「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第6部
蒼天剣・九悩録 5
晴奈の話、第325話。
RS作戦の全容。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
非公式な作戦とは言え、軍は秘密裏にこの作戦をバックアップしてくれていた。
ドミニクが上官を排除し、代わりに隊長となったことも容認し、改めて全面的支援を行うと通達してきた。それを受け、ドミニクは軍に次のような要請を送った。
まず、標的である大火の情報。彼の経歴や関わった戦争・事件から、よく出没する場所、戦闘スタイル、嗜好、果ては彼を題材にしたおとぎ話まで、あらゆる情報を集めさせた。
そして人員の増員。軍が誇る凄腕の魔術師を作戦部隊に追加させた。
その上でさらに、情報を集め――。
「すごい量ですね」
「まあな」
大量の文書に埋もれるドミニクを見て、部下が驚いた声を上げる。
「これ全部、『黒い悪魔』の?」
「そうだ」
「あれから1ヶ月が経ったんですが」
「ああ」
部下は心配そうな目で、ドミニクを見つめてきた。
「……その、行動しないのですか?」
「まだだ。まだ万全ではない。今しばらく、訓練を続けてくれ」
それを聞いて、部下はさらに心配そうな顔をする。
「勝算はありそうですか?」
「15%、いや、10%か」
数字を聞かされ、部下はがっかりした顔をする。
「たった、それだけなんですか?」「……だが」
ドミニクは口ヒゲを触りながら、ニヤリと笑った。
「もう1ヶ月の猶予を私にくれればそれを5倍、50%ほどにできる」
「……分かりました。待ちます」
その自信たっぷりな様子に安心したらしく、部下は敬礼し、ドミニクの部屋を出た。
ドミニクは大火の情報を集めるうち、いくつかの有力な情報を得た。
(318年、北方のブラックウッドで元反乱軍とカツミとの、最後の戦い。結果的には勿論、カツミの勝利。
だが敵リーダーである『猫姫』ことサンドラ氏が戦闘中、正体不明の術を使用。これによりカツミは負傷したと、記録にはある。後の研究・検証によれば、サンドラ氏の使った術は恐らく、『雷』の術であったのではないか、……か。そうか、『雷』の術は有効なのだな。
また、南海でのトライン導師との戦いで、カツミは一度敗れている。後に逆襲したとは言え、カツミが倒されたのは事実。……それも、『風』の術で。
稀代の魔術師と称されるあの男が、魔術による戦いで二度も苦戦しているのか。ならば、魔術をメインに据えた布陣を敷けば、あるいは……?)
ドミニクの頭の中に、大火を倒すシナリオが組み立てられていった。
そして499年、12月19日深夜。
ドミニクの部隊は、大火が央北の商業都市、サウストレードに滞在していることを突き止め、静かにその街へと向かった。
《『弓』より『金矢1』へ、『鴉』の様子は?》
散開し、あちこちで見張らせている部下たちとドミニクは、手信号で合図しあう。
《『金矢1』より『弓』へ、現在『鴉』は大交渉記念ホール前の広場で停止しています》
《了解。『弓』より『銀矢1~3』へ、包囲準備は万全か?》
追加で部隊に編入させた魔術使いの兵士に、最終確認を行う。
《『銀矢1』より『弓』へ、準備整いました》
《了解。『金矢1~5』へ、強襲準備は万全か?》
元から参加していた兵士たちからも、「準備が整った」と返事が返ってきた。
《了解。……『矢』に告ぐ。作戦開始だ》
ドミニクが手を挙げると同時に、大火がいる広場で炸裂音が響いた。
(始まった……。いよいよ作戦が、始まってしまった。
カツミは魔術攻撃に対して、相当無防備らしい。それは二度の苦戦で、明らかにされている。自身が優れた魔術師であるが故に、他人の術など評価にも値しないのだろう。
だが、そこが何よりの隙なのだ――一瞬でも奴の魔力を上回る攻撃ができれば、奴の油断も重なって、かなりの打撃になる。そこで畳み掛けられれば、勝機は見出せる!
