「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・紫色録 4
晴奈の話、第319話。
もう一名の敵将。
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4.
「……うん?」
と、これまで飄々とした態度で尋問を続けていた楢崎が、急に渋い表情を浮かべ、外に目を向けた。
「藤田くん。外の連中は、君の知り合いかな?」
「え」
楢崎の言葉に、モエも外に目を向ける。
「……! え、え!? 何で!?」
モエは立ち上がり、外へと飛び出して行く。
「待ちなさ……」「待った、ジュリア君!」
止めようとしたジュリアをさえぎり、楢崎が耳打ちした。
「囲まれているよ。恐らくは20名ほど。下手に飛び出せば、蜂の巣にされてしまう」
「そう、ですか」
耳打ちされたジュリアは冷静に振る舞ってはいるが、途端に口数が少なくなる。小鈴も顔に緊張の色を浮かべながら、ジュリアに尋ねた。
「で、コレはピンチってヤツよねぇ?」
「……そうなるわね」
店の外に飛び出したモエは、店を囲んでいた兵士たちを見回す。先程散開させた自分の部下たちに混じり、他の隊長が従えている兵士も並んでいる。
「あなたたち、どうしてここに!? この街には『バイオレット』隊だけが来ることになっていたはずよ!?」
「ドミニク先生からの指令です。内緒にしろと言われていましたけど」
兵士たちの後ろから、青い髪の猫獣人が姿を現した。
「ネイビー!?」
「どうも、モエさん。その焦りようからすると、割と危ないところだったみたいですね」
「そ、そう、だけど。でも、……どう言うことなの? ドミニク先生は、私に任せるって」
「ええ。確かに、『特にトラブルが発生しなければ、見守っていなさい』と言われていましたけど。けど今、あなたは一人。間違いなく、トラブルに見舞われています。
それともモエさん、あなたは一人でこの状況を切り抜けられましたか? もしそうなら、『余計なことをしました』って謝りますけど」
ネイビーの涼しげで穏やかな青い目に見つめられ、モエはうなだれた。
「……ええ、そうね。確かに今、私はピンチに陥っていたわ。ありがとう、ネイビー」
「いえ、お気になさらず。それで敵の話ですけど、皆さんこの店の中ですか?」
「ええ、中にいるわ」
「それじゃ、占拠しましょう」
ネイビーはそう言うと、周りの兵士たちに合図を送った。
「『インディゴ』隊、作戦開始です。この店をただちに制圧してください」
「はい!」
兵士たちはネイビーに敬礼し、一斉に店へとなだれ込んだ。
が、1名戻ってくる。
「『インディゴ』様、敵がおりません!」
「え?」
「嘘でしょ?」
ネイビーとモエも店の中に入る。
「ひ……」
「な、何なんだアンタたちは」
「何もしないから、その槍下げてくれよ……」
モエたちは怯える店員と客たちを眺めたが、既に小鈴たちの姿は無かった。
「あーぶない、危ない」
慌てて屋根裏に回った小鈴たちは、下の様子に耳を傾けながら屋根板をはがしていた。
「もう少し入ってくるのが早かったら、捕まってたわね」
「ええ、そうね。……ナラサキさん、どうですか?」
「うん、もう少しで斬れそうだ」
楢崎が刀でゴリゴリと屋根瓦と下地をはがしている間に、小鈴は下に穴を開けて様子を伺う。
「あ、さっきのモエって子がいる。キョロキョロしてるわね」
「どうやら、あの『猫』が手助けをしたみたいね」
モエの横にはネイビーが立っており、二人は何か会話をしているように見える。
「じゃあ……みんな……」
「ええ……けど……」
だが制圧されているとは言え、普段から騒々しい食堂の中である。二人の会話は良く聞き取れない。
そうこうするうち、楢崎が屋根に穴を開けた。
「よし、開いた。脱出しよう」
「ええ。応援が駆けつけたってコトはさっきの階段も修復されてるでしょうし、そこから逃げましょ」
「そうしましょう」
三人は敵の包囲をかいくぐり、素早く街を脱出した。
食堂の中で、モエはネイビーに詰問していた。
「ねえ、ネイビー。詳しく聞きたいことがあるの」
「何でしょう?」
「初めから、……私たちがこの街に来る前から、あなたは私たちをつけていたの?」
そう尋ねられ、ネイビーは一瞬視線をそらす。
「……まあ、その通りです」
「そう……」
モエはそれを聞いて、非常に嫌な気分を覚えた。それを察したネイビーが、ゆっくりとした口調で弁解する。
「でも、モエさんたちの力を信じていないわけではありませんよ。もう一度言っておきますけど、『ピンチにならない限り傍観していなさい』と念押しされていましたから」
「それは、良く分かってる。でも、なぜ? なぜ私たちに、そんな監視をつけたの?」
「……実は、モエさんたちだけじゃないんです。他の2隊にも、同様に別働隊をつけていたんですよ」
思いもよらないことを聞き、モエは目を丸くした。
「私たち? じゃあ、レンマやペルシェにも、みんなに?」
「ええ、みなさんに。ですけど多分、レンマくんもペルシェさんも、そんなのがいたことにすら、気付いてないと思います」
「なぜそんなことを……?」
「確実性、です。念には念を入れて、自分たちを脅かす存在を消しておきたいと仰っていました」
「それほどの敵だと言うの?」
いぶかしがるモエに、ネイビーは短くうなずいた。
「用心し過ぎると言うことは無いと思います。
ともかく彼ら9名は何の情報も持ち帰らせず、この地で死んでもらわないと困りますから」
