    「……やんなぁ。さっきから思いっきり、殴り飛ばしてんねんけど」
    「オレだってさっきから、頭と胸ばっか狙ってもう20発近く撃ってる。……ってのに、何で倒れねぇんだ?」
     戦闘員はシリンの打撃を食らっても、フェリオの銃弾を眉間に浴びても、一向に倒れる様子が無い。
    「そんならやー、二人で別々に相手しとくより、一人ひとり狙って攻撃したった方がええかも知れへんな」
    「だな。じゃ、そっちの長髪から叩くぞ!」
    「あいあいっ!」
     二人はシリンが相手していた長髪の男に向かって、飛び蹴りと銃弾を浴びせた。
    「う、ぐ……っ」
     流石にこたえたのか、その長髪は壁に勢い良く叩きつけられ、前のめりに倒れ込む。が――。
    「……く、うう」
     うめき声を上げつつも、ゆらりと立ち上がった。
    「ウソやろ」「マジかよ……」
     長髪は血を吐き、奥歯を吐き捨てながらも、二人の前に仁王立ちになっている。流石のシリンも、敵のあまりの頑丈さに唖然としていた。

     一方、バートとペルシェは狭い店内を飛び出し、往来と裏通りを行き来しつつ交戦していた。
    「『ストーンボール』! えーいっ!」
     気の抜けた声とは裏腹に、ペルシェの放つ魔術は辺りの家屋にバスバスと大穴を開けていく。
    「わあっ!?」「売り物が吹っ飛んだぁ!?」「きゃーっ、花瓶がーっ!」
     二人の通った跡から、次々に人々の悲鳴がこだまする。
    (うっわ……、こりゃ3日滞在なんて悠長なこと言ってられねー。さっさとコイツ倒して早く街出ないと、どんだけの被害請求が来るか……!)
     のんきなことを考えながら、バートは入念に敵を観察する。
    (あの垂れ目猫、魔術の腕は相当なもんだな。オマケに『猫』らしく、フットワークもいい。
     銃で応戦、ってのは論外だな。俺の腕でも当たりそうにねーし、市街地でパンパン撃ってちゃ民間人が巻き添えになっちまう。
     ま、運のいいことに……)
     バートは早口で呪文を唱え、裏路地に入ったところで、同じように路地に入ってきたペルシェに向かって手をかざす。
    「『スパークウィップ』!」
    「きゃあっ!?」
    (俺の得意魔術は『雷』だ。『土』使いのアイツに対して、アドバンテージは大きい)
     バートの放った放射状の電撃はペルシェに直撃し、彼女は地面に倒れ込んだ。
    「うー。今のはー、ちょこーっと効きましたねー」
     だがすぐに立ち上がり、バートと同じように手をかざす。
    「お返ししちゃいますー。『グレイブファング』! 刺されー!」
     ペルシェの足元から、彼女の背丈とほぼ同じ長さの石の槍が飛び出し、バートに向かって飛んできた。
    (チッ……! でけぇな、クソ!)
     いくら雷系統が土の術に勝るとは言え、魔力の出力量はペルシェの方がはるかに大きい。そして高出力で放たれた術は単純に、威力が大きくなる。
     ズン、と言う重い音が街中に響き渡った。

     戦闘が始まってから15分が過ぎたが、まだ敵は倒れてくれない。
    「あーっ、ウザいわぁもう!」
     苛立ち始めたシリンを見て、フェリオがなだめようとする。
    「冷静になれって、シリン! 焦ったらコイツらの思う壺だぞ!」
    「うー、うー……」
     シリンは拳を握りしめ、敵をにらみつける。
    「……やっぱムカつく!」
     フェリオの制止も空しく、シリンは敵の顔面に拳をめりこませた。
    「……」
     顔面を殴られた敵は直立したまま、ビクともしない。シリンの拳をぶつけられたまま、その腕をつかんでギリギリと力を込める。
    「うっ……!」
     見る見るうちにシリンの右手が紫色になっていく。どうやら腕の血管が切れ、内出血を起こしたらしい。
     と――ここで急に、敵の握力が弱まる。
    「……か、は」
     かすれた声を漏らし、敵はバタリと倒れた。
    「……あれ? どない、したん?」
     シリンは潰されかけた腕を揉みながら、倒れた敵を見下ろす。敵の目は一杯に見開かれ、体全身がビクビクと痙攣しているのが分かった。
    「まずいな」「薬がもう……?」「早すぎる」
     一人倒れた途端に、残りの戦闘員たちがざわめきだした。と、また一人倒れる。
    「薬? おい、どう言うコトだ?」
     フェリオが銃を向けて尋ねたが、戦闘員たちは答えない。代わりに内輪でブツブツと、何かを相談している。
    「どうする?」「『オレンジ』様もどこかに行ってしまったし……」「じゃあ、プラン00で」「そうするか」
     相談の声がやんだ途端、全員身を翻し、食堂から一人残らず逃げ出してしまった。
    「……えーっ!?」
     シリンは予想外の事態に驚き、思わず跡を追いかける。
    「ちょちょちょ、ちょっと待ちいや!?」
     だが、シリンが外に飛び出した時にはもう、どこにも戦闘員たちの姿は無かった。
    「……ダメだ。死んでる」
     フェリオは倒れた戦闘員2名を診ようとしたが、すでに息絶えていた。
    「んー、身分を示すものは無し、か。手がかりはつかめそうに無いなぁ。
     ……と、薬って言ってたな。もしかしてコイツら、体の機能を高める薬とか使ってたのか?」
    「ふーん……。ドーピングってヤツ?」
    「だな」
     シリンも死んだ戦闘員たちを眺める。彼らの顔は青黒く染まっており、口からは白っぽい液体がドロドロと流れ出ている。
    「唾液にしちゃ白過ぎる、……って言うか何か黄ばんでるような。……ん?」
     良く見れば、鼻からも同様の液体がダラダラと漏れている。ここでようやく、フェリオはその液体が何なのか分かった。
    「……コレ、血なのか?」
    「うげぇ、きもっ」
     二人して気持ち悪がっていると、今まで倒れていた店主が「う……」とうめき声をあげた。
    「……あ」
     ようやく二人は、店の中が惨々たる有様になっていることに気付いた。
    「逃げっか」「うん」
     店主が目を覚ます前に、シリンたちは店から逃げ出した。
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・橙色録 4】へ
    • 【蒼天剣・橙色録 6】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・橙色録 4】へ
    • 【蒼天剣・橙色録 6】へ