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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第6部

    蒼天剣・九悩録 6

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    晴奈の話、第326話。
    ドミニクV.S.大火。

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    6.
     大火は何故、そこにいたのか? 一体何をしていたのか? それは分からない。
     しかしドミニク隊にとって、彼がそこで突っ立っていたのは千載一遇のチャンスに他ならなかった。
    「……」
     大火は目をつぶって腕を組み、一言も発さずにその建物の前に立っていた。
     そこは200年前、中央政府と金火狐財団が央中の利権についての交渉を行った議事堂である。「大交渉記念ホール」と名付けられ、歴史に名を残す建築物として、サウストレードの観光地の一つとなっていた。
    「……クク」
     大火が目を薄く開く。それと同時に、バリバリと言う耳をつんざくような爆音が響いた。

    「『サンダースピア』!」
     魔術兵3名が、三方から雷の槍で大火を貫く。三つの槍の交差点には凄まじい電気エネルギーが集まり、周囲の空気が一瞬でカラカラに乾いた。
    「……どうだ!?」
     魔力を高める装備に強化術、そして三人がかりの高出力魔術――並の人間ならば、この時点で跡形もなく燃え上がり、蒸発している威力である。
    「ク、ク……、な、る、ほど、なるほど」
     だが、笑いを押し殺したような声が聞こえてくる。魔術兵たちは一様にゴクリとのどを鳴らし、大火の様子を探る。
     と、まるで攻撃した者たちに講義するかのように、大火の声が返って来る。
    「通常の、……15、16倍と、言うところ、か。流石に少し効いた、な。悪くない戦法だ」
     大火の黒髪はまるで古びたほうきのようにうねり、真っ黒なコートもブスブスと煙を上げている。
     だが、大火が髪を撫でつけ、コートの裾を払うと、それらは何事もなかったかのように、元通りになってしまった。
    「無傷……!?」
    「まだだ! まだ、もう一発!」
     魔術兵たちはもう一度、雷の槍をぶつけようと呪文の詠唱を始めた。それと同時に、大火がユラリと動き出す。
    「動くな、カツミいいいぃッ!」
     すぐに強襲要員の兵士5名が広場に乗り出す。
    「む……」
     大火は素早く刀を抜き、逆手に構えて左からの初弾を防ぐ。だが反対方向から別の兵士の剣が、大火の右肩を狙って振り下ろされた。
    「覚悟おおおぉぉッ!」
    「『覚悟』だと?」
     しかし剣の刃はコートの表面で止まり、大火の肉や骨を断つには至らない。
    「でやあああッ!」
     続いて槍を持った兵士の、三撃目の刃が大火の腹を狙う。そして四人目、五人目となだれ込み、大火に集中攻撃を仕掛けていく。
     しかし――どの攻撃も大火の刀か、あるいは彼が着込んでいる「漆黒のコート」に阻まれ、まったく通らなかった。
    「俺がお前らに対して、何を覚悟すると言うのだ?」
     大火は初弾を入れた兵士にすっと近寄り――皮手袋をはめてはいるが――剣の先端を手で握る。
    「う……あ……」
     兵士の顔がみるみる青ざめる。
    「むしろお前の方に、覚悟がいるだろう? この俺に刃を向けたらどうなるか、知らぬわけではあるまい」
     大火がつかんでいた剣がギチギチと奇怪な音を立て始め、先端が大火の掌と指の形に変形していく。
    「お前ら全員、生きたまま明日の朝日を見られると思うな」
     みぢっ、と言う怖気の走る音とともに、剣が握り潰された。

     RS作戦の開始から2時間が経った。
     辺りには妙に鼻を突き、舌がしびれるようなきな臭い匂いが漂い、また極度の乾燥によって、大量の霰(あられ)が降り注いでいた。
    「か……っ」
     大火の刀が、強襲要員の一人を左右真っ二つに断ち割る。残っている兵士は、既に3名となっていた。
    「も、もう一回……、もう、一回、……」
     唯一大火にダメージらしいダメージを与えた雷の槍を、魔術兵たちは必死で唱え続けていた。だが何度も己の身に余る魔力を消費してきたためか、三人とも顔色は蒼白を越えて真っ白になり、鼻や目からポタポタと血を流している。
    「もう、一、……」
     ついに一人が耐え切れず、大量の吐血と共に倒れた。
     離れて様子を伺っていたドミニクは舌打ちし、剣を抜いた。
    (魔術攻撃もこれまでか……! 強襲要員の攻撃も、まるで効いていない。
     ……私が討たなければ!)
     ドミニクは広場へと駆け出し、一気に大火の元へと駆け込んだ。
    「カツミ・タイカ! 私が相手だ!」
    「フン……、離れて傍観していれば、命くらいは見逃してやったものを。よくもまあ、死にたがりばかり集まったものだな」
     大火はそう言いながら、横にいた兵士の頭を斬り落とす。
    「……ッ! やめろ、相手は私だッ!」
     ドミニクは大火の頭を目がけ、剣を振り下ろす。大火はそれを後ろに退いて避けようとしたが――。
    「む……?」
     避けたはずの大火の左頬に、すっと赤い筋が走る。ここでようやく、大火の目に驚きの色が浮かんだ。
    「避け切れなかった、……だと? ふむ」
    「見切ってみるがいい、カツミ!」
     ドミニクはもう一度、大火を斬り付ける。大火は先程と同様後ろに退き、ドミニクの剣をかわした。
     が――大火が、左肩を押さえている。
    「……ふむ。避け切れなかったわけではなく、避けた先にもう一太刀仕掛けていた、か」
     大火はもう一歩退き、逆手に握っていたままの刀を脇に構えた。
    「驚くべきは、それを一振りの刀でやってのけた点だな。この一瞬で二太刀か」
    「これはどうだッ!?」
     ドミニクは先の二回よりもさらに早く剣を払う。一太刀、二太刀目は刀に阻まれ、避けられたが、三太刀目は大火の右袖をビッと音を立てて引き裂いた。
    「……! 流石に『雷』を食らいすぎたか。『神器』の力が弱まっているようだ」
     大火は破れた右袖を一瞬チラ、と眺め、すぐにドミニクへ視線を戻す。
    「それだけではないか。お前自身の腕も相当優れている。……なかなか楽しめそうだ」
     大火はニヤリと笑い、ドミニクに斬りかかった。



     それから何時間が、いや、何日が経ったのか――ドミニクは中央軍本部の医務室で、目を覚ました。
    「……!?」
     起き上がろうとしたが、全身に刺すような痛みと耐えがたい倦怠感がまとわりつき、指すら動かせない。
    (私は……? 一体、どうなったのか……? カツミは、殺れたのか……?)
     その問いに応える代わりに、窓の外でカラスが笑うように鳴いていた。

     半月後、ドミニクはRS作戦に参加した部下が全員死んだこと、サウストレードから軍本部までは、標的の大火自身が彼の身柄を運んだこと――即ち、RS作戦が失敗したことを知った。
     ちなみに大火が何故、ドミニクを軍まで運んだのかは不明だった。

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    2016.07.28 修正
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