そのために、軍へかなりの無理を注文した。魔力を引き上げるための装備拡充、瞬間的に術の威力を高めるブースト術の開発、3名の魔術兵の連携、さらには歩兵たちに対魔術用の重装備を――恐ろしく費用がかかった。この作戦が失敗すれば、私が軍を追い出されるのは必至だろう。
……ははは、それよりもカツミに殺される方が先か)
「神に祈ってどうなる」と前任者に怒鳴りつけたドミニクだったが、今この瞬間、彼は懸命に祈りを捧げていた。
(神よ、どうか私に明日の朝日を見させてください。
どうかこの、『鴉狩り(レイブンシュート)』を成功させてください)
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RS作戦の全容。
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非公式な作戦とは言え、軍は秘密裏にこの作戦をバックアップしてくれていた。
ドミニクが上官を排除し、代わりに隊長となったことも容認し、改めて全面的支援を行うと通達してきた。それを受け、ドミニクは軍に次のような要請を送った。
まず、標的である大火の情報。彼の経歴や関わった戦争・事件から、よく出没する場所、戦闘スタイル、嗜好、果ては彼を題材にしたおとぎ話まで、あらゆる情報を集めさせた。
そして人員の増員。軍が誇る凄腕の魔術師を作戦部隊に追加させた。
その上でさらに、情報を集め――。
「すごい量ですね」
「まあな」
大量の文書に埋もれるドミニクを見て、部下が驚いた声を上げる。
「これ全部、『黒い悪魔』の?」
「そうだ」
「あれから1ヶ月が経ったんですが」
「ああ」
部下は心配そうな目で、ドミニクを見つめてきた。
「……その、行動しないのですか?」
「まだだ。まだ万全ではない。今しばらく、訓練を続けてくれ」
それを聞いて、部下はさらに心配そうな顔をする。
「勝算はありそうですか?」
「15%、いや、10%か」
数字を聞かされ、部下はがっかりした顔をする。
「たった、それだけなんですか?」「……だが」
ドミニクは口ヒゲを触りながら、ニヤリと笑った。
「もう1ヶ月の猶予を私にくれればそれを5倍、50%ほどにできる」
「……分かりました。待ちます」
その自信たっぷりな様子に安心したらしく、部下は敬礼し、ドミニクの部屋を出た。
ドミニクは大火の情報を集めるうち、いくつかの有力な情報を得た。
(318年、北方のブラックウッドで元反乱軍とカツミとの、最後の戦い。結果的には勿論、カツミの勝利。
だが敵リーダーである『猫姫』ことサンドラ氏が戦闘中、正体不明の術を使用。これによりカツミは負傷したと、記録にはある。後の研究・検証によれば、サンドラ氏の使った術は恐らく、『雷』の術であったのではないか、……か。そうか、『雷』の術は有効なのだな。
また、南海でのトライン導師との戦いで、カツミは一度敗れている。後に逆襲したとは言え、カツミが倒されたのは事実。……それも、『風』の術で。
稀代の魔術師と称されるあの男が、魔術による戦いで二度も苦戦しているのか。ならば、魔術をメインに据えた布陣を敷けば、あるいは……?)
ドミニクの頭の中に、大火を倒すシナリオが組み立てられていった。
そして499年、12月19日深夜。
ドミニクの部隊は、大火が央北の商業都市、サウストレードに滞在していることを突き止め、静かにその街へと向かった。
《『弓』より『金矢1』へ、『鴉』の様子は?》
散開し、あちこちで見張らせている部下たちとドミニクは、手信号で合図しあう。
《『金矢1』より『弓』へ、現在『鴉』は大交渉記念ホール前の広場で停止しています》
《了解。『弓』より『銀矢1~3』へ、包囲準備は万全か?》
追加で部隊に編入させた魔術使いの兵士に、最終確認を行う。
《『銀矢1』より『弓』へ、準備整いました》
《了解。『金矢1~5』へ、強襲準備は万全か?》
元から参加していた兵士たちからも、「準備が整った」と返事が返ってきた。
《了解。……『矢』に告ぐ。作戦開始だ》
ドミニクが手を挙げると同時に、大火がいる広場で炸裂音が響いた。
(始まった……。いよいよ作戦が、始まってしまった。
カツミは魔術攻撃に対して、相当無防備らしい。それは二度の苦戦で、明らかにされている。自身が優れた魔術師であるが故に、他人の術など評価にも値しないのだろう。
だが、そこが何よりの隙なのだ――一瞬でも奴の魔力を上回る攻撃ができれば、奴の油断も重なって、かなりの打撃になる。そこで畳み掛けられれば、勝機は見出せる!
そのために、軍へかなりの無理を注文した。魔力を引き上げるための装備拡充、瞬間的に術の威力を高めるブースト術の開発、3名の魔術兵の連携、さらには歩兵たちに対魔術用の重装備を――恐ろしく費用がかかった。この作戦が失敗すれば、私が軍を追い出されるのは必至だろう。
……ははは、それよりもカツミに殺される方が先か)
「神に祈ってどうなる」と前任者に怒鳴りつけたドミニクだったが、今この瞬間、彼は懸命に祈りを捧げていた。
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どうかこの、『鴉狩り(レイブンシュート)』を成功させてください)



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勝率を何で量るか?
・・・っていうのは結構微妙ですよね。
リアリズムに考えたら、勝率は曖昧で、データ上の話になりますからね。10%あれば十分。という作戦もありますからね。
・・・っていうのは結構微妙ですよね。
リアリズムに考えたら、勝率は曖昧で、データ上の話になりますからね。10%あれば十分。という作戦もありますからね。
- #729 LandM
- URL
- 2012.04/05 07:42
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これは部下を安心させるための方便ですね。
実際、50%と豪語しても負ける時は負けるわけですし。