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もう一名の敵将。
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「……うん?」
と、これまで飄々とした態度で尋問を続けていた楢崎が、急に渋い表情を浮かべ、外に目を向けた。
「藤田くん。外の連中は、君の知り合いかな?」
「え」
楢崎の言葉に、モエも外に目を向ける。
「……! え、え!? 何で!?」
モエは立ち上がり、外へと飛び出して行く。
「待ちなさ……」「待った、ジュリア君!」
止めようとしたジュリアをさえぎり、楢崎が耳打ちした。
「囲まれているよ。恐らくは20名ほど。下手に飛び出せば、蜂の巣にされてしまう」
「そう、ですか」
耳打ちされたジュリアは冷静に振る舞ってはいるが、途端に口数が少なくなる。小鈴も顔に緊張の色を浮かべながら、ジュリアに尋ねた。
「で、コレはピンチってヤツよねぇ?」
「……そうなるわね」
店の外に飛び出したモエは、店を囲んでいた兵士たちを見回す。先程散開させた自分の部下たちに混じり、他の隊長が従えている兵士も並んでいる。
「あなたたち、どうしてここに!? この街には『バイオレット』隊だけが来ることになっていたはずよ!?」
「ドミニク先生からの指令です。内緒にしろと言われていましたけど」
兵士たちの後ろから、青い髪の猫獣人が姿を現した。
「ネイビー!?」
「どうも、モエさん。その焦りようからすると、割と危ないところだったみたいですね」
「そ、そう、だけど。でも、……どう言うことなの? ドミニク先生は、私に任せるって」
「ええ。確かに、『特にトラブルが発生しなければ、見守っていなさい』と言われていましたけど。けど今、あなたは一人。間違いなく、トラブルに見舞われています。
それともモエさん、あなたは一人でこの状況を切り抜けられましたか? もしそうなら、『余計なことをしました』って謝りますけど」
ネイビーの涼しげで穏やかな青い目に見つめられ、モエはうなだれた。
「……ええ、そうね。確かに今、私はピンチに陥っていたわ。ありがとう、ネイビー」
「いえ、お気になさらず。それで敵の話ですけど、皆さんこの店の中ですか?」
「ええ、中にいるわ」
「それじゃ、占拠しましょう」
ネイビーはそう言うと、周りの兵士たちに合図を送った。
「『インディゴ』隊、作戦開始です。この店をただちに制圧してください」
「はい!」
兵士たちはネイビーに敬礼し、一斉に店へとなだれ込んだ。
が、1名戻ってくる。
「『インディゴ』様、敵がおりません!」
「え?」
「嘘でしょ?」
ネイビーとモエも店の中に入る。
「ひ……」
「な、何なんだアンタたちは」
「何もしないから、その槍下げてくれよ……」
モエたちは怯える店員と客たちを眺めたが、既に小鈴たちの姿は無かった。
「あーぶない、危ない」
慌てて屋根裏に回った小鈴たちは、下の様子に耳を傾けながら屋根板をはがしていた。
「もう少し入ってくるのが早かったら、捕まってたわね」
「ええ、そうね。……ナラサキさん、どうですか?」
「うん、もう少しで斬れそうだ」
楢崎が刀でゴリゴリと屋根瓦と下地をはがしている間に、小鈴は下に穴を開けて様子を伺う。
「あ、さっきのモエって子がいる。キョロキョロしてるわね」
「どうやら、あの『猫』が手助けをしたみたいね」
モエの横にはネイビーが立っており、二人は何か会話をしているように見える。
「じゃあ……みんな……」
「ええ……けど……」
だが制圧されているとは言え、普段から騒々しい食堂の中である。二人の会話は良く聞き取れない。
そうこうするうち、楢崎が屋根に穴を開けた。
「よし、開いた。脱出しよう」
「ええ。応援が駆けつけたってコトはさっきの階段も修復されてるでしょうし、そこから逃げましょ」
「そうしましょう」
三人は敵の包囲をかいくぐり、素早く街を脱出した。
食堂の中で、モエはネイビーに詰問していた。
「ねえ、ネイビー。詳しく聞きたいことがあるの」
「何でしょう?」
「初めから、……私たちがこの街に来る前から、あなたは私たちをつけていたの?」
そう尋ねられ、ネイビーは一瞬視線をそらす。
「……まあ、その通りです」
「そう……」
モエはそれを聞いて、非常に嫌な気分を覚えた。それを察したネイビーが、ゆっくりとした口調で弁解する。
「でも、モエさんたちの力を信じていないわけではありませんよ。もう一度言っておきますけど、『ピンチにならない限り傍観していなさい』と念押しされていましたから」
「それは、良く分かってる。でも、なぜ? なぜ私たちに、そんな監視をつけたの?」
「……実は、モエさんたちだけじゃないんです。他の2隊にも、同様に別働隊をつけていたんですよ」
思いもよらないことを聞き、モエは目を丸くした。
「私たち? じゃあ、レンマやペルシェにも、みんなに?」
「ええ、みなさんに。ですけど多分、レンマくんもペルシェさんも、そんなのがいたことにすら、気付いてないと思います」
「なぜそんなことを……?」
「確実性、です。念には念を入れて、自分たちを脅かす存在を消しておきたいと仰っていました」
「それほどの敵だと言うの?」
いぶかしがるモエに、ネイビーは短くうなずいた。
「用心し過ぎると言うことは無いと思います。
ともかく彼ら9名は何の情報も持ち帰らせず、この地で死んでもらわないと困りますから」



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