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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第2部

    蒼天剣・指導録 4

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    晴奈の話、34話目。
    師匠のみょーな心配と、家元の検分。

    4.
     晴奈と良太が山ごもりを始め、一ヶ月が経った。
    「走れ! もっと足上げろ!」「はいっ!」
     初日はすぐにへたり、走ることもままならなかった良太だが、このしごきに体が慣れてきたのか、(多少手足の動きは鈍ったままだが)走り切れるようになった。
    「もう少しで百だ! 後20回、こらえろ!」「はい!」
     まともに30回できなかった素振りも、今は何とか60辺りまで、無難にこなせる。
     晴奈の特訓は、着実に実を結んでいた。

     その夜。
    「そろそろ、山を降りるとするか」
    「え?」
     床に入ったところで、晴奈が声をかけた。
    「この一月、お前はよく頑張った。最初の頃より大分、力は付いたろう。もう皆と同じように稽古をつけても、置いていかれるようなことはあるまい」
    「そうですか……」
     なぜか、良太の声は寂しそうだった。その沈んだ声をいぶかしがりつつも、晴奈はそれ以上何も言わなかった。
     話が途切れて10分も経った頃、良太の方から沈黙を破った。
    「……昔」
    「ん?」
    「昔、僕の母は紅蓮塞にいたそうです」
     唐突に、良太は自分の身の上を語り始めた。
    「でも、おじい様とケンカして出て行ったと、母から聞きました」
    「そうか」
    「母はその後央南を転々とし、やがて玄州の天玄で父と結婚しました。そして僕が生まれたんですが、その後……」
     その口ぶりから、晴奈は良太の家に、何か悲劇があったのだろうと勘付いた。そして良太の口から、予想通りの言葉が出てくる。
    「両親とも、亡くなりました。僕がいない間に、……強盗に襲われて。
     事情を聞いたおじい様は、僕を引き取ってくれました。そして『自分の力で、自分を守れるように精進しなさい』と」
    「……そうか」
    「あの……」
    「ん?」
     良太はそこで、口ごもる。
    「……あの、……いえ。その、一ヶ月の間、ありがとうございました」
     何かを言おうとしたようだが、晴奈はあえて尋ねようとはしなかった。
    「ああ。また何かあれば、何でも相談してくれ」



     翌朝、晴奈たちは山を降り、久々に紅蓮塞へと帰ってきた。そのまま柊のいる部屋まで向かい、二人で修行の成果を報告した。
    「師匠、ただいま戻りました」
    「おかえり、晴奈。それで、良太は強くなった?」
    「ええ、それなりに。紅蓮塞での修行にも耐えられるでしょう」
     それを聞いた柊は、嬉しそうに微笑んだ。
    「良かった。そっちの方はもう安心ね」
     晴奈は柊の言葉を聞き、首をかしげた。
    「そっち、とは?」
     聞いた途端、柊は困ったような顔をした。
    「あ、えーと、その。……無いとは、思うんだけどね」
    「ん?」
     柊は晴奈の猫耳に口を寄せ、そっと尋ねてきた。
    「何にも、無かったわよね?」
    「は? ですから、十分鍛えられたかと」
    「……無さそうね。良かった良かった」
    「?」

     続いて家元、重蔵にも同様に報告する。
     重蔵は柊のように変な勘繰りもせず、素直に喜んだ。
    「そうか、そうか。これで一安心じゃな。
     まあ、少し見てみようかの。二人とも、そこで待っていなさい」
     そう言うなり、重蔵は立ち上がって部屋を出る。
     良太はきょとんとした顔で、晴奈に尋ねる。
    「見てみるって一体、何でしょうか?」
    「実力が付いたかどうかを、だろう」
    「はあ……」
     まだ具体的に何をされるのか分かっていないらしく、良太は首をかしげた。
    「見る……、か? どうやって見るんだろう?」
    「とりあえず」
     晴奈はそっと立ち上がり、部屋の端で座り直した。
    「え?」
     立ち上がりかける良太を手で制しつつ、晴奈はこう助言する。
    「得物は手元に近付けておけ」
    「……あ、なるほど」
     そこで良太も、何が起きるか気付いたらしい。慌てて傍らに置いていた木刀を手に取り、周りの気配を伺うように、きょろきょろと見回す。
     その瞬間、晴奈は何かを感じ取った。
    (ふむ……? 不思議な奴だな。あれだけひ弱なくせに、ここで急に一端の剣気――手練が戦いに臨む際、自然と発するような、そんな空気を帯び始めた。
     多少侮っていたが、やはりこいつも焔の血筋と言うことか?)
     良太を包む空気が変化する。それまで怯え、戸惑う兎のようだった目に、緊急を感じ取っている輝きが、ちらちらと浮かんでくる。
    (しかし、それだけが理由では無さそうだ。
     この目は勇猛果敢に敵を打ち砕く虎とも、圧倒的な威圧感で獲物を狩る狼とも違う、どこか切迫した目つきだ。
     例えるなら、手負いの獣。修羅場を潜り、憔悴しきった羊のような……?)
     晴奈は腕を組みながら、じっと良太を見ていた。

     と、唐突に天井が開き、そこから重蔵が槍を持って飛び込んできた。
    「!」
    「せやあッ!」
     重蔵は飛び込んでくると同時に、槍を振り下ろしてくる。
     良太は目を見開きながら、バタバタと後ろに下がる。間一髪避けることはできたが、休む間も無く重蔵が二撃目を繰り出す。
    「そりゃッ!」
    「……ッ!」
     良太は声も上げず、鞘に収めたままの刀でそれを防ぐ。
    「それ、もう一丁ッ!」
     バンと床を蹴る音とともに、槍がもう一度良太に向かって伸びる。
    「うわ、っ」
     刀を抜けないまま、良太はもう一度鞘で防ごうとした。
    「あ、まずい良太」
     黙って成り行きを見ていた晴奈は、そこで声を漏らす。
     重蔵の槍は良太の鞘のすぐ手前でいきなり、ぴょんと跳ねた。
    「えっ」
     そのまま拳一つほど進んだところで、槍の穂先が勢い良く下がる。バチ、と言う音が響き、良太の刀ははたき落とされてしまった。
    「あ……」
    「ふーむ。晴さん、どれくらいじゃろ?」
     問われた晴奈は、二人が仕合った時間を答える。
    「7、いえ、8秒だったかと」
    「8秒か」
     良太の鼻先に槍を当てたまま、重蔵はぽつりとつぶやいた。
    「まだまだ、じゃなー」
     重蔵は槍を床の間に立てかけ、元の位置に座った。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.08 転載及び加筆修正
    2016.02.10 修正
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    NoTitle 

    オクテな彼女に、子犬のように付き従ってくれる異性の弟子。
    キュンと来たかも分かりませんね。

    NoTitle 

    師匠は良太が好みだったのかv-398

    NoTitle 

    DE・波瑠間さま
    かっこよくて凛々しい。まさに晴奈の理想、「柊雪乃」像ですね。
    理想の自分なんでしょうね。

    ちなみに晴奈はまだ「師匠」ではなかったり。
    言うなれば、クラスを受け持ってない教諭みたいなものです。

    おはようございます 

    黄輪さま   『晴奈』めちゃくちゃ肝がすわって師匠しちゃってますね。台詞のいいまわしまで別人のように成長してしまって―― 柊以上に凛々しく感じられます。 でも、相手の表情を覗うように「うん?――うん?」と頷くあたりは女性らしい優しさも漂わせてます。
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