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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・指導録 3

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    晴奈の話、33話目。
    スポ根?

    3.
     山小屋に到着した晴奈たちはとりあえず、休憩に入った。到着した時点で、良太が真っ青な顔でばてていたからである。
    「す、すいま、せん」
    「いいから。ともかく呼吸を整えろ」
    「は、いー」
     晴奈は良太の呼吸が整うまでの短い間、夕べ柊と交わした会話を思い返していた。



     良太が「自分を鍛え直して欲しい」と晴奈に請うた話を聞かされ、柊は頬に手を当ててうなっていた。
    「良太がそんなことを……」
    「任せていただいても、よろしいでしょうか?」
     話を聞いた柊は、腕を組んでもう一度うなる。
    「うーん……、そうねぇ、このままだと修行にならないし。……うん、お願いしようかな」
    「ありがとうございます」
    「お礼を言うのはわたしの方よ。
     ……まあ、重蔵先生からね、『こんなことを頼めるのは雪さんしかおらんでのぉ。どうか、あの子が将来困らんように指導してやってくれ』と言われたんだけど、その……。えっと、思った以上に、体力の無い子でね。いずれはわたしも、付きっきりで鍛えてやろうとは思っていたんだけど、……その、最近、ね、ちょっと、立て込んでいて」
     わずかに目をそらし、困ったような顔でつぶやく柊に、晴奈はドンと自分の胸を叩く。
    「お任せください、師匠。必ず、見違えるように鍛えてみせますよ」
    「ええ、お願いね。……あ、そうそう」
     柊は晴奈の猫耳に口を寄せ、そっとささやいてきた。
    「まあ、無いとは思うけど。油断しちゃダメよ」
    「はぁ……? 何を、油断すると?」
     晴奈の顔を見て、柊は呆れたような笑みを浮かべた。
    「……無いわよね、どう考えても」



    (任せてくれ、とは言ったものの)
     ようやく呼吸が落ち着き、汗を拭いている良太を見て、晴奈は心配になる。
    (山登りでこれか。改めて思うが、なかなか苦労しそうだな)

     ともかく、晴奈と良太の山ごもりは幕を開けた。
    「ほら、ばてるな! もっと根性見せろ!」
    「は、はひ」
     まずは、持久力を付けるための走り込み。やはり5分もしないうちに、良太は走ると言うより歩くと言った方がいいような状態になったが、そこで晴奈が活を入れる。
    「もっと足上げろッ!」
    「は、いっ」
     後ろから声をぶつけ、足を動かせる。
    「ほら、手も振れ! もっと息を吸え! 吐くより吸え!」
    「はい、っ、ハァ、すぅー、ハァ」
    「ほら、また足が上がってないぞ! 足上げろッ!」
     何度も足が止まりそうになっていたが、晴奈の活で何とか30分、良太は走り通した。

     次は竹刀の素振り。
    「まだ40回も行ってない! もっと腕を振り上げろ!」
    「は、ぁ……、はいっ」
     汗だくになり、上半身裸になった良太に、晴奈がまた活を入れる。
    「声が小さい!」
    「はい、っ! 38! 39! 4、0! よんじゅう、いち! よん、じゅう、に! よんじゅう、さん、よ、ん、じゅー……」
    「また腕が下がってる! 声出せ!」
    「45ッ!」
     これもつきっきりで晴奈がしごき、何とか素振り百回をやり通した。

     打って変わって、今度は良太が得意としている精神修養の一環、座禅。
    「……」「……」
     二人とも相手を見つめ合い、一言も発しない。
    「……」「……」
     しごかれ、疲労困憊のはずの良太はまったく、眠たげな気配を見せない。
    「……」「……」
     無論、晴奈も6年経験を積んでいるので、これしきのことで眠ったりはしない。
    「……」「……」
     木々のざわめきと互いの呼吸しか聞こえない小屋の中で、時間は刻々と過ぎていく。
     やがて西日が窓から差し込み、カラスの鳴く声が聞こえてきた。
    「……飯にしようか」「はい」



     その日の修行を終え、二人は夕食を作ることにした。
    「精神力だけは人並み以上だな。あれだけの時間をかけて、疲労を抱えていながら眠らずにおれるなど、そうそうできない」
    「そうですか。ありがとうございます」
     二人並んで台所に立ち、食材を切りながら雑談する。
    「体力も、声をかければかけるだけ絞り出せる。まったく無い、と言うわけでも無さそうだ。この調子なら毎日へこたれずに頑張れば、着実に鍛えられるだろう」
    「本当ですか」
     良太の声が嬉しそうに、台所に響く。
    「ああ。明日からも頑張ろう」
    「はいっ」

     食事も済み、日もすっかり落ちた頃、二人は床に就いた。当然また明日も、早朝から特訓である。
    「本当に、今日はありがとうございました」
    「『姉』の務めみたいなものだ。礼などいらぬ」
    「はは、はい……」
     うとうとしかけたところに、良太が楽しそうに声をかけてきた。
    「姉さん、かぁ。僕、兄弟がいないので、何だか嬉しいです」
    「そうか。まあ、明日も頑張れ、『弟』よ」
    「はい、姉さん」
     短い会話の後、二人ともすぐ眠りに就いた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.08 転載及び加筆修正
    2016.02.10 修正

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    2020.07.22 修正(コメント参照)
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    かれこれ10年以上の長期連載ですからね……。
    作者の自分でさえも、初期の話は結構忘れてしまっています。
    一応、「秘蔵の資料」なるものが存在しているので、
    トピックや時系列なんかの検索自体はできるんですがw

    ご指摘ありがとうございます。
    修正します。

    NoTitle 

    最近の連載読んでて細かい設定がわからなくなってきたので、あきらめて第一話からメモを取りながら再読中。

    ところで、作中現在512年秋~冬。晴奈の入門が506年だから、修業期間は7年じゃなくて6年じゃないかな、などと、考えんでもいいことを考えるもの也。

    NoTitle 

    なんだかんだ言っても一日中動いて疲れてますからね。

    NoTitle 

    v-395油断してたら先に居眠りしちゃってた
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