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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・赤色録 2

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    晴奈の話、第312話。
    空飛ぶストーカー。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「始めまして、コウさん。僕の名前はレンマ・『マゼンタ』・アメミヤと言います。あ、こんな名前ですけど、央南人じゃないです」
    「は、あ」
     晴奈は敵と思しき青年からの意外な言葉に、どうしていいか分からず呆然としている。
    「義父が央南の血を引いてまして、僕の名前は央南っぽく付けていただいたんです。ちなみに央南語で書くと、『雨宮蓮馬』ってなります」
    「そう、か」
    「央南の哲学とか、思想とか、すごく好きでして。心は央南人のつもりです」
    「はあ、うん」
     レンマの話に、晴奈は相槌を打つしかない。
    「でですね、『央南の猫侍』こと、コウさんがこちらに来られていると、上官から聞きまして。それでこちらにお伺いさせていただいたんです」
    「そうか、……上官?」
     この辺りでようやく、晴奈の頭が回転し始めた。
    「はい。上官からはですね、『公安職員とその関係者を抹殺せよ』って命令されたんですけど、相手がコウさんじゃ、何て言うか、戦いたくないなーって」
    「……えーと、つまり、お主らは、その」
    「はい。殺刹峰から参りました」
     あまりにもあっけらかんと答えるレンマに、晴奈の頭はまた混乱する。
    「何と言うか……、うーむ」
    「あ、でもさっき言った通りですね、僕はコウさんを傷つけたくないんです。だからお願いなんですが」
     レンマはぺこりと頭を下げ、晴奈にとんでもないことを言った。
    「投降して、僕のお嫁さんになってください」
    「……は!?」
     晴奈は目を丸くする。
    「な、何をっ……?」「え、……え?」
     フォルナもエランも唖然としている。
    「ま、マゼンタ様?」
     レンマの部下らしき者たちもどよめいている。おまけに――。
    「あ、……アホだっ。真性のアホだね」
     物陰に隠れて晴奈たちを見守っていたモールも、ぽかんとしていた。

     周囲をこれでもかと凍りつかせたことをまるで気にせず、レンマはまくしたてる。
    「一目見た時から、いえ、あなたの伝説を聞いた時から、ずっとずっと好きでした! もう他の女の子なんか目に入りません! あなただけなんです! お願いします!」
    「……こ……の……」
     異常な状況に巻き込まれ、停止していた晴奈の頭が再度、回転する。顔を真っ赤にし、尻尾の毛を逆立たせながら、すっと右手を挙げた。
    「あ、握手ですか? いいってことですか?」「この、大馬鹿者がーッ!」
     晴奈は一足飛びにレンマとの間合いを詰め、彼の頬に平手打ちを食らわせた。
    「ひゃう!?」
    「ふっ、ふざけるのもっ、大概にしろっ! 何故私がっ、敵の妻にならねばならぬのだッ! 寝言は寝て言えッ!」
    「いてて……」
     思い切り平手打ちを食らったレンマは、頬をさすりながらつぶやく。
    「もう、照れ屋さんだなぁ」
    「……~ッ!」
     ニヤニヤしているレンマを見て、晴奈は総毛立った。
    (き……、気持ち悪い、この人!)(うわ、めっさ鳥肌立った!)
     フォルナとエランも、おぞましいものを見るような目でレンマを眺めている。
    「思っていたよりずっと、あなたは僕のタイプです! 今のでもっと、あなたのことが……」「がーッ!」
     晴奈はこらえきれず、レンマを蹴り倒した。
    「フォルナ、エラン! こっ、こんな、こんな阿呆を相手にしている暇など無い! 逃げるぞ!」
     まだ尻尾をいからせたまま、晴奈は駆け出した。
    「は、はい!」「ええ、了解ですわ!」
     フォルナたちも体中に吹き出た鳥肌をさすりつつ、晴奈についていった。
    「あー……、強烈だなぁ、ははは」
     晴奈の蹴りを腹に食らい、仰向けに倒れていたレンマは、何事も無かったようにひょいと起き上がった。
    「あ、あのー」
     レンマの部下たちも先ほどの晴奈たちと同様、遠巻きにレンマを見つめている。
    「ん? どうしたの?」
    「目標が、逃げましたが」
    「あ、うん。じゃ、追いかけようか」
     レンマは短く呪文を唱え、ふわりと浮き上がった。
    「『エアリアル』。……さぁ、セイナさん。待っててくださいねぇー」
     レンマは空高く浮き上がり、晴奈たちの逃げた方角へ飛んでいった。
     残された部下たちは顔を見合わせ、ぼそっとつぶやいた。
    「……やだ」「うん……」

     レンマは上空から、晴奈たち三人の動きをじっくり監視する。
    「あぁ……、可愛い人だ」
     レンマはニヤニヤしながら、晴奈の後姿をなめるように見つめた。
    「……っ」
     その視線に気付き、晴奈はそーっと後ろを振り返る。
    「げ」
    「いらっしゃいます、わ、ね」
    「は、早く逃げましょう、セイナさん!」
    「う、うむ」
     レンマに見つからないよう、三人は家屋の軒下や日陰、ひさしの下などを進む。だが、空中を飛び回る敵が相手では、隠れても隠れてもすぐに見つかってしまう。
    「みーつけたー」「ぎゃー!」
     見つかる度に晴奈は蹴り飛ばし、殴り飛ばし、しまいには刀まで使ってレンマを叩きのめす。ところが一向に、レンマはダメージを受けた様子が無い。
    「もう、焦らさないでくださいよぉー」「ひーっ!」
     倒れず迫ってくる、気色の悪い敵に気圧され、次第に晴奈は錯乱し始めた。
    「か、勘弁してくれぇ……」「セイナ、気をしっかり!」「あ、ああ」
     精神的に疲労し、晴奈の顔色はひどく悪い。
    「ど、どこか逃げる場所は……」
     フォルナもエランも、晴奈同様真っ青な顔になっている。
     と、晴奈の襟がいきなり引っ張られた。
    「ひ……っ」
    「落ち着けって! 私だね! とりあえず黙ってね! しばらく黙って!」
    「え、あ、え、モール、殿?」
    「黙れって!」
     後ろに突然現れたモールに、晴奈たちは目を白黒させながらも応じる。
    「……」
    「よし、私の服ちゃんとつかんで! 『インビジブル』!」
     モールが術を唱えた途端、晴奈たちの姿が透明になる。
    「……!?」
     いきなりの事態に晴奈たちは驚いたが、モールの言葉に従って口を堅く閉じる。
    (な、何なのだ、一体)
    《透明にする術だね》
     モールのローブをつかんでいた晴奈の腕に、モールのものと思われる指でそう書かれた。
    (透明? ……なるほど、これならば)
     そのままじっとしていると、上空にレンマの姿が現れた。
    「セイナさーん、どーこー?」
     レンマはしばらく空中を浮遊していたが、10分も経った頃、ようやく諦めたらしい。
    「いない……」
     レンマは非常にがっかりした顔で、よろよろと降下していった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    戦争で勲功を挙げたり、大会で準優勝したりと、
    それなりに活躍してますからねぇ。
    ただ、こんな形で人気者になるのは、晴奈も勘弁でしょうね。

    NoTitle 

    おお~~流石のセイナさんもここまで来ると有名人なんですね。
    冒険者で有名になるとそれこそかなりとびきりですよね。
    久しぶりに読ませていただいております。
    またよろしくお願いします。
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