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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・赤色録 5

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    晴奈の話、第315話。
    お酒の飲み方。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     レンマが「フォルナ班は既にエンジェルタウンを離れたもの」と見なし、あっさりと撤退していったため、晴奈たちは何事も無かったかのように、まだエンジェルタウンに滞在していた。
     と言っても現在はクロスセントラルへ向かう準備を終えて、最後の宿を取ったところである。
    「残念でしたねー、何も情報が無くて」
     エランがほぼ真っ白なメモ帳を眺め、がっかりした声を上げる。
    「まあ、仕方ないさ。襲撃もかわせたし、可もなく不可もなくと言った具合だな」
     ベッドの上で刀の手入れをしていた晴奈が、のんびりとした口調でエランに相槌を打つ。
     数日間の情報収集による疲れを取るため、三人は早めに宿を取っていた。フォルナも他の二人と同様に気が抜けた様子で、ベッドの上に寝転んでいる。
    「ふあ、あ……」
     横になっていたので、眠気もやってくる。
    「すみませんがわたくし、先にお休みさせていただきますわ」
    「あ、はーい」「おやすみ、フォルナ」
     フォルナはするりとベッドに入り込み、すぐに眠り始めた。

    「……ん」
     のどの渇きを感じ、フォルナは目を覚ました。部屋の灯りは落ち、晴奈もエランも眠りに就いている。
    (お水、飲もうっと)
     横で寝ている晴奈を起こさないよう、そっとベッドを抜け出し、部屋の外に出る。
     階下の食堂にはまだ、酒を呑んでいる者がチラホラと見える。フォルナはふと、去年のことを思い出した。
    (そう言えば、わたくしが始めてお酒を呑んだのって、セイナとコスズさんと、一緒に旅を始めた頃だったわね)
     フォルナの脳裏に、リトルマインでの出来事が蘇ってくる。三人で温泉に入り、初めて口にしたワインの味を思い出し、思わずフォルナののどが鳴った。
    (……久しぶりにお酒、呑んでみようかしら)
     フォルナはふらっと、カウンターに着いた。
    「いらっしゃいませ」
    「えっと、ワインを」
    「ワインですか? 赤と白、どっちに?」
    「え?」
     バーテンダーに問われ、フォルナは戸惑う。その様子を見たバーテンダーが、妙な顔をした。
    「どうしました?」
    「あ、いえ。……えっと、じゃあ、白で」
    「はい」
     バーテンダーは後ろを振り返り、瓶とグラスを取る。
    「お客さん、あんまり呑み慣れてなさそうですね」
    「あ、はい。あまり呑んだことがなくて」
    「何でまた、今日は呑もうと思ったんですか?」
     そう問われ、フォルナは考え込む。
    「えっと……、何となく、ですわね。昔の旅を思い出して、呑みたくなりましたの」
    「そうですか。……はい、軽めのものをご用意しました」
     バーテンダーが差し出したグラスを手に取り、フォルナは礼を言う。
    「ありがとうございます。……それでは」
     口をつけようとして、不意に小鈴が言った言葉を思い出す。
    ――フォルナ、お酒はそーやって呑むもんじゃないわよ。もっとゆーっくり、味わって呑まなきゃ。そんな『これから死地に飛び込みます』みたいな顔で呑んじゃダメだってば。お酒に失礼よ――
    (そうそう、『ゆーっくり』、だったわね)
     グラスに鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅ぐ。しっとりとしたブドウの香りが、鼻腔一杯に広がっていく。
    「はぁ……」
     続いて、口に含む程度にワインを呑む。わずかな酸味と刺激の後に、くっきりとした甘さが感じられた。
    「美味しい」
    「……ヒュー」
     フォルナの呑む様子を眺めていたバーテンダーが、感心した顔で口笛を吹いた。
    「え?」
    「あ、いや。綺麗に呑む方だと思いまして、つい」
    「あら、ありがとうございます」
     にっこりと笑うフォルナに、バーテンダーの顔もほころんだ。

    「……い、おーい」
     いつの間にか眠ってしまったらしい。フォルナは肩をゆすられ、目を覚ました。
    「ん……、う、ん?」「起きたか、フォルナ」
     顔を上げると、晴奈の口とのど元が視界に入る。
    「ええ、はい……。ちょっと、まぶたが重たいですけれども」
    「出発まで5時間ほどある。もう少し眠るか?」
    「ええ。……いたっ」
     晴奈に手を借り、立ち上がろうとしたところで、ひどい頭痛に襲われる。
    「どれだけ呑んだ?」
    「え? えっと……」
     皿を洗っていたバーテンダーが、フォルナの代わりに答える。
    「ワイン半分くらいですね。……起こすのも悪いかなと思って、ガウンだけかけておきましたけど」
    「そうか、すまなかったな」
    「いえ……」
     晴奈はバーテンダーにガウンを返し、フォルナの側にしゃがみ込む。
    「立てるか?」
    「え、……と。すみません、足に力が入りませんわ」
    「そうか」
     晴奈はフォルナの体を起こし、そのまま背負い込む。
    「部屋まで送ってやる」
    「ありがとう、ござぃ……」
     ありがとうございます、と言ったつもりだったが、語尾が自分でも分かるくらい、非常に弱々しかった。
    「水臭いな、フォルナ」
     晴奈はクスッと笑う。
    「お主と私の仲では無いか」
    「ええ、そぅ……」
     何か言おうとしたが、やはり最後まで言い切れない。フォルナはしゃべるのを諦め、晴奈の肩にしがみついた。

     なお、この数時間後にフォルナは目を覚ましたが、二日酔いは治らなかった。仕方ないので、晴奈たちはもう一日宿泊することになった。
     レンマ隊に襲われたことと、この出来事以外は特に何事も無かったかのように、フォルナ班は首都への歩を進めた。



     しかし――彼女たちはまだ、重大なことが静かに起きていたことに、この時点ではまったく気付いていなかった。

    蒼天剣・赤色録 終
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    何を隠そう、自分もお酒は大好きです。
    機会があれば一度、ご一緒したいですね。

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    ちなみに酒は夜勤入り以外は毎日飲んでおります。
    地方では酒豪と有名だったりします。
    私の作品にバーが多いのはその関係だったりします。
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