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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・橙色録 6

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    晴奈の話、第309話。
    ひょんなことから。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
    「はー……、はー……」
     間一髪で石の槍を避けたバートは、そのまま近くの家屋に転がり込んだ。
    「何だいアンタ?」
     椅子に腰掛けていた老人が目を薄く開け、バートを見つめているが、バートがそれに応える余裕は無い。
    「ちょっと悪いが、この家から、逃げた方が、いい」
     息を整えつつ、老人に声をかける。
    「何言ってんだ、アンタ?」
    「ちょっと、見境無い女が、俺を追っかけて、くるからさ」
    「女? 痴話喧嘩か何かか?」
    「違うって。……ああ、来やがった」
     家の外から、ペルシェの足音と間延びした声が聞こえてくる。
    「『狐』さーん、どこですかー?」
     老人はじっとバートを見て、ため息をついた。
    「……ま、ここでじっとしてな。下手に動いたらアンタも危ないが、わしも危なそうだ」
    「助かるぜ、じいさん」
     バートは老人の厚意に甘え、ペルシェに見つからぬように窓の下でじっとしていた。
    「どーこでーすかー」
     外ではまだ、ペルシェがバートの姿を探している。
    「きーつーねーさぁーん?」
    「うっせえな……」
    「アンタ、一体あの子に何したんだ?」
     いぶかしげに見つめる老人に、バートは弁解する。
    「違うって。相手から襲い掛かってきたんだよ。俺、ただ飯食ってただけだし」
    「ほう……。大変だな、色男」
    「はは、勘弁してくれ」

     5分ほど老人の家でじっとしていると、ようやくペルシェの声が遠ざかっていった。バートは深いため息をつき、老人の向かいに座る。
    「はぁ……」
    「何か知らんが、災難だったな」
     老人はクスクス笑いながら、茶をバートに差し出した。
    「あ、悪いな」
    「んで、アンタは何者だ?」
     老人の質問に、バートはぎょっとした。
    「転がり込んで来た時の身のこなしといい、気配の隠し方といい、只者じゃなさそうだけどな」
    「……じいさん、アンタこそ何者だ?」
    「わしは退役した老兵だよ。この街でゆーっくり暮らしてる一市民さ」
    「そっか。俺は――内緒にしてくれよ――バート・キャロルって言う、金火狐財団の職員だ」
     バートの自己紹介を聞き、老人の目が光る。
    「ほう、ゴールドマンの関係者か。いきなり追われるってことは、公安か?」
    「詳しいな、じいさん」
    「ま、軍では情報収集を担当してたからな」
     それを聞いて、バートは目を見開いた。
    「本当か?」
    「嘘言ってどうする」
    (軍の諜報担当か……。シリンじゃないけど、直接聞いても何か知ってるかもな)
     バートは恐る恐る、老人に尋ねてみた。
    「じゃあさ、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いいか?」
    「何だ?」
    「殺刹峰って知らないか?」
     今度は老人がぎょっとする。
    「殺刹峰だと? アンタら、あれ調べてるのか」
    「知ってるのか?」
    「ああ。いや、わしもそれほど詳しくは無いが」
    「知ってる限りでいいんだ。教えてくれないか?」
    「……むう」
     老人は席を立ち、ソファのクッションをひっくり返した。
    「知りたがる奴なんぞいないと思っていたし、結構な機密だから、下手にばらせばわしの命が危ない。
     ……とは言え老い先短い命だ。教えて何か遭っても、寿命だと思うことにしよう」
     ソファのクッションからは何冊かのノートが出てきた。
     バートは椅子から立ち上がり、帽子を取って頭を下げた。
    「助かるぜ、じいさん」

     老人から話を聞き終え、また、老人のノートを受け取ったバートは、ペルシェの姿が無いことを確認しつつ、そっと家を出た。
    「ま、そのノートは持ってっていいからな。もうわしには必要ない」
    「ありがとよ。それじゃな」
    「おう。気を付けてな」
     バートは元来た道を引き返しつつ、その惨状を目の当たりにした。
    (ひっでーなー……)
     住民に被害は出ていないようだったが、ペルシェの通った跡は穴だらけ、石の槍だらけになっていた。
    「あ、アンタ!」
     バートの姿を見て、住民たちが声をかける。
    「うっ」
    「大丈夫だったか!?」
    「……へ?」
     ペルシェの関係者と思われて糾弾されるかと思いきや、どうやら一方的に追い回されていたと思ってくれたらしい(実際そうなのだが)。
    「いやー、災難だったなぁ」
    「一体何だったんだろうな、あの柿色女」
    「向こうの食堂は半壊したって言うし……」
     食堂、と聞いてバートはようやくシリンたちのことを思い出した。
     と、後ろからトントンと肩を叩かれる。振り返ると、心配そうに見つめるフェリオと、近くの屋台から買ったであろうリンゴをかじっているシリンの二人が立っていた。
    「……あ、お前ら。無事みたいだな」
    「先輩こそ、大丈夫だったんスか?」
    「おう。何とか撒いた」
     シリンは口をもぐもぐさせながら、バートにオレンジを渡す。
    「しゃくしゃく、ほい、オレンジ食べるー?」
    「シリン、お前なぁ……」
     バートは少し唖然としながらも、オレンジを受け取った。
    「この騒がしい時に、良く食えるな」
    「んぐ、いやホラ、『腹が減っては大変やー』って言うやん」
    「言わねーよ、……ハハ」
     あまりにのんきなシリンの態度に、バートも笑い出した。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    僕がクルマ大好きなことは周知のことかと思いますが、
    「蒼天剣」の中にもちょくちょく、クルマ関係の名前が付いたキャラが出てきます。
    一例を挙げると……
    ・バート・キャロル → バート自体は適当に付けた名前。「キャロル」はマツダの古いファミリーカー。
    ・フェリオ・ロードセラー → ホンダの人気車種「シビック」の、90年代セダンに付けられていたグレード名と、初代シビックのグレード「RS(ロードセイリング)」から。
    ・ジュリア・スピリット → イタリアのメーカー、アルファロメオの古いスポーツカー「ジュリア スプリント」から。
    ・エラン・ゴールドマン → イギリスのメーカー、ロータスの古いスポーツカー「エラン」。ちなみに金火狐の皆さんにはチラホラ、このメーカーから名前を拝借しているところが。

    うーん、ほんのちょっとこぼれ話をしようと思ったら、意外に長くなっちゃいました。
    続きはまた明日。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    名前に関しては、ポンと思い付く、と言うことができないもんで……。
    キャラ一人の名前を考えるのに、10分、20分かかってしまいます。

    NoTitle 

    名前は結構適当につけてますね。イメージでつけますね。イメージ。あるいは他の人に見て決めてもらうときもあります。
    結構考えて作るときは・・・ないですねえ・・・。

    NoTitle 

    本当に名前を付ける時、悩みますよね。
    ただ、名前に何らかの法則性を持たせて、クイズみたいにするのも、小さな楽しみの一つだったり。

    NoTitle 

    名前……難しいですよねえ……。

    わたしの場合、主役ふたりの名前を除いては、人物を登場させたとき、その場で口から出てきた語呂がよさそうで適当な名前をとっさにつける、といういきあたりばったりにもほどがある方式で長編を書いたなどとは恥ずかしくていえん(笑)。
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