「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・赤色録 4
晴奈の話、第314話。
「マゼンタ」帰還報告。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
殺刹峰アジト。
「それでですね、逃げるセイナさんがまた可愛くて……」「レンマ君」
レンマからの帰還報告――ほとんどが晴奈についての感想だったが――を聞いていたモノはため息をつき、話をさえぎった。
「過程はもういい。結果を話したまえ」
「あ、はい。まあ、結局のところですが、逃げられまして。街中を探しても見つからなかったので、既にクロスセントラルへ発ったものと思われます」
「そうか。死亡した者は?」
「いません。全員無事です」
「コウとファイアテイルの攻撃を受けた兵士は?」
「帰還後、義父さんのところに運んで……」「それはやめてちょうだぁい」
レンマの背後に、いつのまにかオッドが立っていた。
「あ、義父さん」
「だーかーらぁ」
オッドはレンマの額を指で弾き、口をとがらせる。
「アタシを『おとーさん』なーんて呼ばないでちょうだいよぉ」
「あ、すみません。……えっと、ドクター。容態はどうでしょうか?」
オッドは手にしていたカルテをレンマとモノに見せる。
「痛みは感じてないみたいだけどぉ、顔面裂傷に頭蓋骨と脛骨、第一・第二・第三中足骨の骨折。それと大腿筋その他の断裂。大ケガよぉ」
「『マゼンタ』隊にも他の隊と同様の薬を投与していたのだな?」
「うんうん。ま、これと同程度のケガは他の隊もしてたしぃ、やっぱり薬だけじゃ十分な防御力を得られそうにはないみたいねぇ」
「今後の目標は耐久性、と言うわけだな」
モノはカルテをオッドに返し、短くメモを取った。
「うーん……」
オッドはカルテを抱え、パキパキと指を鳴らしている。
「どうした?」
「いえねぇ、実戦投入はまだ早かったんじゃないかなぁ、なーんてねぇ」
「ふむ」
オッドはレンマの横に座り、モノと向かい合う。
「『バイオレット』隊も兵士が1人逝っちゃったしぃ、こんなんじゃ最終計画の実行には程遠いわよぉ」
「……いや、しかし」
モノはオッドの目を見据え、わずかに口角を上げた。
「逆にこれは問題点の洗い出しを行い、最終計画実行を早めるチャンスかも知れん。公安と闘士たちが相手ならば、十分な実戦データが手に入るだろうからな」
「なるほどねぇ。相変わらずのプラス思考ねぇ、トーレンス」
「単に最大効率を検討し続けているだけだよ、シアン」
モノはそう言って席を立った。
残ったオッドとレンマはそのまま座っていたが、不意にレンマが口を開いた。
「ドクター、少し聞きたいことが」
「んっ?」
「その、何と言うか……」
妙にモジモジしているレンマを見て、オッドはウインクした。
「なぁに? 好きな子の話ぃ?」
「あぅ」
オッドに看破され、レンマの顔は真っ赤になった。
「アハハハ、まーた赤くなっちゃってぇ。……で、誰なのよぉ? フローラ? ミューズ? それともぉ……」
「……です」
「んっ?」
レンマはうつむきながら、想っている人の名を告げる。
「セイナさん」「ぶっ」
その名前を聞くなり、オッドは吹き出した。
「アンタねぇ……、よりによって敵ぃ?」
「はい」
「……アホねぇ」
オッドはため息をつきながら、レンマの額を突いた。
「んで、何を聞きたいのーぉ?」
「あのですね、思い切って告白してみたんです――あの、そんな、引っくり返って起き上がれない亀を見るような目、しないでくださいよ――でもですね、受け入れてくれなくて、ほら」
レンマは頭のコブをオッドに見せる。
「あーら、見事に腫れてるわねぇ」
「『ふざけるな』って怒られちゃったんですよ。……真剣なのに」
「そりゃアンタ、敵から『好きです。付き合ってください』なーんて言われたら断るでしょーよ、常識的に考えて」
「ですよね……。でも、やっぱり好きなんです。どうやったら、真剣だって分かってくれるんでしょう?」
もじもじするレンマを見て、オッドはまたため息をついた。
「論点ずれてるでしょぉ、それは。どうやって想いを伝えるかよりもぉ、どうやって付き合うかが問題でしょーぉ?」
「え、あー、……そうかも」
レンマは頭をポリポリとかきながら、また顔を伏せる。
「……アンタ、本っ当に『プリズム』の中で一、二を争うアホねぇ。アタシ、かなり心配になっちゃうわぁ」
オッドは三度ため息をつきながら、子供の頭を撫でた。
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「マゼンタ」帰還報告。
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殺刹峰アジト。
「それでですね、逃げるセイナさんがまた可愛くて……」「レンマ君」
レンマからの帰還報告――ほとんどが晴奈についての感想だったが――を聞いていたモノはため息をつき、話をさえぎった。
「過程はもういい。結果を話したまえ」
「あ、はい。まあ、結局のところですが、逃げられまして。街中を探しても見つからなかったので、既にクロスセントラルへ発ったものと思われます」
「そうか。死亡した者は?」
「いません。全員無事です」
「コウとファイアテイルの攻撃を受けた兵士は?」
「帰還後、義父さんのところに運んで……」「それはやめてちょうだぁい」
レンマの背後に、いつのまにかオッドが立っていた。
「あ、義父さん」
「だーかーらぁ」
オッドはレンマの額を指で弾き、口をとがらせる。
「アタシを『おとーさん』なーんて呼ばないでちょうだいよぉ」
「あ、すみません。……えっと、ドクター。容態はどうでしょうか?」
オッドは手にしていたカルテをレンマとモノに見せる。
「痛みは感じてないみたいだけどぉ、顔面裂傷に頭蓋骨と脛骨、第一・第二・第三中足骨の骨折。それと大腿筋その他の断裂。大ケガよぉ」
「『マゼンタ』隊にも他の隊と同様の薬を投与していたのだな?」
「うんうん。ま、これと同程度のケガは他の隊もしてたしぃ、やっぱり薬だけじゃ十分な防御力を得られそうにはないみたいねぇ」
「今後の目標は耐久性、と言うわけだな」
モノはカルテをオッドに返し、短くメモを取った。
「うーん……」
オッドはカルテを抱え、パキパキと指を鳴らしている。
「どうした?」
「いえねぇ、実戦投入はまだ早かったんじゃないかなぁ、なーんてねぇ」
「ふむ」
オッドはレンマの横に座り、モノと向かい合う。
「『バイオレット』隊も兵士が1人逝っちゃったしぃ、こんなんじゃ最終計画の実行には程遠いわよぉ」
「……いや、しかし」
モノはオッドの目を見据え、わずかに口角を上げた。
「逆にこれは問題点の洗い出しを行い、最終計画実行を早めるチャンスかも知れん。公安と闘士たちが相手ならば、十分な実戦データが手に入るだろうからな」
「なるほどねぇ。相変わらずのプラス思考ねぇ、トーレンス」
「単に最大効率を検討し続けているだけだよ、シアン」
モノはそう言って席を立った。
残ったオッドとレンマはそのまま座っていたが、不意にレンマが口を開いた。
「ドクター、少し聞きたいことが」
「んっ?」
「その、何と言うか……」
妙にモジモジしているレンマを見て、オッドはウインクした。
「なぁに? 好きな子の話ぃ?」
「あぅ」
オッドに看破され、レンマの顔は真っ赤になった。
「アハハハ、まーた赤くなっちゃってぇ。……で、誰なのよぉ? フローラ? ミューズ? それともぉ……」
「……です」
「んっ?」
レンマはうつむきながら、想っている人の名を告げる。
「セイナさん」「ぶっ」
その名前を聞くなり、オッドは吹き出した。
「アンタねぇ……、よりによって敵ぃ?」
「はい」
「……アホねぇ」
オッドはため息をつきながら、レンマの額を突いた。
「んで、何を聞きたいのーぉ?」
「あのですね、思い切って告白してみたんです――あの、そんな、引っくり返って起き上がれない亀を見るような目、しないでくださいよ――でもですね、受け入れてくれなくて、ほら」
レンマは頭のコブをオッドに見せる。
「あーら、見事に腫れてるわねぇ」
「『ふざけるな』って怒られちゃったんですよ。……真剣なのに」
「そりゃアンタ、敵から『好きです。付き合ってください』なーんて言われたら断るでしょーよ、常識的に考えて」
「ですよね……。でも、やっぱり好きなんです。どうやったら、真剣だって分かってくれるんでしょう?」
もじもじするレンマを見て、オッドはまたため息をついた。
「論点ずれてるでしょぉ、それは。どうやって想いを伝えるかよりもぉ、どうやって付き合うかが問題でしょーぉ?」
「え、あー、……そうかも」
レンマは頭をポリポリとかきながら、また顔を伏せる。
「……アンタ、本っ当に『プリズム』の中で一、二を争うアホねぇ。アタシ、かなり心配になっちゃうわぁ」
オッドは三度ため息をつきながら、子供の頭を撫でた。
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